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幕間 世界にとって重要なこと

 -いつかの夜、どこかの場所で-



 おめでとう。貴様は0.00001%(ファイブゼロ)を突破した。

 故に貴様を再度此処に招待した。


 誇りたまえ。貴様は賭けに勝利したのだ。

 理解できないかね?無理もない。貴様はすでに別人だ。

 記憶も人格も魂も体組織に至るまで、何もかも私に賭けを持ち出した貴様とは一致しない。

 しかし貴様であることに違いはない。故に貴様が勝者だ。


 では勝者である貴様の権利だ。願い(ルール)を一つ言うがいい。


 ふむ。「かえして」か。それは一体どういう意味だね?

 元の世界に帰るという意味なら、すでに叶っている。それが貴様の勝利条件だからだ。

 君という存在を元の状態に返すという意味なら、それは出来ない。何故ならあちら(・・・)で『彼』が貴様の肉体をすでに再構成済みだからだ。

 随分と乱暴な手段ではあるが、『彼』の理論は正しく、『彼』の手順は正しく、故に結果は順当なものだ。

 そこに奇跡はなく、『彼』は正しく貴様を救った。そうであるならば、その結果が不満であろうが受け入れろ。

 奇跡や神秘に身を委ねるのは『彼』への冒涜だ。

 それでも全てを返すことを願うかね?


 ……良いだろう。その程度なら問題ない。掛け金と一緒に色を付けて返そう。

 では再度問いかけよう。貴様は何を望む。


 それも貴様の権利だ。残念だが受け入れるとしよう。

 だがルールはルールだ。貴様には依然権利が残ったままだということを忘れるな。

 権利を行使する気になったならば三度此処に来るがいい。

 その時には是非『彼』を連れてきたまえ。茶でも入れて歓迎しよう。


 これで貴様には用はない。本当の意味で、貴様の故郷に帰るがいい。



 さて、今回は非常に興味深い観察結果を得られた。実験は成功だったと言えよう。

 キューリィ君!


 何でしょうか、ケイオス先生。


 DAMAトーキョーにてピンを一つ立てた(・・・・・・・・)

 報酬の準備だ。

 普段の通り二つ名と――高々特撮ヒーローだ。子供の玩具(・・・・・)が丁度いいだろう。





「仁、何故私の攻撃を止めたのですか?」

「安心しろ、ヴァーレアイン。予め女狐には了承を得ている」

「どう確認したんですか?」

「貴様の指示は受けん、と」

「了承じゃないですよ、それ!」

「それでも女狐は我が参加するのを止めなかった。

 そういうことだろう?」

「……はぁ。

 私としては楽でよかったですけどね」

「仕事量はさほど変わらんだろう」

「いいえ、楽ですよ。

 ……背負わずに済みましたから」

「どいつもこいつも背負いたがるな」

「仁だって闇の使命やら闇の宿命やらを背負ってるんでしょう」

「無論だ。

 しかし、最近その『闇』に動きがあってな」

「はいはい」

「真面目に聞いておけ。長い話でもない」



「我が前で運命が上書きされた。

 世界が更新される瞬間を見た」



「……はい?」

「話には聞いていたが事実とはな。危うく良二が死ぬところだった」

「何の話を」

「女狐に伝えておけ。

「貴様の選択は正しかったと世界が認めた(・・・・・・)」とな。

 それくらいの報酬と救いはあって然るべきだろう」






「報告を聞く前に一つ確認しておきたい。

 その腕はどうした?」


 俺は正技さんの所に謝罪に来ていた。緑彩堂の期間限定の宝玉苺の生どら焼き(一個800円)を持って。


 正技さんが見ているのは俺の右腕。制服と白衣は先の戦闘で全滅してしまったため今は私服だが、長袖のシャツから見える手はよく見れば生身ではないとわかる。観察眼のある正技さんなら一目瞭然だろう。

