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幕間 あの人の目線を追って(ハッキング)

雪奈ちゃんの話ですが、モラル的にアレな感じだったり、男子のアレなシーンが出てくるので、そういうのが苦手な方はスキップ推奨。

 暇だ。


 明日からようやくDAMAに通うことになるけど、今更という感じが強い。

 普通なら明日に備えて準備したり制服を着てみたりするのだろうけれど、生憎私はこの白い学ランも白衣も着なれてしまっている。


 何時もなら良二さんとお話ししたり何かを造ったりしているけれど、残念ながら良二さんは麗火さんとデートに行ってしまった。二人きりの買い物という話だったけれど、絶対にデートだ。

 シュバちゃん先輩は二人は付き合っていない、付き合ったことはないと言っていた。それは正しいと思う。けれど二人に恋愛感情がないというのは間違っているように見える。

 そうでなければ、あんなにウキウキした様子でDAを造ったり、出かける準備をしたりしないはずだ。

 良二さんの眉を整えたり髪型を決めたりリップを塗ってあげたりするのは楽しかったけれど、思い出すと落ち着かない気分になる。


 ……麗火さんには期限付きで貸し出したけれど、まさか朝帰りしたりなんてこともあるのかな。

 卒業したというメグちゃんの話を思い出す。結局私だけ聞きそびれてしまったけれど、あらましだけは聞いた。年上の彼に流されるままに~ということらしい。

 良二さんは流されやすいと思うけど、麗火さんは変な雰囲気にならないギリギリまでしか攻められないので平気だと思う。

 私は麗火さんの臆病な恋を信じたい。


「ふぅ……」


 ため息をついてからそれに気が付いた。

 麗火さんは信頼できる人だ。良二さんに危険な依頼をしたのは良くないけれど、仕方がない事だったと納得している。何より、良二さんに何かあった時は後を追う覚悟があったのは間違いない。そこまでされると、私には何も言えない。

 誰かのために自分の身を焼いてしまうという意味では、二人とも似たもの同士かもしれない。お似合いだとも思う。


 けれど、それはそれとして、面白くないことも確かだ。

 これは感情の問題で――私にも何故面白くないのか解らない。


 予想はつく。私は三人姉弟の長女で兄はいない。けれど良二さんを兄のように慕っている。その兄が女の人に奪われようとしているからだ。

 けれど兄妹とはそういうものなのかな?もし私が誰かと付き合うとしても、弟は気にしないと思う。それに兄のように慕ってるけど本当の兄でもないし、そんなに長い時間の付き合いがあるわけでもない。


「う~ん」


 悩んでも答えは出ない。私の思考は万能じゃない。


 そうすればこのモヤモヤが晴れるだろうか。

 ……なんとなく、良二さんのことを知りたくなった。


「アイズさん、マスターが何しているかわかりますか?」


 何故と考えるまでもなく尋ねる。


「覗き見はマスターに禁止されてるので無理だね」


 アイズさんは何時でも良二さんを監視してるみたいだけれど、禁止された場合はちゃんと従う。

 けれど、禁止されているということは、禁止しなきゃいけないようなことをする予定なのかもしれない。


 そんなことを考えると、どんどんモヤモヤとしてきた。

 早急な良二さん成分の摂取が必要だ。


 今良二さんは何を見ているのだろうか。知りたい。変なもの(・・・・)を見ていないだろうか。


 ……何を見ているのか?そうだ見てみよう。今日は無理でも、普段良二さんが見ているものなら見れるかもしれない。



「アイズさん、マスターのD-Segに映っていた風景って観ることができますか!?今日のじゃなくていいんですけど!」


「観れるよ」



 よし、観よう。



 滑らか絶品プリンとDA紅茶オレを用意してこたつに入る。それでは鑑賞を始めよう。

 ディスプレイで観ようかと思ったけれど、どうせならD-Segに映してそのまま良二さんが見ているものを観た方が楽しいかも知れない。よし、そうしよう。


「何時のを見たい?」

「そうですね……学校に行ってる時のをお願いします!」

「それじゃあ適当に再生するね」


 目の前に校内の風景が投影される。これが良二さんが見ている光景……


「う~ん……あまり臨場感が無いですね」

「歩いているだけだからね」


 何時もの私よりも高い位置で、たまに見かける風景が再生されているだけであまり面白くない。


「紫月さんを見てた時は良二さんの視点!という感じがして面白かったんですけど……」

「あれは視覚野から引っ張ってきているからね。見え方が違っているよ」


 なるほど。焦点がはっきりしているから見ているという感じが出ていたのか。

 それならそれを再現できれば……


「アイズさん!D-Segは思考制御だけじゃなくて、ユーザーの視点からも操作を読み取ってますよね?

