第十二話 一歩進めば相手のさらに遠きを知る
麗火さんは言っていた。
正技さんの研究により、効果が200%に向上したと。
これを考慮すると以下となる。
・空間切断は、空間切断でなければ防げない
・先にこちらのDAの機能が停止する。
つまり、俺たちが1秒間起動できる最新式空間切断DAを用意でき、正技さんの攻撃に完全に反応できたとしても、1.1秒後には機能停止した最新式空間切断DAごと首を切られるわけだ。
よって一秒以内に正技さんを切らないと勝てない。
「だがしかし、これは道理に合わない」
道場破りの動画では、最初に剣を合わせてから、一分以上耐えたものがあったからだ。
「違う属性で対応しているか、DAに工夫がされているか、切断されない立ち振る舞いがあるということだな」
「動画の再確認が必要ですね!アイズさん、戦闘時間が長いものをピックアップしてください!」
「了解」
人の振り見て我が振り直せ、人は敗北から多くを学ぶ。
何故対戦者が戦うことができたのか。何故対戦者が敗北したのか。その解析が必要だ。
アイズにまとめてもらった動画を再確認する。
回避特化、中遠距離特化を抜かすと、道場破りで善戦したのは三人。
一人は多刀流。複数のDAをうまく使い分け、クールタイムを消化している。
空間切断は2秒おきに1秒使える。つまり、三本DAを用意すれば、計算上絶え間なく使えるわけだ。
しかしそう上手くいくはずもなく、管理をミスり押し切られている。
もう一人は他の空間干渉と斥力の組み合わせだろうか。
正技さんの刀が中空で弾かれたり、空間に固定されたりしている。
しかし条件が色々あるのか、連続稼働は無理のようだ。最終的に速度に対応できず首を刎ねられる。
最後の一人は真っ向から渡り合った。
刀を弾き、反らし、受け流し、巧みに防御する。
さらに正技さんのDAのクールタイムに攻める姿勢も見られる。
技については正技さんより上かもしれない。しかし、力と速度は正技さんの方が上だったのか、挑戦者の技に制限があるのか、次第に削られていきDAを折られ降参した。
「一人目。武器の複数使用は良い案だと思う。
でも、この戦い方は真似できない」
武器を持ち変える暇などないからか、一人目は予め大量のDAを用意していた。
右手左手のみならず、両足肘膝踵に至るまでDAを仕込み、曲芸のような戦い方をした。
しかしその戦い方は一朝一夕では真似できないため一月後までに用意することは難しい。
「二人目。空間切断同士で切り結ぶのではなく、他の空間属性で盾を作る。いいね。
さらに斥力で近づかせないようにする。良い防御だ。
速度対応とDAの使用の判断については改良できるだろう。
でも、この動き、何の属性か全然わからないんだよなぁ……そもそもDAを使ってるのか?
アイズ、何か知ってるか?」
「個人情報検索……
『反発』属性と『空間障壁』属性の可能性が高い。
両方とも技能だね」
「はい、無理。参考程度にとどめよう」
技能は解析が完了されていないため、再現は難しい。
「三人目。これは……いったい何をやってるんだ?
アイズ、スローモーション再生」
空間切断に触れると、通常のDAでは一方的に切断されてしまう。
それなら、このDAが特殊なのだろうか?
「アイズさん、正技さんのDAの、空間切断の効果がある場所だけ色を変えられますか?」
「判定……うん、大体わかった。色を付けるね」
雪奈がアイズに指示を出し、アイズがそれに従う。
自分から率先して行動してくれるのが凄い嬉しい。
これが父性か。
「やっぱり……空間切断は刃のほんの先端だけ効果があるんですね。
そこに触れなければ斬り合えるみたいです!」
「なるほど……雪奈、よく気が付いたな」
「えへへ……」
雪奈が頬を染めてはにかむ。
「空間切断について勉強したとき、回路に対してどういう風に現象が発生するのか書いてあったんです!
