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エピローグ_4 君の歯車は回っている

「この新作の『フルーツベジタブルアイスサンド』は予想外に美味しいね。ホットアイスで普通のアイスと『迷宮トマトのミックスフルーツ』に使われていた野菜をサンド!

 アイスを食べているはずなのに、どことなく野菜のサンドイッチを食べているような爽やかさ!ホットアイスは堅めで甘さ控えめ、普通のアイスはラクトアイスにしてるのがいいのかな?

 凍らせた野菜というのも結構乙なものだね。少し青臭さがあるけれど、それが食べた後のさっぱり感に繋がってる」

「『エアレモンスカッシュ』も良い。

 レモンスカッシュの爽やかな酸味と炭酸の爽快さに加え、喉を過ぎ去ると同時に新鮮な空気へと姿を変える。

 俺には『フルーツベジタブルアイスサンド』は少し甘いが、これを飲むと気になる甘さがすべて消える」


 僕とショートは防波堤に腰掛け、海を見ながらおやつを堪能していた。

 ジョリーノ・DAMAトーキョー店でテイクアウトした期間限定新作スィーツだ。


「このDA定温ボックスもいいね。魔力消費は馬鹿高いけど、定温そのままで持ち運びできる」

「実用化が待たれる」


 翠さんの属性は指定した範囲内の温度をある一定の温度へと固定する。

 このDA定温ボックスはそれとは違い、範囲内の温度を常に入れた時の温度で維持でいるのだ。温かいアイスクリームはそのまま、冷たいアイスもそのまま。触れている場所すら溶けない。

 まさに理想の保温庫と言えよう。

 良二くんならあっという間に干からびるくらい魔力消費が高いけど!


「それにしてもショートもだいぶ食レポが上手くなったね」


 隣でレモン風味の気化飲料であるエアレモンスカッシュを飲むショートに目を向ける。趣味に合ったジュースを飲んでだいぶリラックスしているようだ。機嫌もいい。初めてジョリーノで過冷却ジュースを飲んだ時とは違い、表情が柔らかい。

 まぁ、僕くらいしか違いに気が付かないだろうけれど。


「それはリンもだろう」

「毎日のようにやってればねー」


 あの時は毎日毎日戦闘終了後に集まってはあちこちのスィーツを食べ比べて、みんなで感想を言い合っていた。

 いや、言わされていたというのが正しいか。

 まだ一月程度しかたっていないのにずいぶんと懐かしい。



 僕とショートは久しぶりにツーリングに来ていた。新しいバイクの慣らし運転のためだ。

 結局ショートが選んだのはMononoFu_BP20だった。DA車両部を卒業した轟部長が残していったものだ。何故残していったのかと言えば簡単だ。改造し過ぎてDAMA以外では乗れないからだ。

 決め手はおまけでついていたDA定温ボックス。昔は食べ物に興味はなかったのに、今では食事第一にも見える。

 元々大きく改造されていたBP20だけれど、今では僕専用のサイドカーを初め大量の改造が施されている。初めて良二くんと出会った時にCalivarの魔改造を嘆いていた彼はもういない。


 ちなみに僕たちは道交法?なにそれ?と言った感じで一般道路を魔改造バイクで走っている。凄いね、特級真剣剣聖免許。違法の塊ともいえるDAバイクを乗り回しても捕まらない。流石に交通のルールとマナーは守るけど。


「気持ちいいねー」


 潮風が吹き抜ける。暑くもなく、寒くもない。眠気を誘う春の風だ。


「ああ。海もいいものだな」


 見渡す限りの水平線の先に、小さな雲が浮かんでいる。もう少し経てば、立派な入道雲も見えるようになるのだろうか。


「うん、皆とはここに来ようか」


 DAMAの敷地内のためDAバイクでも来れるし、人も少ない。砂浜は綺麗だし、水も澄んでいる。水遊びやバーベキューに興じるのもいいだろう。今いる堤防から釣りを楽しむのもいい。東京にこんなにいいスポットがあったとは。関係者以外訪れる人が少ないから知られていないのだろう。


