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第四十六話 少女たちの戯れ

「アソビマショウ?」


 その深界獣はこちらの姿を確認すると、作り笑いを顔面に張り付けてそう言った。


「僕の記憶にある紫月と全然違うんだけど?」

「そうだな。俺の記憶が正しければ尻尾は多くても一本だし、羽根は生えてなかったし、腕は一対だったし、年齢は二十を超えてたし、レオタードっぽいものも着てた。

 いや、もしかして俺の願望が見せた甘い幻想だったかもしれない。それか立派に成長したか」

「別人だろう」


 目の前の紫月(仮)は銀色の髪は肩までしかなく、青い肌は所々黒いあざのようなもので覆われ、年のころは十代前半だ。

 それだけでも紫月とは言えないが、さらに肩からは二対目の腕が生えており、肩甲骨の辺りからは大きな羽根が、尾てい骨からは三本の尻尾が生えていた。

 うん、やっぱり紫月じゃないや。


「餌のDAには影響なし……

 推測だが、紫月が取り込んだ深界獣のコアを取り出し、再度深界獣として顕現させた、というところかな?」

「そんなことできるのかい?」

「解らない。結構適当に言っている」

「うん。良二くんて結構適当に生きてるよね。

 でも紫月じゃないなら遠慮はいらないか」

「楽でいい」

「ああ、まずは軽く蹴散らそう」


 昇人の言葉に反応したのか、紫月に似ていない少女は両手を広げると、一転人好きする笑顔を浮かべた。


「アソビマショ?アソビマショウ?」


 伸ばした右腕の先の空間が割れ、そこから紫色の腕が伸びて右腕を掴んだ。そして手繰り寄せられるようにして、空間の裂け目から少女が可憐に姿を現す。

 伸ばした左腕の先の空間が歪み、そこから緑色の腕が伸びて右腕を掴んだ。そして手繰り寄せられるようにして、揺れる空間から少女が華麗に姿を現す。


「ミンナデ ミンナデ アソビマショウ?」


 地面から10本の腕が生えてくる。

 空を見上げれば色取り取りの少女が降ってくる。


 地面から這い出た少女は、空から舞い降りた少女は、皆で手をつなぐと優雅に頭を下げ挨拶した。


「ハジメマシテ ミナミナサマ

 コレヨリ ハメツノ オジカンデス」


 始めに現れた少女が言う。


「ハメツノ パーティー オタノシミ」


 他の少女たちが言う。


「パーティ ハジマリ アソビマショ!」


 全員が声をそろえポーズをそろえ、そして不気味な笑顔を張り付ける。


 直感的に理解する。

 彼女たちは人間ではない。

 生物ですらない。

 紫月から剥がれ落ちた人間性のなれの果て、深界により歪んだ魔力の淀みだ。


 深界獣・紫月異相(シヅキイソウ)。とりあえずはそう名付けよう。二人にもその旨連絡しておく。


「よくもまぁ、こんなにため込んだものだ」

「――僕も感じ取れたよ。

『深界』属性は精神を汚染する。じゃあどうやって紫月は耐えられたのか」

「汚染されたものを剥がして捨てたか」

「まずはこれを綺麗にしてやらないとな」

「うん」「ああ」


 昇人が懐から円盤を取り出す。

 俺も自身のSCカードを取り出す。


 昇人は円盤を一度前にかざすと、それを勢いよく左胸に叩きつけ、回転させる。

 俺は首に装着されたリングに親指を押し付けると、そのまま回転させた。



『『動輪接続(サイクリング)!』』



 周囲に二つの機械音声が響き渡る。

 昇人はSCカードを手にすると、左腕に現れたスロットにカードをスライドさせた。

 俺はSCカードを右腕のカードリーダーに読み込ませた。



「「心炉起動(アクティベイト)!」」



 高らかに叫ぶ。

 同時に光が俺たちの身体を包み、鎧を形成していく。



『パワーナイン!スピードナイン!マジックナイン!オールナイン・フィーバー!

 ディバイン・ギア:ナイツ!!』


『パワーワン!スピードワン!マジックワン!アベレージ・ワン!

