ep85 来たる
夜の活気が大いに賑わいを見せる頃、東の街の宿屋に、明らかに宿泊目的ではない者達が到着した。
コンコン
コーロ達の集まっていた部屋のドアにノック音が鳴る。
「はい、どうぞ」
ユイが答える。
扉が開くと、宿屋の女将さんが入って来た。
「あっ、スヤザキさん、ユイリスさん。あなた達にお客様が来てまして、今、下で待っているんですけど......そのお客様が、ブラックファイナンス?の方と、あと、警備局の人達で......」
「警備局の?......わかりました。すぐに下に参ります」
「え、ええ。お願いします...」
二人はすぐに立ち上がると、部屋を出て階下に降って行った。
ユイは不本意に確信する。
ーーーやはり、コーロの懸念していたとおりだったのねーーー
一階の入口付近に待機していた数人の内の一人が、階段から降りて来た二人に向かい挨拶する。
「どうも。ユイリスさん、スヤザキさん。ロナルドです。昼間振りですね」
「ほう。あれが例の......」
「はい、カイソー部長。あの女です」
そこにはロナルドとカイソー、さらには警備副局長を含めた五人の計七名がユイ達を待ち構えていた。
彼らに向かいながらユイもロナルドの挨拶に反応する。
「そうね。で、なぜ警備局の方々も?」ユイは何も勘付いていないように訊ねた。
「何せあの神童の聖騎士様ですから。警備局の方々が丁重にご案内せねばということになりましてね」
ロナルドはニヤっとして答えた。
「そういうことです。あ、どうも、申し遅れました。私はブラックファイナンスのカイソーと申します」
カイソーが言葉を挟むように挨拶する。
二人は黙ったまま頷いて反応し、ユイだけ「どうも」と無表情であっさりと返した。
続いて、恰幅の良い中年保安官のような雰囲気の警備副局長が、ある程度の社会的な立場にある人間特有の、妙に中低音が響く声をやや歪ませて挨拶する。
「やあどうも、ユイリス様。お会いできて光栄ですよ」
彼は肉で上瞼が垂れた目を鈍く光らせ、濁った視線をユイのみにイヤラしく注ぎながら、肉厚と脂分にあふれた手を差し出す。
「初めまして。ユイリスです」
ユイは淡白に返すと、形式的な友好の握手を交わした。
副局長はユイとだけ握手を交わすと、そそくさと振り向いて部下と会話し始めた。
ユイは、ある意味でブラックファイナンス以上に嫌悪感を抱いたが、敵意は隠蔽した。
とりあえずの社交上の挨拶を終えると、カイソーが始める。
「早速参りましょうか。ユイリスさん。スヤザキさん。いいですか?貴方達のご友人のためにも、くれぐれもおかしな行動は取らぬようお気をつけ願いたい。くれぐれも、です。......では、我々に着いて来ていただきましょう。国境まで」
一同は重々しく宿屋を後にした。
去って行くどう見ても不自然な集団を、宿屋の女将と主人は声も上げられずただ立ち尽くして見送った。
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