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エピローグ_2 ヒーローの定義は満たされない(下)

「報告は残り二つね」


 俺が落ち着くのを待って、麗火さんはそう言った。

 あと二つ、内容については想像がつく。


「先に毎度おなじみの二つ名ね。

 今回は凄いわよ」

「凄い?何かが変わるわけでもないし、貰えるわけでもないし、二つ名に凄いも何もないんじゃないか?」

「数が凄いのよ。多分この10年で最多じゃないかしら。

 まずは良二くん、昇人くん、輪之介くんにそれぞれ『ギア:アイズ』『ギア:ナイツ』『ギア:アルス』が送られるわ」


 まぁ、想像通りだな。鳳駆さんもギア:ホークを名乗ってたし。


「続いて実績。同じく良二くん、昇人くん、輪之介君に『竜神を討つもの(ドラゴンスレイヤー)(キワミ)』。

 竜殺しは学生でも取得者がいるけれど、上位の竜種の特定条件での討伐が必要な『極』は初めてじゃないかしら。

 ただ、取得経緯は説明できないから、名乗る時には『極』については使わないでね」


 これもまぁ、予想通りか。ダンジョンで竜に偶発的に出会うことがあるらしいから、ただの竜殺しなら名乗っても問題にはならない。

 ……そういえば俺は雪奈を助ける時に下位の小型竜を倒してるけど二つ名が貰えなかったな。純粋な竜種ではないワイバーンやラプトル系と同じ扱いなのだろうか。それとも完全になかったことにされたか。


「実績はあと一つ。良二くん、昇人くん、輪之介くん、雪奈ちゃん、アイズくん、仁くん、一真さん、そして私に『第四解決者(ソルブ・ザ・フォース)』が申請されているの」

「第四解決者?

 ……ああ、七不思議か」


 すっかり日常に溶け込んだが、元々DAMAのディバイン・ギア・ソルジャーはDAMA七不思議に分類されているものだ。ちゃんと番号をつけて管理しているんだな。


「良二くんとアイズくんの解析により、今後深界獣は風紀騎士団でもある程度対応が見込めるようになったわ。これにより七不思議の四番目『深界魔物』は一旦解決となります。

 その功績として二つ名が関連する人全員に送られました。

 まぁ、形式的なものなので、名乗ることもないでしょうけど」

「……送られた?話し方からすると二つ名を申請したのは麗火さんじゃないんだよな。誰が送ってきたんだ?」


 俺の質問に麗火さんは眉をしかめる。


「解らないわ。申請者には『ケイオス』とだけ。私が見つけた時にはすでに申請は通っていたわ。

 きっとDAMAの上位陣の誰かでしょうね。あるいはもっと上のワールドウォッチャーや世界管理委員とかそういう存在かしら」

「『四番目』を指定してるってことは、まさか七不思議を管理」

「それ以上は止めておいた方がいいわ」


 考えを進めようとしたところ、慌てた麗火さんに止められる。

 鳳駆さんが言っていた七不思議のその先、あるいは七不思議番外の一つ。そこに関わるのだろう。

 確かに止めておいた方が良さそうだ。


「ちなみに良二くんたちのギアシリーズも申請者はケイオスさんね。

 そのケイオスさんからあと二つ、二つ名が申請されているわ。

 仁くん宛に一つ。『闇の楔を見るもの(シマンデ・リヒター)』。

 もう一つは雪奈ちゃん宛に『キューティ・イノセント』」

「仁については昨日本人が何か言ってたな。あまり覚えてないけど。

 雪奈は……なんだこれ?」


 何故俺が開発中のなりきり変身グッズの名前が。


「何って……雪奈ちゃんから聞いたわよ。

 ICBDAを使う時にキューラーの女の子に変身したって。良二くんの仕業でしょう?」

「え?」

「え?」


 一体何の話だ?うまくかみ合っていない。


「確かに雪奈がキューラーに興味があるみたいだったから、変身用のDAは開発していた。

 デザインはできたけど、実装でとん挫した。着ている服を分解しキューラーの衣装に再構築するのが難しかったからだ。

 仕方ないから、最近は気分転換に麗火さん用のキューティ・ブレイズの衣装をデザインしてた」

「……え?私用?」

「雪奈に渡したかんざしの魔石にも一度回路を書き込んだ。でもその後初期化してからICBDAの回路を書き込んでるし、書き込む前に元の回路が消えているのは確認してる。

 変身が機能するはずがない」


 一体だれが、どうやって雪奈を変身させたんだ……!