私のDAがすぐに壊れちゃったのも、回路を大きく、いっぱい書きすぎちゃったせいで、負荷が大きくなったんだと思います」
なるほど、事前にしっかり勉強したのが役に立ったか。
知ったことをきちんと反映できるのは漫然と流し読みせず、読みながら理解した証だ。
ちゃんと原因を解析できるのもいい。
本当に基本的なことだが、才能があってもそれができない人もいる。
上手くいかなかったときに深く考えず、手当たり次第試してみる人とか。
それはそれで研究や開発に有用なこともある個性だが、うちの研究室には向かない。
「つまり、普通に攻撃に対応するだけじゃなく、刀の側面を叩くなどして反らす必要があるわけだな。
さらに難易度が上がってきた……」
反射的に対応を行う方法については暫定的な対応方法は見つかったが、攻撃を反らす形に動く必要があるとなると、難易度はさらに上がる。
三人目が速度と筋力に押し負けたことを考えると、身体が正確に動けたとしても、身体のスペック差で完封される可能性も高い。
「あぁっー!どうするか……」
やることも問題も多いが、まずは一つ一つ片づけていく必要がある。
「雪奈は引き続き空間切断の勉強と、作ってくれた包丁の改良を頼む。
攻撃を反らす方向で対応するにしても、選択肢は多い方がいい。
俺は……とりあえず俺の肉体的に同じことができるか調べてみる」
「わかりました。空間乖離現象のことも詳しく調べてみます!
あ、でもその前に夕飯の支度をしますね!」
この研究所兼シェアハウスの料理当番は雪奈だ。
俺も作れるが、聖教授の「可愛い女の子が作ってくれた方が10倍美味い」というポリシーによって今は雪奈が担当している。
本人も拙いなりに喜んで料理しているから問題ないだろう。
それじゃあ、俺は夕飯まで研究室で首を切られるか。
こういうことは理論とかを検証するより、実際に体験した方が早いからな。
俺は研究室に入りアイズを呼ぶ。
「アイズ、例の対応がうまくいったとして、俺の反応速度はどれくらいになると思う?」
「2-3倍くらいと予想するね」
「じゃあ、俺の思考速度以外、速度1/3でバブルスフィアを展開」
バブルスフィア内の複写世界には情報を追加することができる。
そしてその情報は道具の追加だけではない。
制限はあるものの、特定の魔法を付与することや、物質に非破壊性を付与することもできる。
今回指定したのは、簡単に言えば時間の進みを1/3にする設定だ。
相対的に俺の思考速度と反応だけが3倍になる。
思考速度の加速や、体感時間圧縮は色々と制限があるため使わない。
「それじゃあ高速反応でどれだけ戦えるかなっと」
俺の目の前に現れるコピー正技さん。昨日とは違い、のっぺらマネキンではなく、人の姿をしている。
あ、ちゃんと作業続けてくれていたんだな、ありがとう。
そう考えていると、コピー正技さんが動き出す。前と違い、魔法抜きでも対応できる速度だ。
攻撃を認識してから身体を動かす。動かす。動かす。
粘度の高い水の中にいるように、なかなか体が動かず、俺の防御は間に合わないまま首に刃が刺さるのを感じる。
やっぱり、素の身体能力のままでは無理だったか……
首を刎ねられながら、俺はそんなことを考えた。
雪奈が夕飯の用意ができたと呼びに来るまでに、俺の首は5回空を舞った。
魔法で身体能力を強化すれば何とか動きは追いつくが、やはり技量と力の差はいかんともしがたい。
学習すればある程度マシになると思われるが、何かしらの対応をしなければ良くても善戦にしかならないだろう。
ちなみに夕飯は少し焦げたハンバーグ。中にチーズを仕込んだことが原因か、身は崩れ中から肉汁が溢れてしまっていた。
しかし、自室から出てきた聖教授はベタ褒めだった。どんな料理でもベタ褒めだが。
まぁ、美味しかったしね。
予定は残り2週間を切っている。
忙しい日々が始まる。
The First Step is Far From the Destination - 了
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