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第五十三話 勇名胸に、熱き心の歯車回せ

 ずっと彼の背中を見てきた。

 ずっと彼の背中を追ってきた。



 僕の両親は共働きで、いつも家にいなかった。子は父の背中を見て育つというけれど、僕の記憶には父の背中は無い。

 何時だって僕の前にいたのは、大きくて逞しくて頑丈な彼の背中だった。同い年のはずなのに、小さな僕には大きな彼は憧れの存在に映っていた。一人っ子の僕は、あるいは兄のように思っていたのかもしれない。

 彼との散歩は好きだった。彼の背中を追うのが好きだった。僕を気にせず歩き続ける背中を追った。

 DAMAトーキョーに入学したのも、彼の背中を追ってだ。バイクに乗るのは楽しかった。常に彼の背中があった。


 彼の背中は何時だって安心した。道に迷っても、心細くはならなかった。行く道が解らなくても、心配せずについて行った。


 特別な人になりたかった。たった一人でも曲がらない。たった一人でも挫けない。たった一人でも進み続ける、そんな特別になりたかった。

 そうだった。僕にとっての特別とは彼のことだった。それじゃあ、何で僕は特別になりたかったのか。


 彼が一人だったからだ。特別になれば、彼は一人じゃなくなるからだ。彼の隣で歩けるからだ。

 ある日の夕暮れ。走って追いついた彼の横顔を今でも覚えている。寂しそうな彼は僕に気が付くと珍しく笑った。

 彼がほとんど笑わないのは、隣に人がいないからだ。曲がらなくても、挫けなくても、進み続けられても、一人じゃあ寂しいだろう。

 彼は周りに合わせない。それなら僕が頑張らないと。背中を追っていては見えない、彼の笑顔を見るために。


 僕たちはボタンを掛け違えた。

 僕がするべきことは決まっていた。

 恐怖に心が囚われたから。一歩を踏み出す勇気が足りなかったから。彼の強さを言い訳に逃げ続けた。

 答えは一つだ。今こそ掛け違えたボタンを全て取っ払おう。

 当時選べなかった最善を選ぶために。





 ずっと彼を感じていた。。

 ずっと彼に追われていた。



 俺には父親がいない。いわゆる母子家庭だ。母さんはいつも忙しく、構ってくれることはほとんどなかった。

 お金もない子供のできることはたかが知れている。俺は時間をつぶすために、ただただ辺りを歩き回った。目的はなかった。楽しくもなかった。

 何時からか彼が付いてくるようになった。何でもできる凄い彼だ。彼はずっと喋りながら俺の後をついてきた。何が楽しいのだろうか、彼の声は何時も明るかった。俺は喋るのが苦手で、偶に相槌を打つのがせいぜいだった。それでも彼は笑ってくれた。

 俺は一人じゃなくなった。少し笑えるようになった。彼が後ろにいるから、俺はどこへだって歩いて行けた。彼がいなければ、俺はずっと同じところを歩いていただろう。

 道に迷ったこともあった。そんなときはいつも彼が導いてくれた。それでもっと迷うこともあったけど、彼が後ろにいるのなら怖いことは何もなかった。


 DAMAトーキョーに行くことを決めたのも、彼の言葉があったからだ。

 推薦入学で寮住まいなら、お金の負担はほとんどないね。母さんに楽をさせられるよ。エンジンの勉強だってできるぞ。心配なら僕もついて行こう。

 俺は俺のためにDAMAを選んだ。彼は俺のためにDAMAを選んだ。ずっと助けてくれたことも含め、この借りは絶対に返さなければならない。


 バイクは好きだ。エンジンのリズムが好きだ。躍動感が好きだ。彼と一緒に遠くに行けるのが最高だ。そんなバイクが俺と彼の運命を変えた。

 本来なら襲われるのは俺だった。俺が誘わなければ彼が倒れることもなかった。俺は二度も選択を間違えた。

 借りだけが増えていく。返せないものだけが増えていく。

 彼の代理は俺には荷が重かった。俺は彼のように器用じゃない。真っすぐ行くしか能がない。何度も何度も傷ついた。辞めてしまいたかった。しかし俺には彼の代わりとなる義務があった。

 そんな心で戦えたのは、後ろに彼がいたからだ。彼の存在は力をくれた。彼に弱い姿を見せられない。彼の存在は呪いだった。彼が一人で戦えたのなら、彼と二人で戦える俺が諦めるわけにはいかない。