 ディバイン・ギア:アイズ!!』




「始めよう。

 勝利へのカウントナインだ」


「さぁ、楽しい楽しい試験の時間の始まりだ!」




「それじゃあ僕も――」


 輪之介はSCカードを取り出すと、拳銃型DAのカードスロットに差し込んだ。


 今の輪之介は何時もの学ランではなく、風紀騎士団の制服―防御力に優れパワーアシスト機能を持つ執事服を着ている。さらにその執事服は所々に歯車の意匠と装甲が追加されている。


偽心炉起動(デミアクティベイト)


 輪之介の声に反応するように、追加された装飾と装甲に虹色の光が走り、頭部を守る様に半透明のヘルメットが現れた。

 かなりの機能が制限されているが、疑似的にDGSのスーツを再現しているのだ。

 輪之介のつけた名前は対深界模倣変身聖剣『ディバイン・ギア・モンタージュ』。

 汎用化はできておらずSCカードも必要なため量産化の目途はたっていないが、偉大なる発明と言っていいだろう。



「僕にその全てを見せてみろ」



 輪之介の言葉を合図に、俺たちと深界獣・紫月異相との戦いは始まった。




「アーソビーマショー!」


 飛びかかってくる紫月異相に対応したのはギア:ナイツだった。

 俺は基本的に相手の出方によってSCカードを切り替えるし、輪之介は安全第一のため、常に彼が最前線を受け持つことになる。

 ギア;ナイツは紫月異相の能力を図るべく、拳で迎撃を試みる。しかし紫月異相は高速で迫る拳を難なく掴むと、逆に肩から生える拳を繰り出してきた。

 しかしギア:ナイツは慌てずに体を捻り掴まれた腕を振りほどくと、僅かにバランスを崩した紫月異相の腕を絡めとり投げ飛ばした。


「アーソボ!」


 宙に浮いた紫月異相は、地面に叩きつけられる前に自前の翼を使い体勢を直す。ギア:ナイツは追撃しようとするが、続けて現れた紫の紫月異相に阻まれる。


 紫月異相は個体ごとに形状が大きく違っている。

 腕の数、羽の有無、角の有無、年齢、肌の色、尻尾の数、胸の大きさ、身体の模様、髪の色。

 全てが一致する個体は存在していない。

 あえて一致するものを上げるとすれば、性別と……瞳の色だろうか。

 そして違っているのは見た目だけではなく、その能力もだ。


「タノシイネ!」


 肌が紫の紫月異相は高速で詰め寄りギア:ナイツの眼前に迫ると、大きく口を開けた。その口の中心には煌々と光る球体が見える。


『カウント:ワン』


 ギア:ナイツが加速し、紫月異相の顎を蹴り上げた。直後上を向いた紫月異相の口から光が放たれ、宙にいた紫月の右腕部を消し飛ばした。さらにギア:ナイツは背部の円盤から光を放出、一瞬で紫月異相の後ろに回り込むと、左手で羽を掴み、右肘を頸椎に叩き込む。紫の紫月異相はその衝撃に耐えきれず、羽が千切れ身体は地面に叩きつけられた。

