第九話 誰でも簡単!CADで作れる聖剣講座!
開発の本格着手となります。
平賀良二は秀才である。
1を教えれば10を知り、10を教えれば50を知り、50はすでに知っていて、100教えても50のままという、早熟タイプの器用貧乏だ。
子供の頃からそうだった。野球でもサッカーでもテニスでもゲームでも柔道でもあやとりでもけん玉でも将棋でも同じ結果だった。
みんなで同時に始めれば初めは何時もスタメンで、スタメンから抜かれるようになればチームは安定した強さを誇り、二軍からも転げ落ちればチームは立派な強豪だ。
故に常勝常敗。故にボーダーライン。
それがこの俺、平賀良二である。
努力する天才に勝てる道理など何もない。
「しかし流石に全部一撃はなぁ……」
何も通用しない。
全て足りない。
それが解っただけでも大いなる進歩と言えよう。
千里の道の一歩目だ。
「でも、最後は反応できてますよね?」
今日は朝からコタツで雪奈と一緒に昨日の練習風景を確認していた。
最初は青い顔で俺の斬首シーンを見ていた雪奈だが、今は慣れたようだ。思った通り、雪奈はDAMAで頑張っていける素質がある。
「開始直後に反応系の魔法を複数全力で使用してようやく見えた。
何とか身体を少しだけ動かしたが、剣の軌道が変わって切られた。
どれだけ首に執着してるんだよコイツ……妖怪首置いてけかよ……」
毎回攻撃パターンは違ってたのに、全部首を狙ってきたぞ。
「まぁ、こっちは何とかするよ。
それで、雪奈の方は?
勉強進んでる?」
「はい!全部読み終わりました!」
「早っ!まさか徹夜とかしてないよな?」
中学生のうちに徹夜は良くない。地獄を見るのは高校からでいい。
そうしないと俺みたいに夜型になってしまう。
「その、昨日声をかけてから一時間だけ勉強しましたけど、徹夜はしてないです。
アイズさんがまとめてくれた資料が解りやすかったからだと思います」
「まぁ、日が変わる前に寝たならいいけど……
じゃあ今日から聖剣作成か」
それじゃあ、ちょっと息抜きに授業でもしようか。
「DAには大きく分けて、2種類の作成方法があります。
一つ。手作り。
二つ。CADで作る」
「CADってなんですか?」
CADとはコンピュータ支援設計(computer-aided design)の略称であり、主にコンピュータの設計ツールのことを差す。
コンピュータにより人の手によって行われていた設計作業を支援し、作業効率を高めるとともに、設計の段階で完成を想像しやすいというメリットもある。
出典: フリー百科事典『デヴィアペディア(Devia-pedia)』
「ありがとう、アイズ。
最近だと建物をはじめ、プラモや入れ歯に至るまで、CADで設計されていることが多いね」
「私、使ったことないです」
「そういう人のためにこれ!DA-CAD!
サンプルが充実してて、感覚的に操作できるため、簡単に聖剣をデザインできちゃうマルチツール!個人での使用だとお値段なんと50万!」
「お金ないです……」
「そんなあなたに!DAMAがライセンス契約してるおかげで、DAMA関係者は貸出帳簿にサインするだけで無料で借りられちゃうのだ!
しかも!卒業後も使用可能!
さらに今ならアイズが用意してくれた初心者用のDA作成キットもつけちゃってこのお値段!」
「わぁ!安いですね!」
ネットショッピングのテンションに、雪奈が合わせてくれる。
学費さえ払えば無料というのは、冗談抜きに安い。
DAMAには各種OSをはじめ、ペイントツールや動画ツールなど各種用意されているため、それらを使うためにDAMAに入った方が、個人で用意するより安いと言われている。
そして使えるものは全部使い倒すのが俺たちの正義だ。
「設計した後はどうするんですか?」
「先ほど斬首動画で見たバブルスフィア。
あれに読み込ませることで、複写空間で実動作確認できるんだ」
「なるほど、バブルスフィアとDA-CADさえあれば、誰でも聖剣が自作できるんですね!」
両方個人所有のハードル高いけどね。バブルスフィアは値段以前に国の認可が必要だし。
「でも、バブルスフィア内じゃなくて、現実で実際に使いたくなったらどうするんですか?」
「それはこちら!