「そうだな。しかし問題がある」


 ショートがジト目で僕を見つめる。

 うん、確かにずっと目を背けていた重要な問題がある。スィーツも食べ終わったし、そろそろ向き合おう。


「何処なんだろうね、ここ」


 僕たちは道に迷っていた。いつものように。



 基本的にショートは行く先を決めない。僕は彼の付き添いなので行く先を決めない。結果、適当に走り続ける二人組が出来上がる。

 それでも何時もは何となくショートが遠くに見える山だの川の水源だの方向性を決めるけれど、今回はサイドカーにいる僕が自由気ままに思いつくまま行く先を指示してみた。

 よく解らないうちによく解らない場所に出た。

 家の方角は何となくわかるし、迷うこと自体ショートとのツーリングの楽しみではあるけれど、もう一度来たい場所が見つかった時には困る。何処かに地名でも書いてないだろうか。


「D-Segで確認するか?」


 D-Segは高性能スマホと同様の機能も持っている。GPSを搭載してるし地図だって見れる。それで確認すれば現在地は一瞬でわかるだろう。


「でもそれもつまらないよね。楽しみが減るっていうか」


 D-Segから地図を表示すると、同時に周囲も解ってしまう。寮の位置や校舎の位置、帰り道も目に入ってしまうだろう。そうなると迷いながら帰る楽しみが減ってしまう。

 あと何となく地図を見るのは癪だ。


「D-Segに足跡が残ってるでしょ。帰ってから確認すればいいさ」


 帰ってから今日の足取りを確認して、それからツーリングのプランを立てよう。


「そうか」


 ショートは一言了承して、また視線を海へと戻した。

 互いに何も喋らず、ただ波の音に耳を澄ませる。音を聞くのは好きだ。波の音も、バイクの音も心地よい。お腹が満足したこともあり、ついついウトウトしてしまう。



「これからどうする」


 ショートの声に意識が戻る。


「ん……もう少ししたら行こうか。今度はあっちの山の方へ寄って」

「そうじゃない」


 隣を見ると、ショートが真剣な顔で僕を見ている。

 ……ああ、そういうことか。今日のツーリングはショートから誘ってきた。あの日のように、何か話したかったのだろう。

 景色もいい。心地もいい。落ち着いて話すにはちょうどいい。


「そうだね、これからどうするか話そうか」


 これからの一年。あるいはその先。僕たちはどこを目指すのか。



 紫月さんの一件解決後、僕は普通科から鍛冶科へと移らせてもらった。

 新年度開始直前の転科願いに良い顔はされなかったけれど、麗火さんにも手伝ってもらって無理矢理押し通した。DAMAのために身を粉にしているだけあって、それくらいは融通してもらえるのだ。ただ、追試のこともありDAMAの教員や事務の方たちには迷惑をかけていると思う。


 そうまでして何がしたかったのかと言えば――


「僕はやっぱりこれだね。

 ディバイン・ギアおよび『深界』属性の解析」


 ポケットから円盤を取り出す。刻まれている文字は「Divine Gear 666」。あの時はこれを作り出すことができた。あれ以降はどうやっても作り出せない。素材が悪いのか、やり方が悪いのか、あるいは両方か。もしかすると深界バブルスフィア等の特定の環境下でなければ作り出せないのかもしれない。

 今は同じ手順での再現は諦めて、ディバイン・ギアの一部であるSCカードの始原回路の解析に着手している。


「進捗はどうだ?」

「なんとなーく解る気もするんだよね。

 あ、魔力痕へはアクセスできるようになったよ。もしかするとカードリーダーで読み込んだ時に何が行われるのか解るかも」

「それは凄いな」


 今度は僕のSCカードを取り出す。この中心に魔力痕が刻まれている。

 ギア:アイズはSCカードを読み取って機能を再現した。その動きは僕の『模倣』属性と似ている。だからだろうか、原理も何となくわかる気がするのだ。もしSCカードとその読み取りが再現できれば、だれでも好きなDAを簡単に使えるようになるのだ。その価値は計り知れない。


 けれど、僕の目標はそこにはない。


「ねぇ、ショート。僕には二つ目標があるんだ。

 一つ目は『深界』属性を解析して、バブルスフィアに取り込めるようにすること!」

「『深界』属性をバブルスフィアに取り込む……まさか」



「そう!深界バブルスフィアを僕の手で作り出す!

