第八話 世界の裏側には大量の屍が積まれてる
「まぁ、テンション上げても俺たちにできることは別方面からのDA天元流の対応だけなんだけど」
正技さんの解析は必要ではあるが、進捗に影響を及ぼすものではない。
ただ、方向性は何となく見えた気がするので、それを目標に開発をしていこう。
「まずは大まかなスケジュールを立てよう。
最終期限は一月後。なので、まずは二週間後を目安に試作型聖剣を完成させ、そのDAで正技さんに道場破りを挑み、実戦での使い勝手を評価、問題点を洗い出し、改良を行う。
その後二週間で最終評価型DAを作成、最終試験を行う。
これでいいか?」
「最初から最終評価型DAを作るんじゃだめですか?」
「時間が無ければそうする。でも可能なら一度実地運用してみたい。
それにまだDA天元流の必殺技のヒントが何もない以上、一度手合わせして可能な限り情報を得たい」
道場破りの動画は再確認したが、それらしい技は何もなかった。
練習風景の方には道場破りで使っていない気になる技がいくつか録画されていたが、実戦ではないので評価が難しい。
「わかりました」
「じゃあDAの設計の方だが、仕様書、詳細設計書、方式設計書等書くのが普通だが、あいにく時間がない。
設計書はメモ書きで、直接図面を書いて造って動かしてのトライ&エラーで行こうと思う。
どの道仕様が完全に決定するのも期末直前になるだろうし。
テストも同様、残念だが単体試験結合試験総合試験なんていちいちやってられない」
「はぁ……私は手順についてはまだ勉強してないので何とも言えません」
「ああ、そうだったね。全部終わったら一緒に勉強しようか」
「はい!」
ちなみにDAMAトーキョーは3つの科に分かれている。
聖剣の専門的な使い方を習う剣聖科。
聖剣の専門的な作り方を習う聖剣鍛冶科。
聖剣の基本的な作り方と使い方を習う普通科。
俺は普通科で、DAの設計と使用がそこそこできるし、一応資格も持っている。
科は分かれているが、授業自体は選択/必須の差はあれどどの科でも受講できるため、来年は専門系の授業も選択するつもりだ。
「テンプレートなら用意されてるし、後付けでいいなら、仕様書設計書は僕が作れるね。
試験の方は適当なツールを見繕っておくよ」
アイズから提案される
「ありがとう、アイズ様。愛してるよ」
「プレゼントはマスターの通信限度三か月分の情報量の指輪でお願いね」
俺のスマホは通信無制限なんだけど……
あとアイズまでマスター呼びするのか。
「作るのは近接戦闘用……できれば剣か刀かな?」
実のところ、正技さんに勝つのは難しくない。
遠距離から反応速度を超える攻撃を放てばいいのだ。
例えばDA冷凍みかん君を改造し、マッハ3で冷凍みかんを複数射出する、多連装超音速冷凍みかん射出機『完全殲滅冷凍みかん君』でも造れば勝てるだろう。
しかしそれでは意味がない。お互い何も学べない。
相手の土俵で勝たなければ楽しくもない。
「解決しなければいけない課題は二つ。
一つ、空間切断。
二つ、超高速剣術。
空間切断については、予め切断された空間に侵入できないという特性があるから、同じく空間切断の属性を持つDAで防げるはず。
こっちは雪奈に対応してもらう予定だから、今日明日はお勉強をお願い。
参考書は……アイズ、お願い」
「了解、わかりやすいサイトを探しておく。
あと、初心者用のDA作成キットと、ロサンジェルス聖剣研究所でフリー公開してる回路表も用意しておくよ」
「よろしくお願いします!」
雪奈は入試のこともあるし、早めにDAを造った実績を用意しておきたい。空間切断のDAなら、とりあえずは問題ないはずだ。
また、雪奈にはこれを機にDA開発の楽しさを知って欲しい。
「俺はとりあえず、どれだけ正技さんの剣術に対応できるのかを確認したい」
自分の技術がどこまで通用するのか。
自分に何が足りないか。
まずはそこを見極める。
「アイズ、動画から正技さんのダミーは作れる?」
「すでに作成中。完成は明日になる。
現在の見た目はマネキン。速度の再現率は90%。動きの再現率は85%。
再現が難しいからたまに関節が変な方向を向いたりするけど問題ないよね?」
アイズ様は本当に優秀有能だ。
「問題ない。マジありがとう。
それじゃあバブルスフィアへの設定もお願い」
「了解」
「世界は大河に浮かぶ泡の様なものだ」
そう言ったのはアメリカはロサンジェルスに出現したダンジョンの研究をしていたジェームズ・V・アダムスだ。
それが「バブルディメンション理論」。1982年の事だ。
河は過去から未来に流れ、中には世界と呼ばれる泡が点在しているという。
彼は魔法により上位次元世界を観測したのだ。
原理や詳細は省こう。
今重要なのは、泡の表面に泡を浮かべるように、『世界の限定的な複写が理論上可能である』という理論が提唱されたことだ。
証明に5年、技術の一般化にさらに10年かかった。
今では研究室でお手軽に世界を複写できる。
聖教授は昨日から自室に籠ってシステム設計を行っている。
そのため、今日は研究室を使う予定の人はいない。遠慮なく使わせてもらおう。
俺は研究室に入りバブルスフィアを起動する。
バブルスフィアは一定空間内の全情報を読み取り別世界に泡として複写する。
その情報とは俺の身体情報であり、起動時に設定した道場の情報であり、持ち込んだ魔法情報メモリ内のDAの情報であり、アイズが用意したダミー正技さんの情報である。
つまり、情報を用意しておくことで、仮想的に実体を持たせ動作確認と研究を行えるのである。
ここ数年で技術開発が飛躍的に進歩した要因でもある。
「じゃあ始めるよ」
バブルスフィア内に展開された俺の複製体の正面には、のっぺりとしたマネキン人形が立っている。アイズが用意したダミー正技さんだ。
そして俺の右手には愛用の十徳聖剣。
バブルスフィア内での怪我は現実の肉体に影響を及ぼさない。そのため危険なDAを使っての模擬戦闘に
世界が一回転した。俺の首が刎ねられたのだ。
気が付くと、俺は大の字になって研究室に寝ころんでいた。
首から下が痺れて全く動かない。
目の前が霞み吐き気がする。大嵐の海原の上で小舟に揺られながら一晩過ごしたような、壊れかけの高速ジェットコースターに1時間乗り続けたような、不規則に回転する遠心分離器にブチ込まれたような、そんな気分だ。
死亡酔いだ。何度体験しても、この感覚は慣れない。
才能があっても、DAMAを一年以内で離れ、普通の高校に転入する人は多い。
理由は、言わなくてもわかるだろう。
「5分後、リトライだ」
「了解。死なない程度に頑張ってね」
今は17時。日が変わるまでに、初撃には対応しよう。
休憩と夕食を挟んで、就寝する雪奈に止められるまで合計31回。
俺の首が飛んだ数である。進捗は何もなかった。
Die to Study - 了
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