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3 泉の主

 時刻は十八時頃。一部の例外を除いた大方の生き物たちは休眠状態へと移行し始める。植物たちはまるで電気を消す様に発光を止め、辺りは闇へと包まれていく。

 黒泉寺村も自然に呼応するように、光を放つ物を全て消し、睡眠状態でも僅かに発光する人を含めた生物は例外なく屋内へと入った。

 この世界の夜、それは植物たちが活動限界を迎え休眠状態に入った時間だ。そして、大型の肉食獣の活動時間でもある。夜行性の捕食者は獲物を視覚で探す。それは植物は完全に消灯するが動物は睡眠状態であっても生きている限り完全に消灯することはできないからだ。故に夜間の活動は控えるのが定石だ。

 しかし、村の中央道。そこに一人の人影があった。


 死に装束。アカシは自身の純白の着物は紛れもなくそれであると理解した。

 今日、それは憂いていた人身御供の儀当日である。そしてアカシがそんな恰好をして一人歩んでいるのは生贄に選ばれたからだ。


「大丈夫。落ち着け、怖がるな、全て計画通りだ。そうだろ?」


 本来であればほぼ確実にナズナが選ばれた。だが、村長の息子であるタツウミへと渡した手紙には次の儀式に志願する旨を記載していた。そして、手紙の内容はそれだけでない。


「あった。タツウミには無理をさせたな」


 村に隣接する湖。その近くの茂みに祭りの時に献上された品々がまとめてあった。内容は様々だが選別すると一式の装備が出来上がる。アカシは躊躇いなくそれらを装備する。

 生贄になる者が武装をすることは禁止されている。それを援助することも同様だ。だがここへ装備を運んだのはタツウミ自身、または彼に指示された者だ。本来であれば規則を破る行為である。しかしタツウミの手紙には『献上品を所定の位置へ運ぶこと』としか書かれていない。アカシはこの程度であれば援助行為にはならないと踏んだ。そして「村の規則に違反しない範囲で」と名言していたタツウミが実際に実行したのが何よりの証拠だ。

 そもそもアカシが狩人として活動しているのが周知の事実だったとして、謙譲品のみで装備が一式揃うことは通常あり得ないことだ。そう、それもアカシが予めそうなるように仕向けていた。見舞いに来た同世代の友人たちへ各家庭ごと別々に新しい装備が欲しいと仄めかす発言をしていたのだ。

 アカシはこれらの策により、生贄に選ばれた者に付く監視の目を欺き、規則の違反者を自分のみにした。

 そして武装したからには行動はただ一つ。


「邪神クル、恨みは無いがお前を狩らせてもらう。いざ!」


 アカシは気合を入れ、勢い良く走り出す。眼前にはアーチを描く木製の橋、そこへ踏み入ると子気味良い足音が鳴る。橋は途中で途切れている。終点は近い、本能が足を止めようとするが理性でそれをねじ伏せる。


 終点は直ぐ……。


 ――数瞬の解放感。最後の一歩を踏み切ればもう恐怖は無かった。

 着水、それと同時に真下へと潜り始める。ひたすらに暗い水中を下へ下へ。上質な衣服は浮きも沈みもせず動き難さは意外に少ない。咥えている飴が少しずつ口の中へと含んでいる水と化学反応し酸素を生成している。暫くの間窒息する心配は無い。

 ――数分が経過した。アカシは未だに下へと潜り続けている。その深さはとうにアカシの想定を超えていた。

 そして、暗黒の世界は徐々にアカシの精神を蝕み始めていた。上下左右の感覚を狂わせ、自分が既に死んでいるのではないかと錯覚させる。次第に現状への疑念が募る。


「おい、起きろ人間」


 アカシは言葉通りに目を開いた。


「……え?」


 開眼していた筈の目をさらに開いた異常に吐き気を催す程の気持ち悪さが全身を包む。

 そして、眼前にはこの世のありとあらゆる生き物をちぎって固めたとしか形容できない、黒紫の蠢く肉塊。そこから紫色の髪が腰ほどまである推定十歳程度の少女が肉、皮、臓器、管、あらゆる物を引きちぎりながら這い出してきた。その少女の眼は幾何学的で特殊なオーラを放っている。

 アカシは直ぐに眼前のソレが邪神クルだと判断し、殺すために動こうとするが、一切叶わない。恐怖で硬直したとかそんな次元ではない、視点さえ動かせないのだ。


「我を屠りに来た人間は久しいぞ。しかも中々に肝の据わったやつよ」

「お前が邪神クルか?」


 アカシの問いかけに少女は目を点にした。


「驚いた。我を見て正気を保っているとは……。如何にも、我がクルだ。拝謁できた幸運に感謝せよ」


 そう言ってクルは上機嫌に笑った。

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