プロローグ_1 聖剣剣聖は大いに悩む
はじめまして、初投稿となります。
作品の世界観を知ってもらうためのプロローグ(全3話)となります。
少し堅苦しい言い回しが多いですが、本編からは砕けた感じになります。
面倒なら本編までスキップしていただいて構いません。
DA、それは魔を祓う聖なる武器――聖 剣である。
第二次世界大戦での敗戦後、復興した日本と世界各地に突如現れた迷宮、そこから現れる怪物たちを倒すために、古来から世界の裏で伝わってきた「魔法」と呼ばれる技能を解析し、武器としたものである。
DAM、それは聖剣を操るもの――聖剣剣聖である。
DAを巧みに扱い、怪物達を倒し、各地に平穏をもたらした者たちである。
DAMA、それは聖剣剣聖を育成するための学 園である。
今なお底が知れない技能を解析し、人類を守るための戦士を育てる、才能のある者たちが集う学び舎である。
DAMA、それは天才に知識と技術力を与え世界に羽ばたかせ、凡人に限界を教え心を地面に縫い付ける場所である。
そこで俺が知ったことは――
道場の外から聞こえる授業終了のチャイムに、俺は型の確認を止め一息つくと汗を拭った。
東京都立聖剣剣聖育成専門高等学校――通称DAMAトーキョーの教育制度は、大学と同じ形式である。
自分に適した授業を選択式で受講するため、ちょくちょくと空いた時間が生まれる。
基本的に何らかの結果を出せば出席は免除されるため、自分のように卒論の方向性が決まったのなら、受講の時間を研究と訓練に回すものも少なくない。
「正技さん、お時間よろしいでしょうか?」
背後から声を掛けられ振り返る。何時からいたのだろうか、僅かに赤味懸かった黒髪を後ろで三つ編みにした袴姿の少女が、一本の刀を大事そうに抱えながら立っていた。
「ああ、かまわない」
俺は彼女――真忠から刀を受け取ると、ゆっくりと鞘から抜いた。
反りは先反り。切っ先は中切っ先。波紋代わりの聖剣回路が薄っすらと透けて見え、箱乱刃のよな文様を描き出している。まるで美術品のような美しさだ。
「仕様の方は?」
「連続稼働時間は最長5秒、クールタイムは1.8秒です」
「了解した」
この聖剣は連続して使用できる時間に制限があり、それを超えると負担に耐えられず自壊する。
今までの製造方法の場合、連続稼働時間はおよそ2.5秒だった。今回の改善により4秒程度まで伸びるかと予想していたが、それよりも25%も長い。
予想値よりも長くなったのは、ひとえに彼女の技術の賜物だろう。
このDAは、設計思想および聖剣回路自体は昔からあるものだが、その再現自体は容易なものではなく、回路の精度によって性能は大きく変わる。
このDAの銘はDFD-Dragon Fly Divider・・・つまりは「蜻蛉切」だ。
蜻蛉切は本多忠勝が愛用していたとされ、飛んでいた蜻蛉が触れただけで両断されたという曰くを持つ名槍である。
世界に怪物があふれた際に、本多忠勝が用いた蜻蛉切のとある機能を再現した一振りが日本政府に献上された。魔法という存在の解析に大いに貢献した、由緒正しいDAである。
その機能とは空間切断であり――魔法技能を解析し、魔法技術として確立したものの一つでもある。
俺は真忠に鞘を渡すと、DFDで一通りの型を確認する。
近年話題となっている新しい魔法金属を、いくつかの炭素含有量を変えた上で複数枚重ねて成型しているのだが、実際の刀よりはずいぶんと軽い。
重量のバランスも良く手になじむのは、今まで何本もの試作品を作成し、その経験が詰まっているからだろう。随分と長い仲だ。彼女の作る刀はすでに俺の身体の一部の様に感じる。
「ふぅ」
精神を集中させ、刀に向けて魔力を出力する。柄から茎へ。鍔に刻まれた回路を通り出力の安定を行い、刀身へ力が伝わるのがわかる。
果たして、刀身に刻まれた波紋が、薄く輝いていることが見て取れた。
「起動は問題ありませんね」
その様子に真忠が安心したように、小さく口にする。
DAの回路と、入力する魔力の属性は綿密に関連している。回路に適した属性の魔力を流さなければ、想定した効果は得られず、全く違う効果となって現れることも珍しくない。
それを抑止するために鍔に属性判定のための安全装置が仕掛けられているが、それが作動しなかったということは、起動確認はひとまず問題なしということだ。
性能自体は事前に真忠が専用の機械を用いて確認しているから平気だとは思うが、一応確認を行う。
切るものは何でも構わない。刃が潰されている関係上、機能が発揮されなければ、振ったとしても切れるのは巻き藁くらいだ。
俺はDFDへの魔力の出力を一度切ると、何時も試し切りに使うDAMA内で使用される魔法金属性の硬貨を親指に乗せて弾く。
俺は宙をくるくると回る硬貨の狙いを定め、DFDを突き出す。
高く澄んだ音が鳴り、硬貨がDFDの中ほどに乗る。
「――っ!」
DFDに魔力を送ると、刀身に乗っていた硬貨が、刀身をすり抜ける。刃に魔力が通り、硬貨が空間ごと切断されたのだ。
続けて宙にある硬貨に向けて刀身を走らせる。床に着くまでに合計で四回。さらに硬貨の側面を太刀が滑る。
地に落ちた硬貨は16に分かたれた。
それを確認し、俺はDFDへの魔力供給を切断する。
切断された空間は即座に修復されるが、その際に歪みと圧力が発生する。短時間なら問題ないが、連続稼働時間を超えて切断を行い続けると、DAの刀身の破損につながる。
「如何でしょうか」
真忠が尋ねてくる。
そんなこと、床に散らばる硬貨を見れば一目瞭然だろう。
「問題ない」
「それは良かったです」
俺の称賛に、真忠は花が開いたように笑う。何時ものやり取りだが、彼女は何時でも同じように俺の評価を喜ぶ。
そう、このDAは問題なく素晴らしい。
このDAを使い成果が出せないとするならば、それは即ち使い手に問題があるということだ。
俺は真忠から鞘を返してもらうと、DFDを納め、自分の掌を眺めた。わずかに、汗をかいている。
続いて鞘を見る。金属製の白鞘。装飾は何もなく、通常の鞘よりも、二回りほど太い。
俺が真忠に制作を依頼した、もう一振りの『聖剣』だ。
「……どうかしましたか?」
俺の様子がおかしいことに気が付いたのだろう、真忠が声をかけてきた。
「改めて、こんなものに何の意味があるのかと思ってな。これを使って俺の望みが果たせたとしても、俺は胸を張って爺さんに技を見せることができるのか?」
「……そうですね。正切さまはきっと バァン!
真忠の声を遮るように、大きな音を立てて道場の扉が開かれる。
「たのもうっ!!」
何事かと入口に目を向けると、白い学ランの上に白衣を羽織った、眼鏡をかけた黒髪の少女が右手を突き出し立っていた。
Like a Blue Colored Spring - 了
お読み頂きありがとうございます。
モチベーションにつながるため、ブックマーク、☆評価いただけると幸いです。