 そうすれば僕らは何時でも何処でも何の制限もなくディバイン・ギア・ソルジャーになれる!!」



 ディバイン・ギア・ソルジャーはその機能が制限されている。深界バブルスフィア内部でなければ力を発揮できず、維持も難しい。


 だから僕は考えた。深界バブルスフィア内部じゃないと使えないなら、自分で深界バブルスフィアを作り出せばいいじゃない、と。


 バブルスフィアの属性を制御する方法はある。実際にアイズが『深界』属性を取り除いているし、最近では特定の属性を付与して風紀騎士団の人が入れるようにしている。けれど、『深界』属性自体を追加で付与する方法はまだわかっていない。付与出来なかったり、付与してもすぐ消えてしまったり。問題は多い。

 それ以外にも、『深界』属性特有の精神汚染や、バブルスフィア解除後の記憶消去、ダメージのフィードバック等問題は山積みだ。

 しかし、それも『深界』属性をより理解することができれば解決の糸口がつかめるかもしれない。


 その先に何があるのか。良いことか悪いことか。想像するだけでワクワクする。


「『深界』属性を俺たちが……」


 ショートが信じられない、という表情で僕を見る。

 僕はそんなショートに笑いかける。


「『深界』属性自体は悪じゃない。要は使い方次第なんだ」


 手に持った歯車とカードを見る。これも『深界』属性の塊だ。けれど悪じゃない。僕たちの力だ。僕たちが望みを叶えた力だ。

 そう、僕たち三人の。


「そしてもう一つの目標。

 コレ(・・)を僕の手で作り出す。



 そう!僕は良二くんをディバイン・ギア・ソルジャーに戻す!」



 あの夜良二くんは全ての力を失った。

 二度とディバイン・ギア・ソルジャーに変身できなくなった。

 けれど僕たちは三人ともディバイン・ギア・ソルジャーだ。間違いなく。本物の。


 だから、彼には戻ってきてもらわなければならない。

 僕が満足するために。


「だってさぁ、やっぱり一度くらい三人で同時変身してみたいじゃないか」

「それは――そうだな。一度くらいはやりたい」


 昇人が顎に手を当てて考える。ドラマを思い出しているのだろう。


「だからね、DAMAでもっと研究して、卒業したらそのまま大学に進もうと思う。知らないといけないことが沢山だ」


『深界』属性を調べようとしても、そもそも最初の段階でつまずいてしまうことがよくある。バブルスフィアの原理だってちんぷんかんぷんだ。知識、知識、知識。それが僕には必要だ。


