第十五話 自称右腕は休日中に家族と出会う
私――狐崎雪奈は先天的に身体が弱かった。
加えて色素が薄く、外に出るとすぐに肌は赤くなってしまうし、眩しいところでは目を開けるのもつらかった。
中学生になって体力は少しだけついたけど、学校に行くだけで疲れてしまうし、何より日差しは私にとって天敵だった。
お母さんがリモートでの授業が受けられる学校を探してくれて、私は登校することなく学校に通うようになった。
増々家に引きこもりがちになり、体力も全然つかなかった。
それが変わったのは中学三年の夏。お母さんの知り合いの、DAMAトーキョーに勤めている聖理子さんと、その生徒の良二さんとの出会いがきっかけだった。
私のことを知った理子さんがDAMAトーキョーに掛け合って、聖剣を用意してくれたのだ。
右手薬指に光る綺麗な指輪。良二さんが造ってくれた体質改善、身体補助、UVカット、その他もろもろの機能を持つ聖剣。
最近DAの作り方を勉強するようになって、その緻密さと繊細さに驚いた。やっぱり良二さんはすごい。
DAMA外にDAを持ち出すのは色々と条件があるから実家を離れDAMAに住むようになったけど、良二さんも理子さんも優しいし、元から学校にはリモートで通っていたから辛くない。
毎日外で運動するようになって体力もついたし、お料理とかDA開発とか、色々なことができるようになった。
絶対にDAMAに入学して、今の生活をつづけたい。
それはそれとして、実家に帰るのは楽しみだし嬉しい。
今日は月に四日間のDA持ち出し許可日。
三泊四日で、一日だけ学校にも行く。
木曜の夕方から日曜の夕方までの、私の休日だ。
「ただいまー!」
私が一月ぶりに家に帰ると、すぐにお母さんが迎えに来てくれた。
「おかえりー!」
両手を広げて迎えてくれたので、そのまま玄関で抱き合う。
ちょっと大げさだけど、少し前の私の身体のことを考えると、仕方ないのかなと思う。
駅まで迎えに来ないだけ、ずいぶんマシになってるし。
「何で駅でメールくれなかったの?」
「メール出すとお母さん迎えに来るじゃん」
もうすぐ高校生なのに、お母さんにお迎えされるのは恥ずかしい。
「お父さん!雪奈が冷たくなったー!」
「大人になったんだよ」
お母さんがリビングにいるお父さんに声をかけると、お父さんが答える。
私がDAMAのシェアハウスに住み始めたころは、お父さんもずいぶんと心配してたけど、今では慣れたようで普通にしている。
「お姉ちゃん、おかえり!」
二階から妹の優花が降りてきた。
「ただいまー。優花は元気にしてた?」
「元気だよ!
ねぇお姉ちゃん、DAMAの話聞かせて!」
優花は魔法や聖剣について興味があるらしく、私が帰ってくるたびに話をせがんでくる。
「うん、荷物を置いてきたらね。
良いものも持って帰ってきたよ」
「わーい!」
優花が私から荷物を奪って階段を上って行った。
うんうん、見ていて嬉しくなるくらい元気だ。
「姉ちゃんおかえり。
なに?聖剣持って帰ってきたの?大剣?格好いいやつ?」
入れ替わりに弟の優月が顔を見せる。
名前でも察しが付く通り、優月と優花は双子だ。もちろん優月が兄。
私たち三人そろって雪月花。
「違うよー。でも格好いいやつ」
「ふーん」
そっけないけど、凄い興味を持ってるのがわかる。
「…………!」
最後に、家の奥からラブラドールのラブラが姿を見せる。昔は一番に突撃してたけど、今は家族を優先してくれる優しい子。
でも、一番長い時間近くにいてくれる可愛い子。
頭を撫でてあげると、千切れるんじゃないかと思うくらいしっぽを振ってくれた。
帰って早々、家族全員に出会えた。
「やっぱり実家っていいなあ」
家の奥からは私の好きなカレーの匂いがする。
ちゃんと味を覚えて、あとで良二さんと理子さんに作ってあげないと。
「じゃ~ん!これが今の私の制服です!」
夕飯を食べ終え家族団らんタイム。私は家族に白学ランと白衣を着て見せた。
学ランも白衣もれっきとした聖剣のため普通なら持って帰ることは出来ないけど、良二さんが「許可はとったから家に持って帰って家族に見せてやれ。喜ぶから」と渡してくれたのだ。
「お姉ちゃん格好いい!」
「姉ちゃん何それ凄いな」
優月と優花が目を輝かせる。
「それが良二くんが写真と動画を送ってくれた衣装ね!
可愛い!!」
お母さんがはしゃいでスマホで写真を撮る。
良二さん……いつの間に写真を送ったの……
あと、いつ撮影したの?どうやって?盗撮?