 メニューを選択したり拡大表示したりするときなんですけど……」

「してるね」

「ログは残ってたりしませんか?」

「残ってるよ」

「録画データと重ねて、焦点を再現で来たりしませんか!?」

「……確認中。

 可能だね。ちょっと待って」


 10秒ほど経って再生される動画の質が変わった。焦点が当たっているところがクリアに、それ以外の場所がぼやけて見える。


「これでいいかな?」

「完璧です!」


 これで普通に歩いているだけの光景も楽しめる。



 良二さんは教室から教室を移動しているようだ。

 見てはいけないものを観ている気がしてちょっとドキドキする。確かに見てはいけないものを観ているんだけど。でも良二さんなら受け入れてくれるはず!


 基本的に正面を見ているだけだけれど、人とすれ違う時にはその人の方に僅かに視点をずらすようだ。

 見る場所は顔、そして髪。たまに少しだけ見る時間が長いのは知り合いだからだろうか。

 相手が女性の場合、胸、顔、髪、服装全体、胸、脚。


 ……これが男性の視線。女性は男性の視線に敏感とは言うけれど、きっと感じている視線は実際の1/10程度じゃないかな。


 それにしても、やっぱり良二さんって……


 あ、胸の大きい人が、ゆさゆさと揺らしながらこちらに来た。

 ……4回。仕方がない。アレは私でも凝視してしまうくらいだ。良二さんに罪はない。


 私はD-Segをずらして下を見て手を当ててみた。

 やっぱり罪はある。



 そうこうしている内に教室にたどり着く。席は自由に座ることができる。良二さんは中央端の辺りに座った。

 教科書を出していると、隣に誰か座り、良二さんがそちらを見る。

 麗火さんだ。

 顔を見る。続けて髪、それからかんざし。耳元のピアスを見てからもう一度顔。唇や頬へ一瞬フォーカスする。

 その後身体全体を眺めて、ちょっとだけ胸の辺りで視点を止めて、机の上に出された手を見る。正確には袖から見えるブレスレットと爪。一通り見終わると、再度胸でちょっと止まってから顔に戻る。

 その後麗火さんの目を見ながら談笑する。音声はミュートだからわからない。


「凄いですね……」


 きっとあの一瞬で髪型の違いやお化粧、マニキュアなんかを確認したのだろう。

 これが気になる女性を見る男性の視線。


 授業が始まるまで時間があるのだろうか。麗火さんと長い時間談笑を続ける。

 良二さんが何か話す度、麗火さんがクスクスと笑う。


「…………授業が始まるまでスキップしてください」


 何故だろう。初めて見る麗火さんの表情に耐えられなかった。



 授業が始まる。良二さんはボウっとホワイトボードの方を見ている。視点はぼやけているので、何か考え事をしてるのかもしれない。


「この時は僕と話してDAの設計してたね」

「授業は受けてないんですか?」

「話を聞きつつ作業してるね。10分に一度ホワイトボードをチェックしてるくらいだ」


 光景が早送りされ、ホワイトボードをチェックするシーンまで移動する。けれど見ているだけだ。メモを取ったりはしていない。


「メモはD-Segに取っているね」

「手を動かした方が記憶できると思うんですけど……」

「僕にはその辺りはよく解らないね」


 アイズさんは覚えるという行動自体不要なんだろう。

 その後も授業は変わりなく続く。基本的にぼーっとして、たまにメモを取る。そして偶に―― 隣の麗火さんを見る。


「…………」


 その時の彼女の反応は様々だった。真剣そうに前を見ていたり、目が合ってニコリと笑ったり、ノートを取ってたり、目が合って微笑まれたり、目が合って恥ずかしそうにしたり、ひそひそ声で何かを話したり。

 目が合う回数多くないかな?


 そうこうしている内に授業が終わる。次の教室は同じ方向なのか、麗火さんと肩を並べて一緒に歩いていく。意識は正面に七割、麗火さんに三割。麗火さんに割く割合が増えたからなのか、すれ違う人の顔はあまり見なくなった。

 さっきのお胸の大きい人がすれ違っても今度は凝視しなかった。チラ見はしたけど。


 次の教室は階が違うのだろう、階段を上る。階段を上る時は注意しているのか、麗火さんの方は見ない。ただただ前を見つめている。その目線の前の人物には見覚えがある。二葉さんだ。良二さんは二葉さんの後ろ姿を見続ける。