 考えるまでもなく犯人は一人だ!


「ねぇ、良二くん。キューティ・ブレイズってなにかしら?」

「この話はここまでにしておこう。

 藪から蛇を追い出す必要もないさ」

「私としては鬼を出したいのだけれど……」


 麗火さんがジト目で見てくる。

 催促しなくてもちゃんと完成させて、麗火さんを立派なキューラーにしてみせるから安心してくれ。


 俺の真剣な想いが届いたからだろうか、麗火さんはため息をつくと追及しないことに決めたようだ。


「実績についてはこれで一通りかしら。

 流石に多すぎるから減らすことも考えたのだけれど、減らしたら減らしたで問題になるのよ。

 そう言うわけで気にせず受け取ってちょうだい」


 実績を満たしていても二つ名を与えなかった前例があると、それ以降の審査を厳し目にしないといけなくなるということだろう。

 例えば俺の場合減らせる二つ名は竜殺しだけだが、上位の竜のソロ討伐でも与えられないとなると、今後竜殺しの二つ名を与えるにはそれ以上の実績が求められるようになってしまう。

 むしろこれでも減らしている方か。昇人の生身での音速超過飛行などは通常なら二つ名が与えられてもおかしくない。それを特殊なDAを使用したという理由で取り下げているのだろう。


