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第十七話 服を褒めたお礼に悪夢を見た

 初めて知ったのだが、二日酔いを治す聖剣(DA)はまだ存在していないらしい。

 噂では「酔い覚まし」属性が確認されているとのことだが、解析されていないので未だ技能(ギフト)扱いだそうだ。

 しかし、二日酔いをごまかすDAは存在している。

 教授は少しだけマシになった顔色で、足をふらつかせながら出勤していった。


 ちなみに悪酔い予防のDAも存在しているらしい。

 予め使っておけよ……


 少し後に俺も学校へと向かう。

 校舎まで徒歩で五分。快適だ。


 朝のホームルームまで友人たちと本日発売の週刊少年ジャンクの感想と考察を話し合っていると、今日は珍しく麗火さんが登校してきた。

 剣聖生徒会の仕事が一段落して余裕ができたのだろうか。

 俺の視線に気が付くと、麗火さんは少しだけ微笑んだ。

 ……ふむ。


 ホームルームが終わると、生徒たちは自分たちが受講している科目に合わせて移動を開始する。

 俺の今日の一時限目は熱量操作系統の授業だ。講義室に移動し、適当に端の方に座ると、少し離れて麗火さんが座った。

 チラチラとこちらを見てくる。

 俺は挨拶しようかと思ったが、その前に俺と麗火さんの間に灰色の髪の少女が割り込んできた。

 たしか、剣聖生徒会副生徒会長の厳島翠(イツクシマミドリ)だったか。

 彼女は以前会った時のように、俺を睨んでくる。


「……おはようございます、翠さん」

「……おはよう、良二」


 圧を凄く感じる。


「翠さんっていつもこの授業にいましたっけ?」

「少し復習したくなってな、一年ぶりに授業を聞きに来たんだ。何か問題があるか?」


 DAMAトーキョーの授業は選択式で、必要な時期、必要なタイミングで授業を受けられる。

 一年の初歩的な授業を三年になってから受けることもあるし、三年の高度な授業を一年の時から受けることもできる。単位はもらえないが、一度受講した授業を再度受けることもできる。

 だから、翠さんが参加することに問題はない。


「問題ないなら授業に集中しろ。始まるぞ」


 先生が講義室に入ってきて、部屋が静かになる。

 残念ながら、麗火さんに声をかけることはできなかった。

 なお、集中しろと言った翠さんは、ちょくちょく俺の方を睨んできた。




 朝に見たときから気が付いていたが、麗火さんは以前にあった時と少し違っていた。

 シマエナガがプリントされた可愛らしい浴衣もだが、何より彼女は眼鏡をかけていた。

 オーバル型のフルリム。フレームは細く、スマートで知的な印象を与える。縁を彩るピンク色が、彼女にとても似合っている。

 レンズの奥はゆがんでいなかったため、視力の矯正ではないだろう。

 ファッションの可能性もあるが、このタイミングというのが気になる。

 というわけで、簡単に確認するべく、アイズに要求を送る。


『アイズ、麗火さんと脳内チャットつなげられる?』

『デバイス検索……ヒット。

 通信接続……確立。

 チャットの開始許可確認…………OK。

 つながったよ』

『あれ?なにこれ……』


 脳内に麗火さんの声が響く。

 やっぱり、麗火さんも俺たちと同じく汎用簡易型思考制御眼鏡聖剣――D-Segが配られていたらしい。

 ずいぶんと戸惑っているようだが、アイズはちゃんと麗火さんにチャット開始の許可を取ったのだろうか?