 生体義腕はまだ用意できていないので、代用として使っている汎用型DA義腕だ。

 一応考えた通りには動くし感覚もあるのだが、あまり精密操作は出来ないし、感覚も鈍い。


「ぶっ壊れたんで、新しいのを付けました」

「俺の秋茜一文字が原因か。

 …………すまない。安全性も確保できていないのに渡すべきじゃなかった」


 正技さんが深々と頭を下げる。

 まさかバブルスフィア外で使用するとは思っていなかったのだろう。


「いや、元々右腕は義腕なんで問題ないです」

「なに?それでは年度末の時も……いや、勝敗には関係ないか」


 右腕はほとんど動かすこともなく、正技さんの超電磁斬界縮地で斬られている。


「そもそも右腕は無能力の生体義腕なんで影響ないですね」

「そうか。それでは左腕は……一体何なんだ」

「思考制御式副腕『魔力(マジック)式マジックハンド』です」


 左腕に取り付けられたおもちゃのようなマジックハンドをグリングリンと回転させてみる。

 関節が普段あり得ない方向に曲がるため、滑らかに動かすのにはコツがいる。


「なんでそんなものを」

「そんなものとは心外な。これでも鈍八脚のプロトモデルなんですよ?」


 D-Segの開発にも使われた偉大な一品だ。ちなみに持ち主である聖教授には了解は得ていない。どうせ存在を忘れているだろう。


「それなら発展系の略式阿修羅の腕でもつければいいだろう。

 何故そんな昔の漫画に出てくる機械歩兵のような三つ指を」

「雪奈に怒られて……反省するまでこれを付けていてくださいね!と」


 ガシガシと開閉させてみる。これはこれでマッドサイエンティストっぽいので面白い。


「……良二も尻に敷かれるタイプか」

「全面的に俺に非があるので」

「ではその非がある所を見せてくれ。どうせ撮影しているんだろう」


 辺りに人がいないのを確認して、D-Segで動画の再生を中空に投影する。


「他言無用、詮索不要でお願いします。

 情報は段階的に開示されていくことになっていますが、まだ会長クラスじゃないと閲覧できない情報ですので」




「ただいまー」

「お帰りなさい!

 どうでしたか?」

「秋茜一文字を壊した件は許してもらえたよ。

 ニヤケ面が凄かった。あと寝取られだと騒がれた」


 あとどら焼きが凄い好評だった。


「寝取られ?どういう意味ですか?」

「複雑な感情があるんだろう。竜の首を落とすためにDAを開発してるのに、それを使って先に首を落としたわけだからなぁ……

 でもそういうのはBSSというんだ」


 さらに、基本的に上位の竜種は一種につき一柱しか存在しない。だから、正技さんが竜を倒すつもりはあっても、タキツヒメについては考えていなかっただろう。

 自分が造ったDAが夢の存在でしかなかったタキツヒメの首を落とした。しかしそのDAを使ったのは自分ではなかった。だがそのDAがなければ俺は死んでいた。その胸中は複雑だろう。


「BSS?よく解らないです」

「よく解らないままでいてくれ。

 許し自体はもらえたし、流れで試合させられそうだったから逃げてきた」


 この状態では手は出せず足くらいしか出せない。しかしそう言ったところで元々手も足も出していないだろうと言われるのがオチだ。

 実際には喉の魔力器官も派手に壊れているため略式阿修羅も使えないので、手も副腕も出せない状態なのだが。


「とりあえずお疲れ様です!

 そんなお疲れのマスターにはとっておきのプレゼントです!」


 また強制昏t――疲労回復クッキーかと思ったが、雪奈が差し出してきたのはそれとは全く違う、まるで予想していなかったものだった。

 予想できるはずもない。なぜならそれは俺の手から離れすでに無くなったはずの――



「ディバイン・ギア」



 それはまさしく、二週間前に彼が受け取ったブレスレットそのものだった。


「どこでこれを」

「前にディバイン・ギアを高精度DA3Dスキャンしたじゃないですか。

 それを元に再現しようとしていたんです」

「いや、最新鋭の機材でも完全にはスキャンできなかっただろう?

 それに素材の問題もあるはずだ」


 構成している素材の詳細は結局謎のままだったし、コアである魔石は純度イレブンナインオーバー……人の手では作り出せず、ダンジョン内の産出は極めて少ない。伝手があっても手に入れるのは難しい。


「とりあえず似た素材と高純度の魔石を複数使って、直径が10倍くらいの大きいものなら作れないかと……

 それでそれっぽい設計図をでっちあげて、素材を3Dプリンタに入れて放置していたんですけど、気が付いたら出来上がっていました!」


 いや、なんだそれ。その手順で出来上がるはずないだろう。

 そうだろう、アイズ。


「うん。気が付いたら出来上がっていたよ」

「えぇ……」


 ガチなのか……


「作業ログを確認したけれど、昨日の19時28分から今日の10時10分までのログが消失しているね。

 雪奈が設計したデータも、スキャンしたデータもバックアップ含めてすべて消失。

 何らかの介入があったことは間違いないけど、あらゆる痕跡が見当たらないね」


 ふと、鳳駆さんの言葉を思い出す。


『誰がどうやって用意しているのかわからない。

 でも必要な時にそれは姿を現す。

 僕の場合は、偶然深界獣に襲われている人を助けた時だった。突然左手にブレスレットが現れて、頭に響く声に従って変身した。

 他には朝起きたら枕元に置かれていたという話も聞いたね』


 なるほど、これがそうか。


「あの……これはまたマスターに戦って欲しいということでしょうか?」


 雪奈が不安そうにこちらを見る。

 俺はそれに微笑みを返す。


「それなら俺のSCカードも一緒に造られてるさ。そっちはなかったんだろう?」


 雪奈がこくりとうなずく。

 ディバイン・ギアはSCカードを読み込んで変身する。SCカードがなければただのアクセサリにすぎない。


「それなら答えは簡単だ。

 コイツも俺たちの所が気に入ったのさ」


 雪奈からディバイン・ギアを受け取る。

 たぶん装備は出来るだろう。どうやら俺は依然主のまま(・・・・・・・・)らしい。

 きっと紫月の所には別の個体が行ったのだろう。


 俺が左手のマジックハンドで掴もうとすると、ブレスレットはスルリと指を避けるようにして手首に該当する部分に填められた。

 どうやらそこに居たいらしい。


「お帰り、ギアさん」


 宝玉がきらりと光り、存在しないはずの左腕が、少しだけ暖かくなった。






 But, Not Important for Him. - 了

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