「確かに大漁だな。普通は一年で多くても3つなのに、俺と昇人、輪之介は今回の件だけで3つか」

「一番すごいのは雪奈ちゃんかしら。入学前に二つ名を3つ持っているのは前例がないわ」

「まぁ、そのうち二つは口外できないし実質一つのままだ。俺たちも似たようなものだけれど。

 実績以外の二つ名――昇人と輪之介の働きについては何かないのか?竜殺ししか名乗れないのも問題だろう?」


 そこまで有名ではなく、学校に来ていなかった二人が、春休み明けと同時にドラゴンスレイヤーデビューだ。痛い腹を探られかねない。

 名乗らないのも評価されていない気がするし、隠し蓑に適当な二つ名を与えておいた方がいい気がする。


「用意はしたのだけれど断られたわ。ようやくやりたいことが見つかったから、そちらで評価して欲しいそうよ。

 それまでは竜殺しで我慢(・・・・・・)すると言っていたわ」


 なるほど、良い気合だ。

 ……後押ししていた自分としては、少し寂しく同時に羨ましい。


「働きについては、私たち全員で考えた二つ名を今回の件の中心にいた良二くんに送るわ」


 朗らかな雰囲気から一転、麗火さんは冷たく目を細める。


 D-Segに二つ名が送られる。その名は――



 偽偽善者アロガント・ドリーマー



「特別なものよ。しっかりと胸に刻んで」



 例え偽善でも紫月を助けたかった。

 しかしそれが偽善ですらないというのなら、一体何だったというのだろうか。


 皆は俺の何を見て、俺について何を考え、この二つ名を選んだのか。

 肯定か、否定か、祝福か、呪いか。


 考えるのは好きだ。想像するのは好きだ。妄想するのは好きだ。

 きっとこの二つ名の意味についてこれから何度も考えて、そして決して答えは出ないだろう。


「ああ、ちゃんと受け止めるよ」

「――そう。頑張ってね。

 きっと、貴方は理解することはできないだろうけれど」




「それでは最後の報告。

 紫月さんは元気よ」


 引っ張っていた割にはやけにあっさりと彼女は言った。


「ふぅ」


 安心にため息をつく。


「病院に運ばれた時点では喉から上と、髪の一部だけがヒトの肉体に変わっていたけれど、食事をして眠ると肉体の範囲が広がっていったわ。

 現在は腰から上がヒトのDNAと一致していることが解っています。見立てではあと五日ほどで完全に人の身体に戻れるとのことよ。

 今は上半身のリハビリ中だけれど、身体の機能は特に問題なく動いているわ。身体が出来上がれば普通の生活に戻れるわね」


 それは良かった。本当に。


「解っている範囲でヒトと違うのは喉の魔力器官かしら。輪之介くんと一緒でディバイン・ギアと一体化しているようね。食事により各種栄養を摂取すると、内蔵による消化を行わずに直接肉体への変換が行えるみたい。属性については精査中だけれど、こちらも輪之介くんと同様に『深界』属性が含まれるよう魔力器官が変質してるわね」


 結局ディバイン・ギアは紫月と融合したままか。予想内だが。


「精神状態についても安定しているわ。

 入院当初はいくつかの感覚器官が不全で感情についても乏しかったけれど、カウンセリングしつつ教えることで機能し始めたらしいわ。どちらかと言えば『思い出した』という方が正しいかしら。

 話を聞く限り元々私たちの世界にいたことは確かなようだけれど、深界世界に攫われる前の記憶はまだ思い出せていないわ。

 それどころか、深界世界の記憶と、こちらに戻ってきてからの記憶はどんどん失われているわね」


 D-Segに紫月の記憶に関するレポートが表示される。

 運動や習慣的行動の記憶である手続き記憶、知識や常識の記憶である意味記憶については快復が見込めるそうだ。

 しかし思い出に関する記憶であるエピソード記憶についてはほとんど残っていないらしい。脳の機能自体は問題が無く、あの夜以降については完全に記憶できている。


「彼女がどこの誰だったかについては現在調査中。良二くんとアイズくんが以前候補を絞ってくれたけれど、大体同じ結果になりそうね。

 ただ、見た目が一致する候補は日本にはいないから、最終的な決め手はどうするか検討中」


 紫月は深界獣から人間に戻る際に目の色や肌の色が変わった。同じように人間から深界獣になるまでの過程で瞳や髪の色、体格なども変わっている可能性がある。記憶もないとなれば特定は非常に困難だ。


「現在はこの病院の研究棟にいるけれど、私や貴方も含めて外部との接触は制限されています。

 残念かしら?」

「いいや。二度と会えなくても問題ないさ」


 別に何かを求めて助けたかったわけでもないし。


「……そう」


 麗火さんは一瞬ほっとしたような、辛そうな表情を浮かべたが、直ぐに真剣な表情で俺の目を見つめてきた。


「彼女についての情報はこれくらいかしら。

 そして彼女の件で言っておかなければいけないことがあります」


 麗火さんが姿勢を正す。元々綺麗な座り姿だが、より凛として美しく、そして周りの空気が張り詰める。


「良二くんには私の指示(・・・・)で紫月さんを助けてもらいました。

 その結果、良二くんは決して消えない傷を負わせてしまいました。


 責任はすべて(・・・・・・)私にあります(・・・・・・)

 ごめんなさい」


 麗火さんが深々と頭を下げる。


 ふぅ、とため息をつく。

 話は分かる。責任の所在は重要だ。依頼とは関係ない俺の単独行動が原因だとすると、先ほど麗火さんが話していた手当等は支払えないし、俺のDAMAでの立場にも影響がある。亜人の可能性があった未知の知性体に接触したことも問題になるかも知れないし、決戦でのあれこれも麗火さんの助力があってのことだ。

