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第十九話 敗戦前前夜

短期間開発に苦しんだトラウマ持ちの人は閲覧注意

 予想外が発生するのは織り込み済みだ。


「なぁアイズ、今突然後頭部に痛みを覚えて終わったんだが、何が起こった?」

「マニピュレータの可動範囲の設定ミスだね。

 前方への範囲が広すぎて頭を強打してる」

「各マニピュレータの可動範囲と俺を重ねてみて」

「了解」

「頭だけじゃなくて手も足もぶった切られるな、コレ」

「可動範囲は変更するけど、戦闘中は邪魔になるからなるべく動かないでね」

「こうなると俺は完全に生体パーツだな……」



 マニピュレータの動きが想定と違っていたり



「動かしてたら突然マニピュレータの関節が逆回転して先端が顔を強打したんだけど、何か心当たりはないか?」

「ええ!?ログを確認しますね。

 入力値は問題なさそうなんですけど……再現確認良いですか?」

「良いよ。じゃあアイズ、適当にその辺りに展開して動かしてみて」

「データを取るなら同じ状況を再現した方がいいね」

「え?また殴られるの?」


「聖剣回路に間違いがありました……

 修正したので、今度は平気だと思います」

「よし!バブルスフィア展開!

 アイズ、もう一回同じ入力お願い」

「了解。いくよ」

「おu


「パラメータにも問題がありました……

 ごめんなさい!」

「いや……いい……俺にも経験がある……」


「あの……水平展開漏れ……ごめん、なさい……」

「……気にするな。

 ……俺も、よくやる」

「でも、首痛くないですか?さすりましょうか?」

「バブルスフィアから出ると痛覚は消えるから問題ないね。

 幻痛が残る人もいるけど」

「それならいいんですけど……でも、膝を貸すので休んでください!」

「…………」

「膝!貸します!」

「……ありがとう。

 じゃあ休んでる間に不具合対応しようか。

 アイズ、手伝ってくれ。同様の回路を検索」

「了解」

「次からは気を付けます」



 動きの修正に痛みを伴ったり



「俺に足りないもの、それは!

 情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!

 そしてなによりも!速さが足りない!!」

「対応前よりもだいぶ早いんですけど、それでもワンテンポ遅れてるみたいですね。

 どこで遅れているのか調べましょう。

 アイズさん、動作のセクションごとの平均経過時間をまとめてもらえますか?」

「了解。時間がかかってるのは防御行動算出だね」

「つまり……俺の頭の出来が悪いから行動に間に合ってないってこと?」

「ち、違います!きっと……そう!学習が悪かったから効率的に反応できないんです!」

「つまり、俺の学習能力が低いと?」

「違いますー!そういうことを言いたいんじゃないですー!」


「魔法による思考速度の高速化でなんとか食らいつけるようになったけど、切り払えて2,3回、それを超えると対応できないか、角度が悪くてマニピュレータが切り飛ばされるな」

「解析したけど、速度は問題ないね」

「そうなると、取った行動自体が悪いという事かな。

 学習がうまくいっていない……というより、正技さんの反応速度と技の精度が高すぎて、攻撃のバリエーションが多すぎるという事か」

「何とかなりそうですか?」

「時間が足りないし、時間があってもどうにかできるかはわからないし、学習データが設定が正しいのかもわからない……

 いや、そもそも正技さんだって戦闘中に学習するんだ。今までのデータだけに対応したところで、逆にすぐに対応される可能性が高い。

 設計から考え直さないと……」



 システム自体の見直しを行ったり



「クソゲー無理ゲーもう止めてー!」

「少し休憩しましょう!お茶を入れますね」

「甘いもの……みかん……冷凍みかん……」



 ストレスと疲労からみかんパーティーが始まったりするのも織り込み済みだ。

 ただ、それと解決方法が導き出せるかどうかは別問題だったが。

 残り時間は今日を含めて二日。それまでに最低限戦えるまでに準備を完了させる必要がある。



「問題はフェイント。それに伴う大量の選択肢。その中から最善の防御行動を選ぶ。つまりは戦闘思考(・・・・)

