第十話 練習問題:反応速度を超えた超高速剣術に対応する方法を答えなさい。
練習問題:反応速度を超えた超高速剣術に対応する方法を答えなさい。
条件:
・生身では反応できない。
・反応強化魔法を使えば攻撃が見える。
・身体強化魔法を使えば攻撃が避けれる。
・反応強化魔法と身体強化魔法はどちらかしか使えない。
・攻撃を対応した場合、直後に追撃される。
なるほど。一見難問だ。
しかし、一つ一つ解決していけば答えは見つかる。
見つかるはずだ。見つかるっぽい?見つかるといいなぁ……
俺はバブルスフィア内で生首になりながら、そんなことを考えた。
「まず一つ目を解決する。
アイズ、手伝ってくれ」
死亡酔いが抜けコタツに戻った俺は、アイズに話しかけた。
「良いよ。でも僕にアイデアを出してくれというのは無理だからね」
アイズは現在聖教授のシステム構築の補助、雪奈のお勉強の補助を同時にこなしている。
しかし、そこに俺の補助をお願いしたところで難なく仕事をこなせる。
やはりアイズ様は神だ。
「解っているさ。アイズはあくまでツールだ。ある程度先を予想して行動してくれるけど、入力に対して答えを出すことしかできない。
用は使い方次第さ」
「一つ一つ確認しよう。
反応強化魔法の定義だ。
俺は『視力強化』『動体視力強化』『思考速度強化』『反応強化』を一つずつ使用した。
視力強化で細部まで確認し予備動作を見逃さず、動体視力強化で動きを補足し、動きに対して反応強化で眼球を高速で追従させ、思考速度強化でそれらを統合して認識したわけだ。
だがこれには無駄がある」
「最適な魔法、最適な組み合わせではないね。効率化できる。
パターンをシミュレートしようか?」
「空間把握」「直感操作」「脊髄反射」等、似てる魔法は沢山ある。
そして、アドミニストレータの俺なら、属性に関係なくそれらを使えるだろう。
「いや、そうじゃない。そもそも、根本的にやり方を間違えていた」
「だってそうだろう?
わざわざ俺が視覚認識する必要あるか?
そんなのカメラに任せればいいだろう」
機械ができるのなら機械に任せる。
一般人の常識だ。
「道場破りを撮影してたビデオカメラ。あれの方が俺の何倍も高性能だ。『視力強化』や『動体視力強化』を多重で使っても勝てない。
なら、視覚はカメラに任せるべきだ」
「……試算したけど、この眼鏡にそこまでの撮影性能はないね。でも、スロットに魔法を設定すれば行けそう」
「D-Segに小型のDAカメラを接続する」
「……検索完了。低消費、邪魔にならない条件で市販のものが15件ヒット。一つは研究室にある」
「OK。視力はそれで解決だ」
「でも視力を確保しても、動きを追えないと意味ないよね」
カメラはあくまで撮影するだけだ。判断は自分でしなければならない。
だがそんなことをしてる余裕はない。
「画像解析は使えないか?動画から人物だけ抜き取って、姿勢判定を行う」
「可能だね。でも、高速で動かれると間に合わないし、行動予測を立てられないと意味がないよ」
「逆に言えば、高速で処理が行えれば問題ないわけだな。D-Segで間に合わないなら、こっちも外付けするか?