 麗火さんの言葉は俺を守るための方便だ。

 それは解っている。



 だが、流石にそれは違うだろう。



「……言葉の意味は解ってるのか?」

「ええ」


 麗火さんはゆっくりと手を伸ばすと、俺の左肩に触れ優しく撫でた。



「良二くんの左腕をちょうだい」



 彼女の言葉はそう言う意味だ。

 彼女の真意は解らない。けれど、言葉にした以上、こちらもきちんと答えなければ。



「それはダメだよ、麗」



 彼女の目を見て告げる。


「アレは俺の決断だ。アレは俺の選択だ。

 俺は俺の責任で、紫月の命を救うことを選んだんだ。

 後生だから、それを奪うのは止めてくれ。

 あの時の俺を無意味なものにしないでくれ」


 俺の腕に触れる麗火さんの顔色が青く染まる。


「でも、元々は私が――」

麗火さん(・・・・)なら紫月は見捨てただろう?」


 追いすがろうとする彼女を切って捨てる。


「――っ」


 麗火さんの顔色が青を超えて白くなる。目を細め俺から目をそらす。


「それなら駄目だ。

 だからこれは俺の権利なんだよ、麗。

 譲れない。譲っちゃあいけない」


 別に麗火さんを責めているわけじゃあない。

 俺は多様性を好む。紫月より俺を選んでも、それでも背負おうとした麗火さんを尊敬する。他人よりも自分を優先する人を軽蔑したりしない。

 多様性は重要だ。自分と近しい人を守る人は必要だ。

 だが同様に、それ以外を守ろうとする人も必要なのだ。


 俺は、その存在が、その行動がどういうものなのか知っている。

 それは自分にとっては不都合で、他人にとっては都合のいいものだろう。


 だからこそ、それは尊いと思えるのだ。

 だからこそ、それは祭り上げる価値があるのだ。

 だからこそ、それに憧れるのだ。

 だからこそ、それは特別な名(・・・・)で呼ばれるのだ。


 子供の夢染みていても、それを自分の目標として行動する人が一人くらいいたら、きっと世界のためになるだろう。

 例えその根本が偽りの偽善だったとしても。


「俺の怪我は俺のものだ。俺の痛みは俺のものだ。

 麗にだって譲ってやらない。片腕一本だってくれてやるものか」



 そう、だからこれは俺の問題で、麗火さんに背負わせるわけにはいかないのだ。

 全ては俺のために。



 麗火さんは顔をくしゃくしゃに歪め、触れていた手を自分の膝に落とした。そろえられた両手は強く握られている。


「……剣聖生徒会会長の言い分は解る。俺を思ってのことだっていうのも理解している。

 書類上も、体面上も、都合のいいように変えてくれていいさ。麗火さんの好きにしてくれていい。

 でも事実は変わらない。アレは俺の行動だ」


 麗火さんは俺から目をそらし、握る手を見続けている。

 浴衣の袖からわずかに見えるアクアマリンブルーのブレスレットにはめ込まれた5つの宝玉が赤く輝いているのが見えた。


 空調が効いているはずの部屋なのに熱を感じる。手で扇ぎたいが、あいにく俺の両手は機能不全だ。



 一分ほどして麗火さんはため息をつき、顔を上げた。

 どことなく寂しそうな、それでいてさっぱりしたような表情に見える。


「キズモノにしたセキニンすら取らせてくれないのね」

「男の傷は勲章だぜ。おいそれと手放せないさ」

「責任を感じる私を無理やり手籠めにするくらいの甲斐性ないのかしら」

「残念ながら押し倒したくても、押し倒すための腕がない」


 麗火さんが眉を潜める。

 ヤバイ、ちょっと言い過ぎた。

 麗火さんはもう一度ため息をつくと、今度こそ俺の方を正面から見つめてきた。


「まぁいいわ。これは借りにしとく。

 私が必要なら何でも言って。良二くんの腕一本分くらいの仕事はしてあげる」


 麗火さんに頼む仕事といっても、麗火さんの力が必要になるようなことはほとんどないし、麗火さんの力が必要なことが起こる場合、きっとその事件には麗火さん自身も関わっているだろう。そうなると貸し借りなど関係なく力を貸してくれるはずだ。

 そうなると……あ、そうだ。


「それなら早速一つお願いが」

「なにかしら?」

「紫月を守って欲しい。ある程度研究に回されるのは仕方ないにしても、いつか人の生活に戻れるように、ちゃんと人として扱ってくれ」

「当り前よ。非人道的な実験は出来ないよう、ちゃんと監視は付けてるし、私自身彼女との対話記録や試験/調査の報告書と映像データは確認しているわ。

 一番重要な深界獣コアの人への変化ついてはデータは取れずに終わったし、深界世界の記憶も失われていて、あと数日で人と変わらない体組織に置き換わってしまうことを考えると、彼女はすぐに研究体としての価値を失うわ。