DA-3Dプリンターで出力します!」
俺はリビングの隅にデカデカと鎮座するプリンターを指さした。
材料をセットし、図面を読み込ませれば、基盤と呼ばれる魔法金属を成型出力すると同時に、魔法機能を発動するための聖剣回路を刻み込んでくれるのだ。
実際にはパーツごとの出力が必要だったりと色々な制約があるが、それは割愛する。
「直径2メートルくらいまでならコイツで造れる。
それ以上は分割して組み立てるか、校舎に置いてある特製のを使わないと駄目だね」
「聖剣も3Dプリンタで造る時代なんですね……
でもそうなると、手作りするメリットは何ですか?」
さっき話した通り、DAの作成方法は二つ。手作りとCAD。もちろん両方にメリットはある。
「CADに馴染のない人はもちろん手作り。
でもそれ以上に、手作りとCAD製は解像度が違う」
「解像度?」
「だいぶ改善はされてるんだけどね……
アイズ、適当な写真と、256色に落とした写真を並べて」
眼鏡に、白い学ランを着てはしゃいでる雪奈のフルカラー写真と、256色変換された写真が投影される。
おい、なぜこの写真を選んだ。
「こんな風に、設計したデータを実際に出力すると、精度が荒くなる」
「あの、この写真は一体何時……」
雪奈さんがジト目で見て来るけど、無視して続ける。
「3Dプリンタもそうだけど、バブルスフィアで出力した場合も同じ。流石にここまでは変わらないけどな。
CADで聖剣回路を細部まで書き込んでも、出力すると潰れて機能しなくなっちゃうことがあるわけだ。
そのため、複雑なDAは最初から手作りするか、3Dプリンタで出力したものを調整する」
「あの、私の写真……」
スルーする。
「優秀な聖剣鍛冶師はまさに職人だ。ナノ単位の微細な聖剣回路を刻み込む。
俺たちはそこまではできないが、出力したDAの回路が図面通りかチェックし、補修することはできる。
高品質なもの、小さいものを作りたければ、最終的には手作業も必要ということだな!」
「……せめて大切にしてくださいね?」
諦めてくれたらしい。
「スマホの待ち受けに使ってる」
「それは恥ずかしいので止めてください!」
俺は止めよう。だが、写真を喜んでいた雪奈のお母さんはどうかな?
「とりあえず、今のところはアイズが用意してくれた手順書に従ってDAを造ってみてくれ。
空間切断の機能はメジャーだから、ロサンジェルス聖剣研究所の回路表にある」
「回路表は昨日確認しました!技術解析が終わっている属性のほとんどを公開してくれてるのは助かりますね」
日本とアメリカは、基本的に研究成果をオープンにしている。
ダンジョン出現時、世界中で手を取り合う必要があったため、著作権や特許の範囲外に制定された事が根本にある。
中国、ロシア、EU諸国も研究成果をオープンにしているが、どうも内容が一回りか二回り古いんじゃないかと噂されている。
……あくまで噂だ。
「DA-CADについてはすでにアイズが雪奈のPCに(セキュリティーを無視して無許可で)インストールしてるだろうから、それを使ってくれ。
アイズ、手間取っていたらヘルプよろしくな」
「了解」
「解りました。それじゃあ頑張りますね!」
そう言うと雪奈はみかんを二つ持ってコタツから出て自室に歩いて行った。
それじゃあ俺は……気付けに一度首を斬られに行ってくるか。
Science Technology for Magic Technology - 了
次の話は本作の主題である『問題』及び『解答』となります。
とりあえずは練習問題ですので、一度目を休め、トイレにでも行って、気軽に
・自分が良二くんの立場ならどうするか
・自分の好きなキャラならどうするか
・日頃妄想する脳内キャラならどうするか
・どういう条件があれば自分でも可能か
等考えていただければ幸いです。正解なんてものはありません。考えるのを楽しむことこそ重要なのです。
それでは出題です。
練習問題:反応速度を超えた超高速剣術に対応する方法を答えなさい。
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