 それこそが一番のノイズだったわけだ」


 アイズにダミー正技さんの行動ルーチンを変えてもらいながら十数回首を飛ばされた結論がそれだった。

 複数の選択肢から最善を自動で選んでくれるのは非常に有効なのだろう。

 しかし、相手の方がセンスも経験も上となると邪魔でしかなくなる。


「人間の脳に戦闘によるデータを機械学習させると、勝手に心理戦を始めてしまうというのは、完全に盲点だった。

 同じ入力に対して、同じ出力にならないとなると、調整が厄介だ。人によってのブレも大きくなるしな」


 技術としては非常に有用で、短期学習などに採用はできるだろうが、学習したすべての人物に対して同じ結果を保証できないというのはシステムとして欠陥だろう。

 例えこのまま繊細なチューニングを続けて勝てたとして、俺以外が同じことをしても俺しか最良の結果にならないのなら、そんなものは技能(ギフト)と同じだ。


「防御行動の学習については、個人差が出る。それがわかっただけでも前進したんだ。

 残念だが、防御行動の学習についてはいったんは忘れて他の手を探るか……」


 ダメなものは諦め、気持ちを切り替えていかなければ。


「でも、マニピュレータの操作指示は完璧に動いてますよ。

 最速ではないかもしれませんけど、十分許容範囲内です。

 防御行動から、マニピュレータ操作だけ抜き出すことは出来ませんか?」


 雪奈がデータを確認しながら意見を出してくれる。


「なるほど……でも防御行動の算出とマニピュレータ操作は纏めて一つの学習だからなぁ……

 いや、でもAIでの機械学習と違って、人体を使った学習なら行けるかもしれないな」


 後でシステムを組み替えて確認してみよう。


「でも防御行動の算出についてはどうしようもないよなぁ」


 防御行動……つまりは相手の攻撃に対して、どのような角度でこちらの剣を合わせるか。

 言い換えれば、剣による直線行動に対して最も有効な角度計算だ。

 角度計算?

