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第四十七話 少女たちの宴会

 飲んで歌って殴り合って。

 食べて遊んで暴れ続けて。

 そんな酒池肉林の混沌が辺りを支配していた。


 超高熱火球に頑強な透明の壁、超音速機動に無数の鎖。記憶の内にある様々な攻撃が四方八方から襲い来る。

 現在紫月位相には二種類のパターンがあることがわかっている。

 一つ。保有属性による攻撃。今までに取り込んだ属性の内、一人一つ割り当てられており、それを通常の深界獣のように使用することができる。

 合体した場合、それらを同時に使用する事ができる。

 二つ。連結起動。全員同じような表情、ポーズに変わった後、同時に同じ属性で攻撃を行う。数は力だ。数千度の炎を数十同時に発生させられればそれを回避、防御しきるのは難しい。思考制御できる無数の鎖、姿を捉えられない音速機動等、使い方によってはこちらを簡単に詰ませられるだろう。


 弱点は三つ。

 紫月異相は他の深界獣と同じく、ある程度の戦術的思考は備えているが、戦略的思考は持っていない。

 仲が良さそうに見えるが、仲間内での連携を行わない。

 そして――


「アッタカイネ!」


 地面が解けるほどの熱量が、俺が寸前までいた場所を覆いつくす。振り返れば、両腕を鎌に変形させ俺と切り結んでいた水色とピンクの混じった紫月異相は消え、代わりに水色とピンクの液体が地面に散らばっている。

 紫月異相最大の弱点。それは同士討ちを全く考慮しないことだ。紫月の自我の境界線が曖昧で、他者の認知が正常に行えていないことが関係しているのだろうか。

 先ほどのビームの一斉照射も回避した結果、1/4ほどの紫月異相が液体に返っていった。

 故に攻撃よりも回避を優先し、同士討ちを誘っているのだが―――


「アツイヨ」


 赤い紫月異相は二色の液体に近づき掬い上げた。


「キモチイイヨ」


 液体から声が聞こえる。


「モット アツク」

「モット キモチヨク」


 紫月異相はうっとりとした表情で、その液体に口をつけ嚥下していく。


「「ヒトツニナレバ モットモット キモチイイネ

 モットモット アッタカイネ」」


 赤い紫月異相と、そのお腹の辺りから声が聞こえ、次第に肌の色と身体のラインが変わっていく。


「ゴチソウサマ

 アッタカクテ オイシカッタ

 カラダノナカ キモチヨカッタ」


 新しい紫月異相は肌の色は赤色をベースに、局部をピンクが、膝から下を水色が彩っている。

 左側だけに角が生え、右側だけに羽が生え、尻尾は七本で腕は一対。年齢は十代半ばで胸は控えめ。

 なんだろう、あえて俺たちの予想を裏切っている気がする。


「タベテアゲルネ

 ノンデアゲルネ

 ヒトツニナロウヨ

 キモチヨク

 アッタカクネ」


 紫月異相はうっとりとした表情のまま、新しい自分の身体を撫でまわす。

 あるいは同士討ちを避けないのは、彼女たち自身が早く一つになりたがっているのかもしれない。


 最後におへそ周りをくるりと撫でた後、紫月異相は突然感情の抜けた顔に変わった。

 すでに学習している。表情の変化は攻撃の合図だ。

 紫月異相の背中から三本の鎖が伸びこちらに迫る。その先端には赤熱化した鎌が生えている。鎖、鎌、高熱の複合属性だ。


「模倣展開」


 俺と鎖の間に飛び込む影がる。中学生と見まごうばかりの体躯だが、強い意志を感じる瞳からは、危険の中戦う覚悟を決めた力強さを感じる。

 輪之介は右肩の歯車の意匠に触れ回転させた。


略式阿修羅改リャクシキアシュラカイ八丁長光(ハッチョウナガミツ)


 迫る三本の鎖は、全て中ほどで断ち切られた。

 それを成したDAは輪之介の右肩から生える二メートルほどの一本の副腕、そしてその先端に装着された小刀だ。


 副腕は略式阿修羅。使用者の脳内領域へのデータのインストールを行わずに使用できるようになったマイナーチェンジ版だ。

 代わりに精密性と柔軟性が失われ、プリセットされた動作しか対応していないが、天元流から得たデータを反映しているため非常に滑らかに美しく、そして多彩に攻撃を行うことができる。一応行動予測についても予感程度に実装している。

 アイズがいつの間にやら開発していた一品だ。


 小刀-八丁長光は真忠さんの習作だ。DFD(蜻蛉切)改善のための技術検証として造ったものを以前3Dスキャンのサンプルとして使用したのだが、それを貰ってきたものである。


 輪之介の執事服の意匠は機能性向上や雰囲気作りのためだけでなく、それぞれに魔法情報メモリ(DAIM)とエーテルバッテリーが備え付けられており、『深界』属性を付与したDAを取り出すことができるのだ。

 彼はそれを一日で実用可能なレベルに仕上げた。やっぱり天才だな、こいつ。


「タベヨウヨ

 タベラレヨウヨ

 キモチヨク シタイカラネ

 キモチヨク ナリタイカラネ」


 紫月異相が首を傾げる。

 食べられようとしない俺たちのことを不思議に思っているのだろうか。

 その心中は解らない。そもそも心があるのかも解らない。無い気がする。


「まだ?」


 輪之介がこちらをちらりと確認する。


「まだかかりそうだ」


 紫月異相が弱点を抱えているように、俺達にも現在問題が発生している。


 一つは中継器だ。中の紫月異相の属性が目まぐるしく変わるからなのか、深界バブルスフィアの属性や位相が安定せず、それにより中継器も正常に動作できていない。

 通常バブルスフィアの位相は固定されている。ラジオ番組の周波数のようなものだ。そのため設置する中継器は一度チューニングが合うとその後変更の必要がなく、今回のように常に周波数が変更され続ける状態に対応できない。一応変化にはパターンがあるらしく、解明できれば変更される周波数に応じて動的にチューニングを合わせることができるだろう。