『私は良二……今貴方の脳内に語り掛けています……』


 麗火さんにメッセージを送ってみる。


「……!?」


 横で麗火さんがびくりと反応し、こちらの方を見てきた。


『良二くん!?』

『おはよう、麗火さん』


 麗火さんは俺の返事に目を瞬かせるが、俺はあまり麗火さんの方を見ずに続ける。


眼鏡(D-Seg)を使った脳内チャット。初めて?』

『これが……ええ、初めてね』


 初体験を無理やり奪った形になってしまったのか。


『翠さんに気付かれると面倒だから、あまりこっちを見ないで』

『そうね』


 麗火さんが正面を向く。


「?」


 翠さんは麗火さんの反応に違和感を覚えたみたいだが、脳内チャットには気づいていないようだ。

 ちなみに、彼女も新しく眼鏡をかけている。

 麗火さんとおそろいで、オーバル型のフルリム。フレームの色は萌黄色だ。色は彼女の名前由来だろうか。


『麗火さんもモニターを?』

『ええ。

 この間剣聖生徒会でお仕事してたら、使ってみてくれって聖教授から渡されたのよ。

 忙しくてまだマニュアルも確認できていなかったのだけれど……』


 麗火さんは機械にあまり詳しくない。

 中学に入った時に持たされたスマホも、電話とメール、インターネットくらいしか使えず、何かあると涙目で相談されたっけ。

 数少ない、俺が麗火さんに勝っていることだ。


『使い勝手がいいし、秘密の相談もできるから使い方覚えておいた方が良いよ。

 後で使い方をまとめたメモを送る』

『ありがとう。

 あ、届いたわ。後で見とくわね』


 俺は送っていない。

 きっとアイズがやってくれたのだろう。


『剣聖生徒会の全員で使えるようにしておくことをお勧めするよ。

 校内の範囲なら見ている画像の送受信もできるし。

 ただ、翠さんには知られたら厄介かも』

『ふふ、そうね』


 何となく、隣にいる彼女は無用に不必要に連絡を取りたがる気がする。ただの勘だが。

 そしてそれは麗火さんも察しているようだ。


『あとそれと』

『なに?』


 俺には兄が一人いる。

 仲良くはないが、前に一度だけ重要なことを教わったことがある。

『大切な女性は褒めろ、話を合わせろ、歯向かうな』

 後で知ったことだが、兄に初めてできた彼女と別れた日だった。

 俺は先達の忠告はなるべく守る。だから気が付いたらちゃんと褒める。


『眼鏡、よく似合ってる。シマエナガの浴衣も可愛いね』

『 』


 反応がない。隣を見ると、麗火さんはじっと下を見ているようだった。

 何か問題だったか?翠さんに気付かれないようにチラチラ窺うと、麗火さんは少しだけ顔をそむけるように横の方を見て……髪型を見せているのか?


(アイズ、画像認識。前回会った時の麗火さんとさっき見た麗火さん。どこか他に違いはあるか?

 ……なるほど)


 アイズが写真に〇をつけて違いを示してくれる。もちろん俺の眼鏡にだけ投影されているので、他の人は見えない。


『髪型も少し変えたね。かんざしも綺麗だよ』


 これでどうだ。


『……良二くん』


 しばらくして反応があった。


『脳内チャットで相手を褒めるのは危険だから気を付けた方が良いと思うわ』


 ……なるほど。今後気を付けよう。

 けれど不快だったわけでないのなら、とりあえずは問題ないだろう。


『あと、褒めるのに他の人の意見を聞くのは止めた方が良いかな』

『ゴメンナサイ』


 不快だった。問題だった。

 しかしなぜバレた。女の勘か。

 横の方で、麗火さんがクスクスと笑うのを感じる。

 ……まぁ、生徒会長になってから開きがちだった距離が元に戻った気がするので、良かったとしよう。


 こうして俺たちは、久しぶりの日常会話を脳内で楽しんだのだった。




『良二くん、依頼の方はどう?

 対応方法の目途くらいはたったかしら?』


 授業の終わりが近づいてきたとき、麗火さんは唐突に切り出してきた。

 朝に目線を感じたのは、きっとこの事を話したかったからだろう。


『順調……ではないけど、進んではいるよ』


 俺もちょうど話したいことがあった。


『来週の金曜辺りに、一度正技さんと手合わせしたい。

 道場破りを申し込める?』

『もう戦えるの!?』

『造りかけのDAの動作確認程度だよ。実際に手合わせしないと問題点もわからない。

 いざ本番で何もできなかったら困る』

『それは解るけど……ずいぶん早いわね』

『授業の間も仕事してたからな』


 今日はずっと世間話して全く進んでいないけど。


『なるほど……D-SegでPCと連携して、授業を受けながらでも作業しているのね?