予測については、機械学習によるAI診断で行けないかと思ったんだが……」
「高速で処理を行えるPCについては、うちのサーバなら可能。でも、無線通信での大容量動画送信が必要だから通信速度がネックだね。外付けは無理。
機械学習は……評価が難しい。上手く学習させないと結果が信頼できない」
画像認識を高速で行うことができるCPUと、ある程度信頼できる行動予測を算出できるアルゴリズムが必要という事か。
それなら簡単だ。俺はそれを知っている。きっと誰でも知っている。
「そうか、じゃあ『D-Segから直接アクセスできて、画像認識ができて、高速で処理が行え、学習能力が高いアルゴリズムを有したデバイス』を探して」
俺はあえてアイズに問いかける。
「……ヒット。検索結果1件。
マスター、これは何かの試験かい?」
アイズは本当に柔軟で優秀だ。
ちゃんとそれを選択肢に入れることができるのだから。
アイズの高度なAIなのか、リモートワークしているだけの中学生なのかはわからないが、単純に調べて解析する以上のことができる。
「アイズにも一般常識があるかなって。それで答えは?」
「平賀良二。マスターの脳だ」
人間しかできないことは人間がやる。
一般人の常識だ。
「このD-Seg――汎用簡易型思考制御眼鏡聖剣は、名前の通り思考制御している。
正確に言えば、こちらの思考を読み取り、こちらに思考を伝えることができる」
昨日の夜、雪奈の就寝後に俺はこのD-Segの仕様を確認した。
「脳内チャットの手順はこうだ。
1.D-SegのDAが思考を読み取る。
2.思考を音声データとして相手に飛ばす。
3.相手側で受け取り、DAで脳内に音声を再生させる」
実際には思考の方向性判定やら音声解析やら構文解析やら行っているが、重要じゃないので省略。
「これを応用する。
1.画像をDAカメラで撮影し、D-Segに送信する。
2.D-Segから脳内に送る。
3.脳内で相手を判定、行動予測を行う。
脳内での判定と予測は人間が常日頃高速でやっていることだ。
簡単だろう?」
俺にできるのはせいぜいがアイデアを出すことだけだ。
実現できるかはアイズに判定してもらう。
「実現性を確認中……。
いくつか質問がある」
「なに?」
「『相手を判定、行動予測』するのは、ユーザが自分で行う?」
「いや、情報系のDAか魔法で自動で処理させる」
「PCの代わりに計算させるという事?」
「ちょっと違うかな。正確には学習させる。
集めた戦闘データをDAで全部頭にブチ込む。そうすると勝手に脳が動きを記憶してくれる。
運用時にはカメラが撮影した画像をDAで脳内に送ると、『対応する動きを思い出す』から、それをDAで吸い出す。
まぁ、いわゆる『機械学習』だ」
「なるほど、つまりやること自体は人間が普通にしていることと変わらないわけだ。
人と機械じゃできない事だけを、DAで処理するんだね」
聖剣しかできないことは聖剣がやる。
聖剣剣聖の常識だ。
「確認完了。検証は必要だけど、理論上は可能だ。
問題は脳の処理速度が間に合うかと、高速剣技を学習できるか」
「それは問題なさそうだけどな。昨日31回トライしたけど、最後には予備動作で先の攻撃が少しだけ分かったし、なにより正技さんはその速度で判断して動けてるんだから、脳には元々処理できるだけのスペックがあるんだろう」
「確かに、それはそうだね」
よし、これで「攻撃に反応できない」という問題は解決だな。
次は「回避/防御行動が間に合わない」問題だ。
「まぁ、こうなると二つ目の問題もクリアしたも同然だな」
「……予測完了。同じ原理で、回避モーションも機械学習に紐づける?」
「ああ。あとはその結果を受けて脊髄反射的に行動できるように補助すれば何とかなるだろう」
こうして、大体の方針は決定した。
俺は秀才だ。
新しいものなど創れるはずもない。
でも、有りものを組み合わせることくらいできるのだ。
Magic Technology for Science Technology - 了
答えは「出来ないところを機械に任せる」でした。
これからも、良二くんが能力が足りないなりに、(倫理と安全度外視で)頑張るところを応援していただけると幸いです。
作中の答えは一例です。
自動反撃結界でも思考速度1000倍DAでもスキルポイントを割り振った超強化でもチートによる敵意反射でも超巨大DAロボによる蹂躙でも正解です。
それはそれとして、本作はこんな感じで対応を行っていきます。
お読み頂きありがとうございます。
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