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第五十話 惑星焼却式

「これは僕の魔力器官だ」


 輪之介が茶色い魔石に指を這わせる。

 その形状は、どことなく心臓の形に似ていた。


「僕がディバイン・ギア・ソルジャーになった時に壊された心臓。

 僕が初めて会った、蝙蝠の深界獣に食べられた心臓。

 もしかしたら逆で、コレからあの深界獣が作られたのかな?」


 今はもうわからないけれど、とつぶやく。


「輪之介と同じ模倣の機能が備わっているということか。

 それに自分から零れ落ちてしまったものを混ぜて、紫月は自分のコピーを造りだした。

 それが紫月異相の正体」


 輪之介の魔力器官に彼女が食べたもの、彼女が手にしたもの、そして彼女が失ったものをひたすら混ぜ込んだ魔力の人形。

 壊れても壊れても繰り返し模倣され続けた哀れな残り粕。


「女狐の炎は昨日観測したものを取り込んだか」

「属性そのものを取り込んだわけじゃないから、模倣に時間がかかったんだね。

 もしちゃんと使えていたら危なかった」


 麗火さんの炎は繊細に制御されている。

 模倣の機能がどれだけ優れていても、あの技量を再現するのは難しいだろう。

 きっと時間をかけて再現したところで、どこかで破綻していたはずだ。

 そして破綻し暴走していたら、辺り一帯は火の海どころか一瞬でプラズマに分解されていた。


 ――それに何より、使わせたくはなかった。


「あれも僕の一つの可能性だったのかな?

 まぁ、今となっては真似するつもりもないけれど」


 輪之介はさわやかに笑う。


 彼は最後に深界獣のコアと正面から対峙した。

 その時、何を想ったのだろうか。

 何かを感じたのだろうか。

 最終的に、彼は自身の魔力をコアに流し、コアの始原回路を書き換え停止させた。

 過ぎ去った過去では、彼が失った後に手にした技術には対応できなかったのだ。


「問題は、まだ残っているがな」


 目の前の光景に仁がため息をつく。



 現在仁と一真は俺と同じ世界にいる。

 深界獣コアを失い、深界バブルスフィアが解除されたからだ。

 しかし俺の変身は解除されていない。

 目の前には白い花びらが舞い続けているからだ。


 花びらをかき消すように、滝のような勢いで銀色の欠片が流れているが、それでも花びらの勢いは止まらず増え続けている。

 一真が全力でDAを使っているのだが、花びらを消すよりも増える方が圧倒的に速いのだ。


「二葉がいても無理ですね……」


 一真が諦めをこぼす。

 一真は八つ当たりのように、花びらの中心に立つ紫月の形を攻撃した。

 紫月らしきものは銀の欠片に貫かれ霧散したが、すぐに辺りを舞う花びらが新たな紫月を形成してしまう。

 破壊しても破壊してもきりがない。モグラ叩きのようだ。

 きっとあの姿には何も意味がないのだろう。

 本体はこの桜の花びら全てだ。



「――何が起こっている?」


 休息を取り、何とか立ち上がれるようになった昇人が問う。


「間に合わなかった。

 深界獣は深界バブルスフィアで自身の『深界』属性をこちらの世界の属性に変換する。

 それが完全に終了したんだ」


 深界獣退治に時間がかけられないのは、深界獣が成長し強力になるのもあるが、一番の理由は成長しきると深界バブルスフィアから出てこちらの世界で行動できるようになるからだ。