 俺は特別になりたかった。

 背中にいる彼が、どこかに行ってしまわないように。

 前を向きながらも、それだけしか見えていなかった。


 俺たちはボタンを掛け違えた。

 気が付いた時には遅かった。

 借りを返すも何も、これは本来俺の仕事だった。

 色々向き合って、ようやく気付いたことがある。

 掛け違えたボタンは戻らない。

 それでも今から正しい答えを選べるはずだ。




 足元に転がってきた円盤を拾い上げる。そこには文字が刻まれている。


 Divine Gear 999


 かつてそこには違う数字が刻まれていた。

 僕だけの特別な数字。


 ショートは僕を庇い、ドラゴンのブレスの直撃を受けた。

 それはまるであの時の合わせ鏡のようで、僕の心を大きく揺さぶる。


「ありがとう。

 今までありがとう、ショート」


 思わず口を衝いて出た言葉は、感謝と別離を意味していた。今までを精算して、これからの一歩を踏み出す。そのために必要な言葉だ。


「違う――

 これは俺の役目なんだ。俺だけの役割なんだ。

 リンの代わりじゃなくて、俺が自分で、一人で――」

「それこそ違うよ。

 最初は僕が選ばれた。僕が引き受けた。

 最後まで、僕がやらなくちゃいけない事だったんだ」


 僕は逃げた。

 ショートこそがふさわしいと。僕は彼の背中を見ていればいいと。それが正しいと嘘をついた。


 間違いだった。理由はどうあれ、掛け違えであれ、僕が戦い続けるべきだった。心臓のギアを譲り渡す必要なんてない。僕が戦えば、それで完成(・・)だったのだ。

 恐怖に屈した。誇りを捨てた。勇気が足りなかった。


 今それを取り戻そう。


 僕は握った円盤に力を籠める。円盤から返事はない。どうやら、僕を主とは認めてくれないようだ。当たり前だ。このディバイン・ギアはショートを主と認めたのだから。


 しかしそんなこと(・・・・・)、今の僕には関係ない。



「僕はね、特別になりたかったんだ。

 そうすればショートの隣に立てるから」



 先ほど手に入れた『模倣』のコアを取り出す。僕の心臓。始原回路を刻むうえで、これ以上の素材は無いだろう。



「リンは――俺にとって特別で、大切な親友だ!」



 僕は顔を歪ませ叫ぶ彼に笑いかける。



「知ってる」



 右手にディバイン・ギアを。左手に心臓を。

 手の中の心臓に魔力を流す。すでにコツは掴んだ。どうすればいいのかは俺の心臓が知っている。右手のものを左手に。その全てを模倣する。

 心臓が輝きを放つ。

 俺の心臓のように、ディバイン・ギアの情報と心臓の情報が溶け合っていく。


 10数秒経った後、光の収まったそこには白く輝く円盤が存在していた。


 Divine Gear 666


 僕の数字だ。僕だけの特別な数字だ。


「さあ行こう、僕の親友」


 彼に右手を差し出す。その中にはショートのディバイン・ギアが握られている。



「今度は二人で。

 僕たちは二人ともディバイン・ギア・ソルジャーなんだから」



 あっけにとられたような表情の後、何時か見た笑顔に変わる。


「人使いが荒いな」


 ショートはディバイン・ギアを受け取ると、僕の手を取り立ち上がる。


「良二くんよりはマシじゃないかな」


 ショートは強制解除されたばかりだ。身体と精神にはダメージが残っているだろう。

 でも僕は知っている。彼の背中は大きく、逞しく、頑丈なのだ。

 傷つき倒れても、それでも立ち上がれる強さを持っている。さらに一人でなく二人ならば、きっとどんな状況でだって戦える。


「……俺も覚悟を見せなきゃな」


 ショートが後ろを振り向く。

 そこには僕たちが何時も乗っていたバイクが停まっている。


「解っていたんだ。もっと早くにこうするべきだった」


 ショートはバイクに近づくと、エンジンの辺りに手を触れる。

 新たに始原回路を刻む場合、刻む対象と自分の相性、そして対象への思い入れに左右されるという。


 バイクが光り輝く。

 10数秒経った後、光の収まったそこには白く輝くブレスレットが存在していた。


 ショートは僕たちの一年の思い出を左腕に装着する。


 僕は左手に円盤を持つと、それを胸に強く叩きつけ回転させた。

 ショートは右手に円盤を持つと、それを胸に強く叩きつけ回転させた。



『『動輪接続(サイクリング)!』』



 懐かしい声が胸から響く。

 僕の右腕にカードリーダーが現れる。

 僕はSCカードを取り出すと、一つ大きく息を吐き、スロットにカードをスライドさせた。


 これが僕だ。僕だけの特別ディバイン・ギア・ソルジャーだ。

 心の炉に火を灯す。

 今度はかき消されないように、強く強く言葉を発する。



「「心炉起動(アクティベイト)!!!!」」



 光が僕たちを覆い、装甲が装着されていく。

 ショートを銀色の鎧が、僕を白色の鎧が包み込む。

 各部に歯車をあしらったアシンメトリーのスーツ。二人そろうことで、左右対称として完成する。



『パワーシックス!スピードシックス!マジックシックス!インコンプリート・ナンバー:グローイング!

 ディバイン・ギア:アルス!!』


『パワーナイン!スピードナイン!マジックナイン!オールナイン・フィーバー!

 ディバイン・ギア:ナイツ!!』



 僕はギア:ナイツに僕のSCカードを投げる。

 それをキャッチしたギア:ナイツは、代わりにショートのSCカードを投げ返してきた。


 僕らは受け取ったカードをスロットに読み込ませる。


 足りなかった全てが満たされる。

 各部の歯車が回り、新たな装甲が追加されていく。

 ギア:ナイツは金をベースに紫のメタリックの縁取りの、そして僕は紫のメタリックをベースに金の縁取りの鎧を身に纏う。




『『パワーF(フィフテーン)!スピードF(フィフテーン)!マジックF(フィフテーン)!フレンドシップF(フィフテーン)

 Final Formurar For Future!イッツアパーフェクト!』』




 僕たちは『完成』する。

 ギアを上げていく必要はない。

 最初から最後まで、カウントは変わらず最強で――



 僕たちは目の前にいるドラゴンたちに指をさす。


「「お前たちに、カウントナインは必要ない!!」」





 666 x 999 - 了

W変身+W最強モード初披露

主題歌とか流れて無双が始まります。


歯車は回る

二人の速度は加速する

恐れるものは何もない

絶望の漂う戦場で

誰が最強か問いかける


その答えは二つ



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ&アルス

「ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ&アルス」


レディ!アクティベイト!


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