 正確に言えば彼女のパンツルックのお尻を見続ける。よく見れば、ショーツのラインが浮いている。


「…………マスター」


 さすがにこれは擁護のしようが無い。


 目の前を歩いていた二葉さんが消える。良二さんの視線に気づいて逃げたから……ではなくて、この階の教室に用があるのだろう。

 代わりに違う人が良二くんの前に来た。シュバちゃん先輩だ。良二さんはシュバちゃんの後ろ姿を見続ける。


 正確に言えば彼のパンツルックのお尻を見続ける。


「…………」


 もしかしたら先ほどもお尻を見続けていたわけではないのかもしれない。

 私の中で、下がったマスターの株がちょっとだけ戻った。


 二回上がって目的の階についたらしい。麗火さんと別れてシュバちゃん先輩と一緒に右に曲がる。そのまま教室まで一緒に行くのかと思いきや、途中で曲がる。


 トイレだ。


「……………………」


 トイレに入る。中に人は見えない。そして――


 画面が暗転した。


「撮影不可のプライベートエリアだね」

「…………」

「残念かい?」

「……そんなことないですよ?」



 その後も退屈だったりドキドキしたりする光景が繰り広げられた。

 お昼は麗火さん、シュバちゃん先輩と一緒に食堂。カレーうどんの汁が跳ねるも、白衣の防御効果に救われた。

 午後になっても代り映えしない光景が繰り返される。

 隣に座る人が初めて見る小柄の可愛らしい女の子だったり、ボディタッチの多いお姉さんだったり、モヒカンにトゲトゲ肩アーマー姿のお兄さんだったり千差万別だ。

 ただ、どの人も良二さんと親しそうだった。

 可愛らしい女の子よりも、モヒカンさんと親しい方がショックだったけれど。

 視線についても、良二さんの好色な視線にも慣れた。見た感じ胸の大きさと見る頻度、見る時間は比例するらしい。可愛らしい女の子の胸は一切見なかった。男性を見る時とあまり変わらなかったと思う。でも一番気にしていたのは、モヒカンさんのはち切れそうな二の腕と胸筋だった。ショックだけど、解らないでもない。

 大きいお胸がお好きで、子供に興味はなし。それと筋肉大好き。


 私はD-Segをずらして下を見て手を当ててみた。

 体力もついてきたし筋トレも始めてみようかな。でも筋肉質にはなりたくない。


 放課後、色々な人と話してから帰る。帰る途中でさらに色々な人に声をかけられ反応する。時にはDAを見てみたり、バブルスフィア内での実験に付き合ったりもする。きっとイノベーション・ギルドのお仕事だろう。


 DAが関わると、良二さんの視線はDAに集中する。使用するのが女性でも、揺れる胸や翻るスカート、その奥には目が向かない。

 下がった株がちょっと上がる。


 お礼を言われたりおやつを貰ったりして別れる。

 帰り道も猫を見つけて追いかけたり、スポーツブラとレギンス姿でランニングしている女性のお胸とお腹を凝視したり、甘えてくる猫を撫でたり、降ってきた女の子をキャッチしたり、放し飼いらしき犬と戯れたり、DAを持って泣いている男の子を宥めたり、猫の集団に襲われたりと忙しい。


 そうやって日が大分落ちかけてきたころに家に到着する。



 よく見慣れた扉に手をかけ開く。

 よく見慣れた玄関の先に、よく見慣れた少女が立っている。

 その笑顔は、楽しそうに喋る表情は、私でも初めて見るものだった。



 私って、こんな表情で良二さんと話してるんだ。



 何故だろう。顔が赤くなるのを感じた。



 耳が、肌が、何か(・・)が家に近づいてきていることを感じた。

 慌てて動画再生を終了し、外を見る。日はすでに落ちている。時計を見る。そろそろ夕食の時間だ。まだ何も準備できていない。


 けれど、私が向かったのはキッチンではなくて自分の部屋だ。


「あ、そろそろマスターが帰ってくるよ」


 アイズさんが声をかけてきたけれど答える余裕はない。私はベッドに飛び込むと、枕に顔を埋めた。

 早く落ち着かないといけない。

 早く落ち着いて、冷静になって、良二さんと顔を合わせて――


 さっき見た自分の顔がフラッシュバックする。


「―――――っ!」


 足をジタバタする。




 私は狐崎雪奈。

 イノベーション・ギルドのマスター、平賀良二さんの右腕だ。

 良二さんには尊敬と感謝の気持ちを抱いてる。

 多少の異性への興味はあるけれど、愛や恋といった感情はない。

 きっと、今はまだ。









「おかえりなさい、良二さん!

 ……顔を洗ってきた方がいいんじゃないですか?」







 Parasite Seeing.

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