 その後は自由よ。もちろん生活については保障するし、彼女の過去と家族についても継続して調査するわ」

「それは良かった。

 それともう一つ。

 紫月から、俺の左腕の記憶を消してくれないか?それが無理なら、俺の記憶ごとでいい」


 機嫌が直ったように見えた麗火さんだが、また眉をしかめる。


「なぜかしら?」

「紫月に昔の記憶がないとすれば、多分最初の記憶は俺に連れられこちらに帰ってきた時のものだろう。

 そうなると紫月にとってその記憶しか思い出がない。

 それなのに、唯一の思い出が俺の左腕を奪ったこと、なんて辛すぎるだろう。

 ようやく帰ってこれた彼女だから、始まりくらい真っ新じゃないと駄目さ」


 それに俺は助けた相手の人生に責任を持てるような男じゃない。

 身勝手な話だが、紫月には紫月自身の人生を歩んで欲しい。


「……わかったわ。手配しておく」

「すまん、嫌われ役を押し付けることになるかもしれないな」

「構わないわ。私も良二くんの考えに賛成だもの。

 ただし、上手く消せるとは保証できないし、再会した時に逆に嫌われていることも覚悟しておいてね」


 記憶操作系統の属性はだいぶ研究が進んでおり任意の記憶を消すことができるようになってきている。

 しかしまだまだ脳には解っていないことも多い。場合によっては効果がないことも、あるいは思い出してしまうこともあるだろう。

 それは仕方がない。


 しかし麗火さんが意味ありげな微笑みを浮かべているのが気になる。


「他には何かないかしら?」

「いや、これで十分だ」


 借りはチャラ、と言おうとしたが、それを察した麗火さんに睨まれ口を紡ぐ。

 流石に無神経か。先ほどからちょくちょく言うべき言葉を間違えているのが解る。俺も疲れているのだろう。




「それじゃあ各種報告はこれでおしまい!

 随分時間を取らせてしまったわね。お疲れ様」

「お疲れ様」


 随分と長い間話し込んでしまった。


「もう少し話していたかったけれど、やらなきゃいけないことが溜まっているの。名残惜しいけれど帰るわね」

「手間を取らせて悪かったな。生徒会長の仕事頑張ってくれ」

「ええ。けれど最後に言っておきたいことがあるの」


 麗火さんの雰囲気が変わる。

 剣聖生徒会会長でも、『麗火さん』でもない、昔の彼女を思い出させる気配。

 けれど、その時は見た事のない悲しげな表情だ。


「良ちゃん、私いっぱい泣いたわ。

 あの子も、ずっと泣いてた」

「――――」

「良ちゃん、私の選択は間違えだった?」

「――いいや。麗、俺に依頼してくれてありがとうな。

 この二週間楽しかった。色々な体験ができた。沢山救えた。最高の時間だった。

 これから先は解らないけど、正しいと思うことは出来たから、今は後悔なんかしていない」

「……だから良ちゃんは偽善者にすらなれないのよ」




「じゃあね。明日の検査に問題がなければすぐに退院できるはずよ。

 家に帰ってたっぷりと叱ってもらうといいわ」




 麗火さんの消えた扉をしばらく眺めていた。



 こんなつもりじゃなかったのだ。

 大事な人を、大切な人を泣かせるのは流石に失敗だ。失格だ。



 二つ名について考える。


 籠められた意味は解らない。

 しかし確かに、俺は自己満足すら満足にできない、傲慢で夢見がちな、偽善者失格な大馬鹿者だ。



 だからせめて、明日は徹底的に絞られよう。

 二度と泣かせないために。何時か満足の行く結末が得られるように。




 Hero x Fool - 了

少女は泣いた

少女は泣いた

その恨みを晴らすは今だ

少年に反撃の糸口はなく、ただただ頭を項垂れる

一方的な戦いの中

彼が本当に得るべきだった報酬は何かと問いかける


そして幕は閉じられる



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ&アルス

「最後に残った報酬」


レディ!アクティベイト!


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