 実際には紫月異相の属性完全変換は間に合わなかったのだろう。

 しかし彼女は消滅間際に変換が終わった分だけを、新たな模倣として造りだした。『深界』属性を含まない新たな魔力生物の誕生である。

 そこに紫月異相自身の情報は何一つ含まれなかった。

 花びらで形成される紫月の姿は紫月異相の姿を模しただけで、花びらには紫月異相の意思のようなものは残ってはいない。



 白い花びらの目的はただ一つ。生物らしく、自らの繁殖だ。



 ――そろそろ変身の維持がつらくなってきた。

 SCカードを一枚読む。


『ヤサカニ』


 マフラーの色が赤に染まる。


『了解が取れたわ』


 麗火さんから通信が届く。


『動画と理論値が聞いたみたいね。やっぱりインパクトは大事だわ。

 でも本当なの?』

『数値は適当だ。かなり盛ってる。インパクトは大事だからな』

『あら、それじゃあ私の方でさらに盛る必要はなかったかしら。

 最終予想の方は?』

『予想自体は本当だよ。恣意的な予想だけど』


『放置すると世界が滅ぶ。

 魔力を吸い取り倍々ゲームで増え続ける生物は存在するべきじゃあない』


 この白い花びらは魔力を吸い自身のコピーを作成する。その数はネズミ算的に増えていく。

 どこかでコピーが失敗しがん細胞のように変質する可能性は高いが、それに賭けるほど悠長なことはしていられない。

 幸い白い花びらはバブルスフィアの中で生まれた。

 バブルスフィアから出れば存在が確定されるが、バブルスフィア内ですべて消してしまえばそれで終わりだ。

 どういう原理なのか、今のバブルスフィアは花びらを生かすと同時に閉じ込めている。今が殲滅する最大で最後のチャンスだ。


『その通りね』



『DAMAトーキョー剣聖生徒会生徒会長が命令します。

 世界ごと、全てを焼きつくしなさい』



『その命令、引き受けた』


「そういうわけだ。

 みんな早く出ていってくれ」


 俺はそう言い皆を見る。


「わかりました。頑張ってくださいね」


 一番早くに逃げたのは一真だった。いや、風紀騎士団団長様は最後に出ろよ。


「噂には聞いたことがあるけど……例のヤツ?」

「見たくはあるが……」


 輪之介が昇人に肩を貸し歩き始める。


「見たところで面白くもない。

 何もわからぬうちに気が付いたときには死亡酔いだ」


 仁が奪うように昇人を持ち上げる。

 輪之介が不服そうだが、背の低い輪之介が肩を貸したところで歩く邪魔にしかならないだろう。

 三人で俺に背を向ける。


「相変わらず、全ての面倒毎は最終的に貴様送りか」


 仁が振り向きそう言うと、世界から姿が消えていった。


 これで、バブルスフィアの中には俺と花びらだけだ。


『キュウビ』


 再度カードを読み込ませる。


「嫌いじゃないよ、そういう役目」


 ひとり呟く。


『トツカ』


 三段階読み込みにより、右腕のDAがかつてないほどに熱くなる。

 内部で肉の熱せられる感触があるが、幸い右腕は生体義腕でありある程度融通が利く。痛覚の遮断くらいお手の物だ。



 世界は頻繁に危機に瀕している。

 深界獣も、白い花びらもそのうちの一つに過ぎない。

 今から使う機能もその一つ。



 燃焼置換(ネンショウチカン)無限炎天(ムゲンエンテン)



 惑星焼却式の異名を持つ、麗火さんを生徒会長に仕立て上げた、彼女の最悪火力である。


『Warning. Warning.』


 DAからの警告が脳内に響く。ギアさん由来のものではない、剣聖生徒会から渡された管理ツールによるものだ。

 ちなみに音声は広報担当である音彩のものだ。


『セキュリティコードを入力してください』


 麗火さんから送られたコードを入力する。


『原理式を入力してください』


 これから実行する機能の原理が脳から読み取られる。


『確認完了。世界の焼却が許可されました。

 自身の安全を確保した上で処理を実行してください』


 DAからいくつかのネジが外れ、奥から長い銃口が姿を現す。


『対炎絶対真空領域展開』


 深紅のマフラーが大きく広がり、身体全体を囲む。


 トリガーを引く。


『フレア・オブ・サタン』


 唯一マフラーの外に出ていた銃口から小さな炎が放たれ、同時に砲身が外部へとパージされる。


 炎が一枚の花びらに触れ燃え移る。

 花びらは一瞬にして燃え尽き、炎は周囲の空気に燃え移った。

 空気から次の花びらへ、花びらから空気へ、空気から花びらへ。一瞬の内にどんどんと燃え広がっていく。

 やがて炎は地面にたどり着き、地面すらも焼き始めた。



 炎は全てを燃やす。

 炎は燃え広がる。


 その二つの概念を合わせた機能。それが無限炎天である。

 その炎には対象の可燃性など関係なく、土だろうが水だろうが焼きつくす。炎は際限なく燃え移っていき、最終的に惑星全てを燃やし尽くす。

 白い花びらが無限に増えようが、それ以上の速度で無限に焼却する。


 存在が許されず、回路の構成式と詳細な原理は麗火さんの脳からも消去された。現在再現できるのは、絆という不確かなものから機能を復元した、このDAだけだろう。



 白い花びらは、バブルスフィアという世界ごとすべて焼きつくされた。






 Party x Encore - 了

一度幕は降り、わずかな休息の後再び上がる

最終戦第二幕が開演する

矢は尽き剣折れ

残る力はどれほどか

消えゆく月が登る時、二人の世界も終わりを始める

月のない空、最後に失ったものは何かと問いかける


これは失われたものを取り戻す戦い



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ

「紫の月は欠けている」


レディ!アクティベイト!


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