「リンは成長したな」


 ショートが笑う。


「そうかな?」

「ああ。良二に似てきた」

「褒められてない!?」


 僕はあんな変人じゃあない。もっと常識人だ。まぁ、彼が無理矢理にでも僕たちに勉強させようとしていた理由はよくわかるようになったけれど。


「それならショートはどうするのかい?」

「俺は魔力エンジンの改良だ」


 ショートはあの戦いの後、背部の円盤を理解したらしく、あっさりと新型魔力エンジンを作り出してしまった。


「ギア:ナイツの魔力エンジンの神髄は力場制御だ。

 出力に伴う円輪に様々な機能を持たせられることが一番の利点だろう。

 現在は単なる高燃費高出力の推力を生み出せるに過ぎない」


 ショートの目がギラギラと輝いている。きっと、上手く言葉に出せなくても、やりたいことが胸の内に溜まっているのだろう。


「あとは慣性制御デバイスの使い勝手を向上させたい。アレの有無で高速動作時の身体への負担と機動力に大きな差が出る。

 しかし現状のように感覚だけでの制御は才能の無い人には厳しいものがある。やはりソフトウェアを搭載しその場に合った制御を自動で行えるようになることが望ましい。

 幸い俺がDAジェットエンジンと併用した時のデータをアイズが保管しているそうだ。それを元に制御ルーチンを開発すれば――」


 ショートの早口を生暖かい目で見守っていると、彼はその目線に気が付いて語るのを止めた。


「俺は解析より開発だ。造って動かして評価する。

 研究もする。

 けれど、DAMAよりも轟部長のように工学系の方がいい」


 DAMA以外でもDAの研究は行っている。

 ショートはDAとしてのエンジンよりも、DAの機能も使う複合型のエンジンを開発したいのだろう。

 だから――



「卒業したら別の道だね」

「ああ」



 ショートの隣に並んだ。そこから見た景色は、今までと大して違いはなかった。ショートの背中が見えなくなったくらいだろうか。

 あるいは、隣を見れば昇人の顔が見えるくらいだろうか。

 望んだ世界は色鮮やかなものじゃなかったけれど、それでも少しばかりの達成感があった。


 けれど、目標がかなったのなら今度は次を目指さないといけない。誰かの背中を追うだけじゃない、僕だけの目標。僕だけの目的。

 これからはそれを目指して進んでいく。


「まぁいいや。僕たちは親友だ。

 これからも、これまでも」


 重要なのはそれだけだった。後ろにいても、隣にいても、別の方を向いていても、それさえ覚えていれば何も問題なんかない。


「ああ。ずっと、親友だ。

 俺たちの魂はつながっている」


 ショートも自分のSCカードを取り出す。

 SCカードは魂の繋がりを示す。お互いのカードを読み込めるのなら、そこにははっきりとした繋がりがある。

 そしてSCカードは壊れない。何があっても、決して。


「どの道二年も先。その頃どうなっているかもわからない」


 今の道を走り終えているかもしれない。違う道を見つけるかもしれない。未来のことは予想がつかない。学校に行く最中に心臓を抉られることもあれば、ツーリングに行った先で死にかけることだってあるのだ。

 今この瞬間にもドラゴンに襲われるかもしれない。

 それがDAMAだ。それが聖剣剣聖だ。

 だから全力で学んで、全力で自分を育てていこう。


 僕たちを鍛えてくれた彼のように。



「それじゃあそろそろ行こうか」


 ゆっくりと立ち上がる。


「何処に行く?」


 ショートも立つ。


「そうだなぁ……せっかくだから真正面に行こう!海!行ける?」

「もちろんだ。魔力エンジンの性能を見せよう」


 ショートが不敵に笑う。


「うん。楽しみだ。

 でもその前に――お仕事の時間だ」



 空が暗く染まる。空気が変わる。世界の在り方が深界に染まっていく。

 目の前の海が割れ、巨大な虹色のクジラが空に舞い上がった。

 なるほど、襲い掛かってくるのはドラゴンではなくクジラだったか。



「胸がうずくと思ったんだよね」


 どうやらディバイン・ギアに導かれていたらしい。


 紫月がいなくなってから深界獣の出現頻度は激減した。しかしその質自体は向上したまま、いや、さらに酷いことになった。決戦時に見たドラゴンクラスが現れるようになったのだ。

 まぁ、そういうこともあるだろう。こういうイベントにも随分と慣れてきた。


「BBRRAaaaaaaaAAAAAh!!!」


 空でクジラが吠えると海が一瞬にして凍り付いた。今回の敵も随分と強そうだ。

 けれど臆すことも負けることもない。僕の隣にはショートがいる。ショートの隣には僕がいる。何も問題ない。


「どうする?僕は試したいことがあるんだけど」

「先は譲る」

「ありがと。とどめは譲るよ」

「油断は」

「平気。ギアは緩めない」


 作戦を立て終わる。深界獣との戦いは、やりたいことが全力で行える大切な時間でもある。


「行くよ、ショート」

「行くぞ、リン」



 僕たちは円盤を胸に叩きつける。。



『『動輪接続(サイクリング)!』』



 カードを読み込ませ、高らかに叫ぶ。



「「心炉起動(アクティベイト)!!!!」」



 光が僕たちを覆い、装甲が装着されていく。



『パワーシックス!スピードシックス!マジックシックス!インコンプリート・ナンバー:グローイング!

 ディバイン・ギア:アルス!!』


『パワーナイン!スピードナイン!マジックナイン!オールナイン・フィーバー!

 ディバイン・ギア:ナイツ!!』



 変身が完了する。

 最後に、ここにいない最後の一人を、その言葉だけでも連れて行こう。




「「さぁ、楽しい楽しい試験の時間の始まりだ!」」







 Real x Dream - 了


 第二章 Not Perfect, but Hero. - 完了



ずいぶんと長くなってしまいましたが、輪之介くんと昇人の物語はここで完了です。

良二くんの心の闇は未だ晴れていませんが、きっと間違えるようなことはないでしょう。危険なことも早々起こりません。

幕間三編を挟んで、続く第三章は本来書きたかったノリに戻り、新入生相手にまったりゆったり俺TUEEEE!を楽しんでいただく予定です。

良二くんにはしっかりと休養を取ってもらいましょう。


そして予告もおしまいです!


リアルが忙しいため、しばらく投稿は不定期になります。

また、第三章は別作品(第三章アナザーサイド)を投稿後になります。

そちらも読んでいただけたら幸いです。


お読み頂きありがとうございます。


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