……ああ、スマートグラス!あれで撮ってたんだ!!となると、アイズさんもグルかぁ……
複雑な気分になるけど、嬉しそうにしているお母さんを見ると、写真を撮って送ってくれた良二さんの気持ちもわかる。
離れて心配してるお母さんを喜ばせたかったんだろう。
「あら?眼鏡はかけないの?」
「眼鏡は持って帰れなかったんだ」
D-SegはDAMAトーキョーの最新技術。外には持ち出せない。
「これもDA……聖剣なんだよ」
白衣をつまみ、優月と優花に教えてあげる。
「服なのに?」
「服なのに。前にも言ったでしょ?魔法を使ってる道具は全部聖剣なの」
「それじゃあ、何の魔法がかかってるの?」
優花の質問に、私は両手を腰に当て、胸を張ってこたえる。
「すごい硬くてすごい丈夫。汚れない!」
「ふーん」
反応薄いな。でもここからだ。
「どれくらい凄いかというと、溶岩に入っても20分は平気」
「すごっ!?」
「水中でも呼吸できる。雨にも濡れない。トラックに跳ね飛ばされてもかすり傷一つできない。ナウマンゾウに踏まれても大丈夫。飛行機から落っこちても無事」
「え……何でそこまで丈夫なの?逆に怖い……」
あれ?言い過ぎたかな?
「他にも、夏は涼しく冬はあったかい。夜道が怖くても光って安全!」
魔力を込めて白衣を光らせてみる。
「光った……本当に聖剣なんだ……」
私の言葉を信じていなかったのか、優月がペタペタと白衣を触る。
「モンスターと戦ってるの?」
お母さんが撮影を止め、心配そうに尋ねる。
「違う違う」
誤解を解かないと。
えっと確か……
「今は『バブルスフィア』っていう仮想空間で作業するから全く危なくないんだけど、昔はそうじゃなかったから、作業服として丈夫な制服を作ったんだって。
DAMAまでモンスターが襲ってくることもあったらしいし。その名残」
実際には、バブルスフィアを展開していない時にDAが使用された場合や事故があった場合に身を守るためだけど、それを話すと心配させるからやめておく。
「そうなんだ、安心した」
お母さんがほほ笑む。
「それで、理子さんや良二くんとは仲良くやってるのか?問題はないのか?」
お父さんがラブラの頭をなでながら聞く。
「仲良くやってるよ。私の作ったご飯も、おいしそうに食べてくれるの!
今も良二くんと一緒にすっごいDAを作っててね、仕事も割り振ってもらって、ちゃんとできると褒めてくれるんだ!」
「……仲良くもなりすぎるなよ」
「?」
何のことだろう?仲良くなるのは良いことでは?
そう思ってお母さんの方を見ると、何やらニヨニヨ笑ってる。
「どうかしたの?」
「なにも~
そういえば、月曜面接なんですって?」
「うん。良二さんのお手伝いで聖剣を作ったんだけど、それがちゃんとできたから筆記試験免除してくれるんだって!」
気が付かなかったけど、切れ味超次元包丁くんを作った時点で、私の実績は十分だったらしい。
良二さんが報告してくれて、私は無事試験合格になった。
期間を繰り上げて受けることになった面接では、包丁くんの説明ができれば問題ないとか。
「姉ちゃん聖剣作ったの?どんなやつ?」
優月がぐいぐい迫ってくる。
「ごめんね、DAMAの研究は発表するまで外で喋っちゃいけないんだって。
代わりに、これを持ってきました。
汎用瞬間冷却式冷凍蜜柑製造聖剣『DA冷凍みかん君-改』!」
私が一度3DプリンタでDAを出力してみたいと言ったところ、良二さんがCADを用意してくれ、私がそれを改良して3Dプリンタで出力したのだ。
今回はタンブラーがペンギンさんになっていて可愛さアップしているのがポイントだ。
「このタンブラーにみかんを入れて10秒で冷凍みかんになるんだよ」
私は実際にこたつの上のみかんをペンギンさんの頭部に入れて蓋をし、冷凍みかんに変える。
「はいできた」
「おお、すげー」
「優月と優花もやってみる?魔力があればできるかも……」
「「やるやる」!!」
二人でDA冷凍みかん君を奪い合う。
こうして初日の夜は過ぎていく。
D-Segは持ってきていない。
PCも持ってこれなかった。
良二さんに仕事を優先したいといったけど、
「間に合うから気にするな。家族孝行するのが俺たち中高生が親にできる一番の仕事だよ。それにもうすぐ卒業だろ?
中学の友達と同じ教室で勉強できる機会はもうないんだ。行かなきゃ後で後悔するぞ」
と言って無理矢理送り出してくれた。
心配だけど、凄い嬉しかった。
「余裕があるから、俺も週末は休む」と言ってたし、ゆっくりしてるかな。
日曜の夕方。私はDAMAトーキョーのシェアハウス兼研究室に帰ってきた。
これから、また研究と勉強の日々が始まる。
「ただいま!!」
Daman Holiday - 了
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