 それなら私のお仕事も捗るわね。今度試してみるわ』


 俺と脳内チャットしながら先ほどアイズから送られたメモを確認したのだろう。麗火さんはすでにD-Segを使った作業についてある程度理解しているようだ。

 麗火さんは最新機器はあまり触れていないだけで、飲み込み自体は早い。

 アイズの補助なしだとそこまで仕事は捗らないと思うが、剣聖生徒会には情報担当がいたはずだから、その人が手伝ってくれるだろう。

 今のD-Segの使用状況が後々フィードバックされることを考えると、近い未来その手伝いも不要になるかも知れない。

 聖教授が開発しているDA開発補助システムもあるし。


『了解。金曜日に申請を出しておくわね。

 それと伝えたいことがあるんだけど……』

『……?』


 麗火さんが言いよどむ。俺に何かを察して欲しいのだろう。

 前回麗火さんに会った時のことを思い出す。彼女には立場上伝えられない(・・・・・・)事がある。


(アイズ、セキュリティは?)

(念話を電子通信に変えて暗号化するね。

 ……OK。切り替えたよ)

(盗聴)

(周りにそれらしき反応はないね)


 相手が誰だかわからないが、さすがに授業中の教室内の念話については考慮してなかったという事だろう。


『暗号化したから問題ない。教えてくれ』

『追加情報よ。

 えっと……これで良いのかしら?』


 麗火さんから大量の動画データとテキストファイルが送られてきた。

 圧縮できていないところが麗火さんらしい。


『これは?』

『正技さんの練習風景の最新動画。それと、実家での練習風景。

 あと……天元流の技の詳細(・・・・・・・・)。いわゆる『奥義書』』


 ……なるほど。

 これが情報として渡ってくるということは、依頼者が絞られる。

 だから面と向かっては教えられないという事だろう。


『ありがとう。感謝する』

『それと最後に一つ。藤原正技さんの二つ名の由来』


 正技さんの二つ名……たしか『瞬きの一文字(ストレートフラッシュ)』だったか。

 イカした当て字なので覚えてる。


『動画には残っていないけど、入学直後に一度だけ神速の抜刀術を披露したらしいわ。相手は当時の風紀騎士団団長。

 見た人の『瞬きよりも早い一閃』という評価が二つ名の由来』


 風紀騎士団はいわゆる風紀委員で、武闘派なことで有名だ。その団長ともなれば、当時の筆頭剣士だろう。心当たりはあるが、現在は卒業して忙しいので会うのは難しい。


『なるほど……覚えておく。

 道場破りの時は、なんとかそれを引き出したいな』

『道場破り、がんばってね』


 麗火さんから応援をいただくと同時にチャイムが鳴る。


 さて、沢山情報が増えたが、同時に課題も増えた。

 今ですらいっぱいいっぱいなのに、追加された動画の学習をどうするか。

 ……どうするもなにも、寝る時間を削らなければどうしようもない。

 でも、俺の脳内を使った機械学習なら、寝てる間にも脳内でいい感じに学習できるんじゃないか?

 よし、寝る時間を削って睡眠学習してみよう。


 アイズと協力してD-Segを改修、睡眠学習の機能を持たせ、バブルスフィア内で起動したまま一晩寝てみた。




 正技さんと麗火さんと翠さんに斬られ続ける悪夢を見た。





 Friday Night Nightmare - 了

この作品のメインキャラはどんどんD-Segを装着していくことになります。

最終的にDAMAトーキョーはメガネっ子とメガネ男子の巣窟となるでしょう。コワイ!



お読み頂きありがとうございます。


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