 通常ならアイズが対応してくれるのだが、外部との連絡が途絶されているため、代わりにギアさんが対応してくれている。しかしギアさんも対応は出来るとはいえ、専門ではないからか手間取っているようだ。


 二つ目はコアの所在の確認ができないこと。紫月異相も深界獣のため、どこかにコアが存在していると思われる。それを見つけてしまえば融合体を最後まで相手にするまでもなく討伐できるはずだ。

 元々は連れてきた仁にシマンデ・リヒターを使ってもらいコアの位置を特定してもらう予定だったのだが、連絡が取れないためその方法は使えない。

 仁のSCカードを読み込めば俺にも再現ができるのだが、一度SCカードを使うと連続では使用できない。この後本物の紫月と対面した時に必要になる可能性がある以上、おいそれとは使えない。


 三つ目、使用するSCカードが決まっていない。複数の敵を相手にする場合は取り回しのいい一真か二葉のSCカードを使うのが基本だが、アイズのサポート無しでは機能が大きく制限される。俺は彼らのように高い空間把握能力も持っていなければ、繊細な出力調整もできない。

 とはいえそろそろ魔力も限界だ。何かを読み込まなければ変身が解除されてしまう。

 仕方がない、俺はカードを一枚引き抜く。


 そして四つ目。それは俺の問題である。


「タノシクナイノ?」


 紫月異相に向けていた意識をわずかにギアさんに向けた事を敏感に感じ取ったのか、一瞬の間隙を突き紫月異相が息のかかりそうなほど近くに迫っていた。


「キモチヨクナロウ?

 アタタカクナロウ?」


 紫月異相がほほ笑みゆっくりと手を広げた直後、突然現れた鎖がその腕を巻き込むようにして俺と紫月異相を一緒くたに縛り上げた。


「キモチヨクシテ

 アタタカクシテ」


 鎖が次第に熱を持ち始め、同時にぎちぎちと身体を締め上げる。俺と抱き合うように紫月異相も鎖の中に囚われているのだが、彼女は特に気にした様子もない。


「良二くん!」


 輪之介が近寄ろうとするが、脳内チャットでそれを抑止する。

 それにしても名前を呼ぶとは何事だ。変身中はギア:アイズと呼んでくれ。


「モットツヨク

 モットヤサシク」


 鎖がさらに強く引き絞られ、体中が軋みを上げる。

 熱量も高くなり、これ以上はスーツを着ていても危険だろう。

 さらに抱きしめる腕からは鎌が生え、スーツを突き破ろうとしている。

 しかし俺は身動きが取れず、SCカードを読み込むことは出来ない。


「ダキシメテ」


『ジャック・オブ・ローズ』

『エース・オブ・ローズ』


 読み込み音と同時に右腕のDAから小さなナイフが射出され、紫月異相の首を貫いた。

 紫月異相の紫の瞳が黒く濁り、俺を縛り上げる鎖から力が抜けていく。


 カードの読み込みはルーティーンだ。DAをパージした時や左手が動かない時の事も考え、緊急用にカードスロットや左の掌から直接カードを読み込むことができるよう設計している。

 浪漫は大事だが、それを重視して命を落とす気は毛頭ない。


「キモチヨカッタヨ

 アタタカカッタヨ

 タノシカッタヨ」


 力が抜け紫月異相の身体がへたり込む。

 その顔は俺の方を向いているが、視点はあっておらずどこを向いているのか解らない。


 身体の形も年齢も肌の色も何もかもが違っているが、その顔と瞳は紫月に似ていた。



 だが、紫月は決して俺に触れられることを望まなかった。

 望まなかったのだ。



「スグマタ アソボウネ」


 最後にニンマリと笑うと、紫月異相はペチャリと液体に変わってしまった。


「輪之介」

「……なんだい?」

「気分が悪い」


 溶けた紫月異相は、近くを流れていた茶色の液体の方へと流れていき、二つの液体は触れると同時に人の身体を作り始めた。


「タノシ」


 頭部ができると同時に、高速で射出されたナイフがその頭部を貫通した。

 身体は出来上がるまでもなく、そのまま液体に戻った。


 蘇生即殺(リスポーンキル)。紫月異相の一番簡単で効率的な対処方法だろう。


「早く済ませよう」


 右腕のDAに増設したストレージから、無数のナイフが射出されていく。

 直ぐに頭痛と吐き気が襲って来るが、今の気分よりは幾分かマシだ。


「楽しくなんかない。

 暖かくもない。

 全くつまらない。

 だから、早く終わらせよう」


 辺り一面が様々な色の液体に濡れていく。

 少女たちだったものの宴会が始まる。





 Party x Carnage - 了


消えては生まれ

生まれは消える

週末へのカウントダウンは刻一刻と刻まれる

全ての力が混ざり合い

全ての欲は混ざり合い

終末の色を問いかける


彼の動きを止めるのは、胎内回帰の願望か



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ

「少女たちの大宴会」


レディ!アクティベイト!



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