ep89 勇者の力
「どうしよう!どうしよう!」
頭を抱えて恐怖に怯えるキース。
ユイは前を向きながら勇ましく声を上げる。
「大丈夫、私が必ずなんとかするわ!なぜなら私は...勇者だから!!」
突如、ユイは構えを緩め、両眼を閉じ、直立不動になった。
「ん?なんだ?観念したかぁ?クソオンナ」
ゲアージが憎たらしく吐いた。
ユイはゲアージの言葉に反応せず、カッと双眼を見開き、叫ぶ。
「顕現せよ!聖剣、エクスカリバー!!」
一声とともに、彼女の身体からピカーッ!と眩いばかりの強烈な光が放たれる!
「なんだぁ!?あのクソオンナ、何かしやがるのか!?」
「ゆ、ユイリスさん!?」
「ん?あれは?」
「あっちで何か光っているぞ?」
その光は一キロ離れた地点にいるカイソーと警備副局長にもハッキリ捉えられた。
夜闇に紛れて遠ざかっていたロナルド達も振り向いて視認する。
「...な、なんだ?」
閃光に包まれたユイは、右手で自らの胸をえぐるようにすると、一本の剣がズズズ~と取り出された。
力強くも美しい神聖なる剣。
この世の中で唯一人、勇者のみが振るえる剣。
一年前、あの魔王をも貫いた剣。
聖剣エクスカリバーである。
強烈な光はユイの右手に握られた聖剣にギュオォォッと収束する。
「あの剣、どっから出しやがった...!?」
「あ、あの、ユイリスさん?」
キースはおどおどしながら眼前のユイに訊く。
ユイは忠告するように静かに鋭く言った。
「いい?その場に大人しく伏せていて。わかった?」
「......は、はいっ!」
すぐにキースはカバっと四つん這いになり、亀のようにその場に伏せた。
ゲアージは様子の変化したユイを警戒しながらもしびれを切らす。
「...チッ!クソオンナが何しようが関係ねえ。オイ魔犬ども!!アイツらを八つ裂きにしてやれ!!」
ゲアージは憎悪の号令をかけると魔笛を口に咥え、キィィィィ!と、音とも言えない奇怪な音を鳴らす。
すると、魔犬どもが秩序正しくじりじりとゆっくり動き出し、グルルルと唸り一瞬の間を置いてから...
ガァァ~ッ!!と一気一斉にユイ達めがけて突撃した!
おびただしい数の魔犬の群れが今、ユイに飛びかからんとす!
ユイは聖剣を居合い抜きのようにビュンと振り抜いてから天に向かい高々と掲げると、地面に向かい膝をつくぐらいに真っ直ぐに、思い切りブンと振り下ろした!
『ホーリーインパクト:γ(聖なる衝撃)』
聖剣が地に振り下ろされるやいなや、夜の大地に強烈な閃光が爆風のようにブワァっと凄まじい勢いで舞い上がった!
魔犬ども全てを呑み込むように、辺り一帯が聖なる光で包まれる!
「これは!!?」
ゲアージは両腕で顔を覆った。
一キロ離れた地点にいるロナルド達も思わずその光爆なる眩しさに目を覆った。
「なんだあれは!?」
ブワァァァァァァァァァァ!!!
巨大な聖なる閃光は膨張するように広がり、パシィィィン!と弾けた!
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