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第四十八話 少女たちの大宴会

「タノシイネ

 ウレシイネ

 アタタカイネ

 パーディーダネ」


 空をポリゴンで作ったような火の鳥が飛んでいる。鳥には無数の鎖の形状をしたツタが絡まり、そこから色取り取りの花や鎌や刀剣と言った武器が咲いている。

 鳥の頭はなく、代わりに真っ白な髪で真っ白な肌の紫月異相の上半身が生えている。


「……どうしてこうなったんだ?」


 思い出してみる。

 焼ききれそうな脳の痛みの中、蘇生しては死んでいく紫月異相を何度も見た。

 意識が朦朧として何度見たかまでは覚えていないが、気が付くと紫月異相の姿はなく、地面は様々な色のペンキをぶちまけたような様相となっていた。

 さすがにこれで終わりではないだろうと思いボーっと眺めていたところ、目の前の液体に波紋が広がった。

 無意識のうちに無数のナイフが波紋に殺到したが、その悉くが弾かれた。流石に学習したのだろう、蘇生前に壁のようなもので周囲を囲っているようだった。

 そして波紋の中から現れたのは、見た目は紫月そのものだが、瞳以外が全て白で染められている少女だった。

 あまりの白さに、紙にペンで書かれたような姿だと脳が錯覚するほどだった。

 なるほど、光の三原色ならば全ての色が混じる場所は白となる。


「オカシイワ オカシイワ

 タノシク アカルク オカシイワ

 シロク ナリマショウ

 シロク ソマリマショウ

 ハメツノイロニ カワリマショウ」


 紫月異相は真顔でケラケラと笑うと、ナイフを弾きながら高速で空に飛翔していった。

 そしてなんだかんだあってああなった。


「DAの使い過ぎかな。

 あの姿になったところを見逃した気がする」

「僕も見逃したのかな。気が付いたら鳥が生えてた」


 輪之介と意見が一致する。どうやら見逃したわけではなく、実際に一瞬で様々なパーツが生えてきたのだろう。


 空を眺めていると、花が赤く瞬き、紫月異相の周りに一回り小さな火の鳥の群れが現れた。

 火の鳥たちは自らの身体を燃やし尽くすことで急加速する。鳥たちが目指す先にいるのは紫月異相を追い空へと飛んで行ったギア:ナイツだ。


『カウント:シックス』


 ギア:ナイツの背部に光輪が現れ加速する。突撃する先は迫りくる鳥の群れだ。

 炎の鳥は自身の形状を維持するために不可視の壁のようなものを使っており、その機能でギア:ナイツの進攻を阻もうとするが、その尽くよりも速くギア:ナイツは空を駆ける。

 そして通り抜けた直後、連鎖的に火の鳥が爆発していく。彼はその爆風にも捕まらず、迫る紫月異相の横をすり抜ける。紫月異相とギア:ナイツの距離が最短になったタイミングで紫月異相に絡みついていたツタが解放され、様々な光と武器が彼を四方八方から襲うが、そのどれもが加速し続ける彼の姿を捕らえられない。


 ――それもそのはずだろう。現在のギア:ナイツはDAジェットエンジンの追加もあり以前よりも格段に速度が上がり、慣性制御デバイスによりあらゆる方向への転換が可能になっている。以前の力任せと速度任せの戦い方は全く見られない。

 さらに今回新規追加したDA-魔法欺瞞欠片聖剣マホウギマンケッペンセイケン『DAフレア/チャフ』は現在米軍で開発中の最新の魔法撹乱DAだ、周囲に自身の魔力のダミーを散布すると同時に、簡易的な幻影を付与し、さらに触れることで誘爆を起こす。

 DAMAトーキョーにおいては使用が制限されているが、今回の戦いは制限が大きく解除されているためギリギリ搭載が間に合ったのだ。

 D-Segなどの補助装備を身に着けるか冷静に見極めれば対処は容易だが、反射的な行動を取りやすい深界獣には抜群の効果を発揮する。

 各種申請とデータの入手のために睡眠時間を削ってくれた麗火さんも、この結果を聞けばきっと疲れが吹っ飛ぶだろう。


「オモシロイネ

 ハジケルネ

 カーニバルダネ

 カーニバルダネ」


 近距離での連続した誘爆を身に受け、紫月異相が体勢を崩す。

 その隙を見逃すギア:ナイツではない。彼は慣性軌道を巧みに使い誘爆の煙に身を隠しながら、火の鳥の背部に飛び乗った。



『カウント:セブン』


 背部の光輪が一際激しく輝く。

 ギア:ナイツは鳥の翼を両腕で固めると、光輪から噴出光を推進力に、そのまま火の鳥ごと地面へと落下する。


「シューティングスター・セメトリー」


 何処かで聞いた必殺技名を虚空に残し、二人と一羽は地面へと激突した。



「シロイヒカリ

 テラスワ キエルワ

 マタタイテ マタタイテ

 ハナビノヨウニ ハジケテ キエタワ」


 辺り一面が白に染まっている。

 その中心には紫月異相の上半身が転がっている。紫月異相は左右非対称の崩れた笑顔で、手だけで這って俺の方に近づこうとしていた。


「ノミタイノ

 タベタイノ

 ヒトツニ ナリマショウ

 イッショニ ナリマショウ」


 その動きも少しずつ緩慢になっていく。

 ギア:ナイツも輪之介も、動かずに彼女の最期を眺め続ける。


 紫月異相は、俺の僅かに届かない場所まで来ると這うのを止め、力なく手を伸ばした。


「ヒトツニ ヒトツニ」


 パシャリと液体に返る。


「―――」


 無言のままに三人で白い地面を眺める。


 本当にこれで終わりか?