 そのまま止めを刺すかと思われたギア:ナイツだが、その寸前に身体を隠す様に両腕で防御を固めた。


「ゴハンマダー?」


 弾丸の如き速さで飛来した赤い紫月異相がギア:ナイツを防御の上から蹴り飛ばす。

 ギア:ナイツは2メートルほど弾き飛ばされたが体勢を崩すこともなく着地した。


「強さは良二と会った時の深界獣と同程度か少し上だ。

 数が厄介だな」


 ギア:ナイツが辺りを警戒しながらガードを解く。


「あのビームと空中の姿勢操作は見たことあるよ。

 昔に倒した深界獣が使ってきた」

「なるほど、所謂再生獣ってやつか。それが雑魚として出て来るとは、まさに終盤のインフレって感じだな」

「いや再生獣ではない」


 ギア:ナイツが指さす方を見ると、腕を吹き飛ばされ地面に落ちた紫月異相と、地面に叩きつけられた紫月異相がピクピクと蠢いていた。

 立ち上がるのかと様子を見ていると、二人とも一度大きくビクンと身体を震わせた後、身体がドロドロに溶けていった。


「やったの?」


 輪之介が僅かに期待を、そして大きく不安を込めた声を出す。


 果たして、輪之介の不安は的中した。

 青と紫の粘液はゆっくりと地面に沈み、その直後同じ場所から青と紫の腕が生えてきたのだ。


「アソボアソボ」

「タノシミマショウ」


 生えた腕が、ゾンビ映画のゾンビのように身体を掘り上げる。

 地面から現れ大きく伸びをする二人には傷もダメージも見られず、土すらもついていない。


「シゲキガ ホシイナ」

「シゲキヲ アゲタイ」

「モット アソボ?」

「モット タノシモ?」


 二人の少女はお互い向き合うと、二人で両の手をつなぎ、艶めかしく指を絡め始めた。

 絡んだ指の境界線が解りづらくなる。それはやがて指にとどまらず、手を、腕を絡め合っていく。

 最終的には互いに抱き合い、脚を絡め合い、そして顔と顔が触れ合った。


「うわぁ……」


 官能と恐怖を覚える光景に、輪之介が顔を赤らめため息を零す。


「「イッショニナッテ アソビマショ?」」


 重なり合う言葉を最後に、絡み合った二人は一つになった。


 残ったは半分が銀、半分が黒の髪を持つ、左右で肌の色が違う一人の少女だった。


「アハッ」


 少女はこちらを見て陶然とした表情で微笑む。


「なるほど、再生強化融合獣かぁ……」


 輪之介が少し目を逸らす。R15少女は彼には目の毒らしい。G的な意味でも。


「こういうギミックか。

 全員を倒せば最終的に紫月になるのかね?」

「その頃には腕と角と尻尾の数はどれくらいだ?」

「……もっと建設的で素敵な予想をしよう。

 胸の大きさはどれくらいだ?」

「流石にヒーローがセクハラはマズいよ。

 年齢について予想しよう」

「おい、リン。

 お前は悪魔か」

「男子ってサイテー。マジでないわー」

「ええ!?僕が一番非常識!?」


 ここに雪奈か麗火さんがいたら、「そんな子に育てた覚えはないのに……」みたいな目で見られてるぞ。


「ソロソロ イイ?」


 俺たちが微笑ましい会話を続けながらD-Segの短距離脳内チャットでこれからの戦闘方針を討議していると、紫月異相(双)は待つのに飽きたのか、冷たく冷めた目でこちらを見てきた。


「アソビノ サソイヨ

 タノシイ サソイヨ

 タノシマナクチャ モッタイナイワ

 ソロソロ ミンナデ アソビマショウ?」


 紫月異相(双)は胸の上に両手を乗せたようなポーズで、能面のような笑みを浮かべる。

 リラックスしきったポーズ。しかしご機嫌に揺れる5本の尻尾には違和感を覚える。


「ゴハンノ ジカンダ」

「ゲームノ ジカンダ」

「パーティダネ!パーティダネ!」


 ずっとこちらを見ていた紫月異相たちも、リラックスした体勢のまま能面のような表情でこちらに尻尾を向けている。


「―――まずい!逃げろ!」


「「ステキダネ」」

「「キレイダネ」」

「「「ヒカッテ ハジケテ タノシイネ!」」」


 こちらを向いた全ての尻尾からビームが放たれ、辺り一面は光と爆音に包まれた。







 Cycling x Activate - 了

W変身、いいですよね。

そして何気にギア:アイズの変身音声の完全版は今回が初出だったり(名前が決まってから変身シーン全カット)。




少女たちは陽気に歌う

少女たちは陽気に踊る

少女たちは陽気に暴れる

熱く優雅に醜悪に

一つになろうと問いかける


死の間際まで抱きしめられ、彼が下す決断は



次回、ディバイン・ギア・ソルジャー ナイツ

「少女たちの宴会」


レディ!アクティベイト!



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