 …………まさか。


「アイズ、今更だけどさ、もしかして相手の攻撃角度がわかれば、最適なこちらの攻撃角度もわかる?」

「……確認完了。

 わかるね。それくらいの計算なら簡単だ」

「相手の直前の動きがわかれば、相手の攻撃角度はわかる?」

「フェイントを使われなければわかるね」


 やっぱり……俺は馬鹿だ大馬鹿だ。

 今更になって気が付くなんて。


「アイズさん、なんでそこまでわかるんですか?」

「バブルスフィアにダミー正技の情報を設定したからね。

 行動パターンや思考ルーチンはバブルスフィア側が処理してるけど、動作を動画から解析してモデルを作成したのは僕だよ」

「……あ」


 雪奈も気が付いたらしい。

 俺たちは正技さんについて最も詳しいデータを無視し続けていたわけだ。


「でも、なんで教えてくれなかったんですか?」

「僕の役割は、訊かれたことに答えることだからね。

 僕自身、マスターに訊かれるまで思い至らなかった。

 うん、これは学習するべきことだね」


 アイズは何ら感情の籠っていない声で回答する。

 まぁ、アイズがAIなのかリモートで作業している人なのかはわからないが、その本質はユーザの入力に対する出力だ。

 入力なしに出力は行わない。

 それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、重要な彼あるいは彼女の個性だろう。


「そうだな。俺もこれからはもっと気軽に尋ねることにするよ」


 適度に考えさせてあげることも、世話になることも(・・・・・・・・)アイズを擁する聖研究所の仕事なのだろうから。


「じゃあ質問。俺の脳内から取得した行動予測から防御行動を算出する場合、問題として考えられることは?」

「……確認完了。

 シミュレートした結果、2点重要な問題を確認。

 一つ目。マスターは眼鏡(D-Seg)で僕に計算をさせようとしているという認識だけど、それだと計算速度が間に合わない。

 計算にサーバを使う場合、計算は十分間に合うけど、通信速度がネックになるね」

「なるほど……」

「二つ目。僕が計算した防御行動が正しいのはフェイント、あるいは入力された行動予測が正しい場合。

 高度なフェイントをかけられた場合、動画にない型で攻撃された場合は対象外で動きは保証できないね」


 これくらいなら、工夫で何とかなる程度の問題だな。


「一つ目は俺の脳を使おう。使ってない領域を情報系の魔法で仮想電脳領域にして、そこにアイズを迎えて計算してもらう。

 それなら足りるか?」


 一番近くて高性能な外付けCPUを使う。もっとも一般的な解決方法だ。


「普段使ってる領域と、今回DAで使う領域を引くと……ギリギリ足りるかな」

「あの……それって危険じゃないんですか?」


 雪奈が心配そうな声をあげる。


「バブルスフィア内で発生したダメージはバブルスフィアから出ると消える。

 記憶とか情報とか、ある程度残すのは指定できるけどな。

 でも今回の脳領域使用は消すように設定できるから、あとで影響が残ることもないさ」


 今までの機械学習にしても、バブルスフィア内で学習し、学習結果だけを外に保存して頭の中は元に戻していたわけだし。


「それもありますけど、脳内にアイズさんが入って、見られたくないものまで見られたりしませんか?」


 プライバシー的な問題かぁ……


「仮想電脳領域と脳内の仕組みは全く別だから、仮想電脳領域外の情報は覗けないはず……

 まぁ、俺みたいな平凡な一般人は見られて困る情報なんか何一つ持ってないけど」

「知られたくないものとかありませんか?好きな女性のタイプとか……」

「それならすでに知ってるから問題ないね。

 常日頃の言動から予測は立ててるし、マスターのPC内に保存されている画像データと動画データは常に監視してる」

「まて!脳内以外のプライバシーは守られていない!?」


 アイズの衝撃的な発言に動揺し、つい叫んでしまった。

 まさかこの間CGデータを要求してきたのは、それを悟らせないためのブラフだったとは!


「ああ、安心して。雪奈のPCは確認していないから。

 ちなみにマスターの好みは知的で理的で理性的な僕みたいなタイプだね」


 確かにそうだけど、今のセリフで好感度が爆下がりしたんだが……


「知的で理的で理性的で可愛い妹的……私ですね!」

「ああ、うん、そうだね」


 雪奈の素敵なボケをうまくかわしたので、話を戻そう。無理矢理に。


「とりあえず一つ目は仮想電脳領域を使えば問題ないな!というわけで二つ目!

 フェイントや情報にない行動については仕方がない。

 だから、フェイントや想定外行動に対応できるよう、複数のマニピュレータを同時に動かそうと思う」


 俺たちの使用するのは自身の腕ではなく外付けのマニピュレータ。

 つまり複数用意することができる。今も4本のマニピュレータを用意して試験していた。


「一本目を本命、二本目をサブにして、フェイントだということを認識次第にサブでの迎撃に移行する。

 マニピュレータを左右一本ずつ増やして、最大三段階で対応できるようにすれば解決できると思う」

「サブは突然動きが変わった時に対応できるように位置取りをしておくんだね。

 ……それなら行けると思う」


 左右三対合計六本。まるで阿修羅だな。

 俺の両腕を含めると八本でカニになるが。




「よし、これで対応方針は決まった」


 アイズから他の問題はなさそうだという回答を貰ったため、最終的な動きを確認する。


 1.身体の各所に設置したDAカメラで正技の動きを撮影

 2.撮影したデータはリアルタイムでユーザの脳内に送信

 3.脳内で画像解析し、行動予測

 4'.行動予測をD-Segに送信

 4''.D-Segでアイズが防御行動を計算

 4'''.防御行動をユーザの脳内に送信

 4''''.脳内で防御行動に必要なマニピュレータ操作を計算

 5.防御行動に必要なデータをDA副椀に送信

 6.入力に従いトルク制御操作でDA副椀が動作


「4番が4段階に分かれたということですね!」

「そうだな。問題は4''''のマニピュレータ計算が今までの防御行動計算から切り離せるかだが……

 これは頑張ってやってみるさ」


 直接結果を取り出すことができなくても、望む結果を導き出せるように入力値をいじる等の対応も考えられる。

 不可能ではないはずだ。


「じゃあ、作業を始めるか」


 残り時間は少ない。

 今日は徹夜になるだろう。





 Problem of Program - 了

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