 警戒しつつ周囲を見渡すと、ゆっくりと世界の色が戻っていく。

 深界バブルスフィアが解除されたのだ。


 ふぅ、と息を吐き変身を解除しようとするギア:ナイツと輪之介を見ながら、ふと気が付いた。


 世界が戻ったのに仁と一真の姿が見当たらない。直前までこの場所にいたはずなのに。


 とっさにストレージから残ったナイフを全て射出し、DAを変形させる。

 しかし、それよりも世界の変異の方が早かった。



 見渡す限り全ての地面が白く染まっている。

 足元の白が蠢いている。世界が全て白く―――



「アデヤカニ

 ツヤヤカニ

 センサイニ

 トロケルヨウニ

 サキマショウ サキマショウ

 ヒトツニナッテ サキマショウ」



 違う。染まったのは世界ではなく、俺自身。

 俺の周りの世界そのものが真っ白に染まり、俺を隔絶し閉じ込めている――



「パクリ」



 こうして俺は、巨大化した紫月異相の体内に捕食された。



 マズイ。

 紫月異相の温かく粘性を持った身体が俺の身体を包み込んでいる。現在俺は紫月異相の胃の少し下、臍の近く辺りに囚われているようだが、急速に魔力が吸われているのを感じる。

 すでに一真のSCカードから補充した魔力は尽きかけており、新たなカードを読み込ませたとしてもDAを起動できずに終わる可能性が高い。このままでは一分も持たずに変身が解け、そのまま溶かし尽くされることは想像に難くない。

 幸い囚われる直前にナイフでギア:ナイツと輪之介は遠くに弾き飛ばしたため、囚われたのは俺一人だった。

 二人はこれを助けようと戦闘しているようだが、俺を囲むように無数の白い紫月異相が現れたため、ここまで来ることができないでいるようだ。隙を見て投げられた八丁長光も、巨大な紫月異相を倒す事無く体内に飲まれ消えていった。


「コレデヒトツ

 ミンナヒトツ」


 紫月異相が下腹部に手を当てる。

 その表情は俺からは確認できない。


「アタタカイワ

 キモチイイワ

 オイシイワ

 シアワセダワ」


 マズイ。

 スーツ越しにDA一人風呂のように気持ちよさが伝わってくる。

 思考が鈍る。安堵する。睡魔に襲われ意識が途切れ――



 我が盟友は貴様の胎に収めるには重すぎるぞ

 吐きだせ、淫魔が



 紫月異相の胸の間から黒い透明な剣が生えている。剣の中には所々赤い煌めきが走っているのが見える。

 剣から赤黒い雷が放たれ、紫月異相の身体を駆け巡った。


 紫月異相が何度も跳ね上がる。

 ゆっくりと剣が抜かれると、紫月異相の身体の痙攣も収まった。


 紫月異相は最期にもう一度臍の辺りに手を当てると、ゆっくりと手を沈み込ませ、俺を包み込み外へと出した。


「タベタリナイワ

 マタ アイマショウ」


 紫月異相は焦点の合わない目で俺の方を見ると、空虚な笑みを浮かべてそう呟いた。


 パシャリと紫月異相が身体を失う。


『何をしている』


 D-Segに脳内チャットのメッセージが届く。

 どうやら中継器が機能し始めたようだ。紫月異相が白で安定したからかもしれない。


『盲目にも程があるぞ、良二よ。

 裸の女に見惚れたか?

 初めての胎中に溺れる貴様は惨めだったが』

『言い方ぁ!

 それで、何が起こっているんだ。シュヴァルツには何が見える』

『アイズ、許可する。

 我が魔眼を持っていくがいい』

『解析中。

 これは可視化には無理がないかい?』

『解像度と次元を落とせ』

『了解。転送するよ』


 左目が破裂した。

 脳内が沸騰した。

 頭蓋が軋み内臓が逆転した。


 ――僅かに意識が暗転した後、意識が戻ると左目の視界には原色で彩られた異常な世界が浮かび上がっていた。

 SCカードで仁を読み込んだ時とは全く違う、ポリゴンで再現した抽象画のような世界だ。


 360度変わってしまったような感覚に思わず嘔吐(えず)く。変身していなければ実際に吐いていただろう。


『死にかけたぞ』

『初回はそんなものだ。理解不能な法則が脳に焼き込まれるからな。

 魔眼の覚醒は適性が無ければ発狂することもあると聞く』


 え、そんなのを許可もなく送り込んだの?

 確かにアドミニストレータの適正とギアさんの保護を考えれば問題ないんだろうけど!


『そんなことより現況を確認し直ちに対処しろ』


 発狂のリスクを『そんなこと』と言い捨てる仁に釈然としないものの、周囲を見渡す。

 左目に映る世界が360度、上も下も変わっている。恐らく仁の視覚野を映しているのだろうが、彼は左目だけ自分の周囲全てを見ることができるということなのだろうか。


 違和感しかない世界の中、もっとも違和感の強い場所は――


『なるほど、そういうことか』

『うむ。

 ツヴァイベスター、いやギア:アイズよ。



 貴様の敵は『地面そのもの』だ』





 Party x Strip - 了

問:高度な属性制御を行わなければ深界バブルスフィア内部に入れず、かつDAしか入ることはできません。仁くんはどのようにして攻撃したでしょう?



宴は終わり

宴会は終わり

大宴会も終わりを告げる

世界に満ちる紫の月

世界を焼き尽くす紫の月

その根源は一体何かと問いかける


願いよ想いよ花開け、少年の過去に終わりを告げろ



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ

「宴会の終わりは儚く」


レディ!アクティベイト!


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