ep79 拉致
コーロの叫びと共に部屋のドアがバンッ!と勢いよく開く。
異変に気づいたユイが部屋に飛び込んで来た。
「コーロ!?どうしたの!?」
「ユイ!アミーナがブラックキャットに攫われた!!」
「!!」
ユイはバッと振り向いた。
視線の先にはロナルドがいた。
彼の後ろにはいつの間にか部下達がゾロゾロと集まっている。
「貴方達は......」
「我々は皆、ブラックファイナンスです。そして貴女は偉大な勇者様ですね?」
「!!」
「ユイが勇者だって気づかれたのか!?」
「まあ落ち着いてください。我々としましても、偉大な勇者様とコトを構える気など毛頭ありません。ただ、我々を放っておいていただければそれで良いのです」
「ならアミーナを返しなさい!」
ユイはたちまち目を燃え上がらせた。
「それはできません。彼女の身柄は、勇者様が我々に手を出さない約束を保証するための担保ですから」
「じゃあどうすればアミーナを返してもらえるんだよ!?」
コーロは気が気じゃないといった様子で問う。
「簡単です。勇者様がキャロルから出て行ってくだされば結構です」
「私がこの国から出ていく?」
「ええ」
「ならいつアミーナを返してくれるの?」
「それにつきましては、社長の方から改めて指示がありますので、また夜にでも、こちらから追ってお伝えいたします。とりあえず、今は大人しくお引き取りください」
ユイは怒りに打ち震えながらも無理矢理に静めて訊ねる。
「......アミーナの安全は?」
「我々に手を出さない限りは保証します」
コーロは、闇の力が己の中でふつふつと漲って充満していくのを感じた。比例して、彼は自ら不思議なくらいに冷静さを取り戻していく。
「わかった」
「コーロ?」
「いや、ユイ。ここは引こう」
コーロは極めて落ち着いて言った。
「そちらの方はお話がよくわかるようで」
ロナルドは巧妙な笑みを浮かべた。
「俺達は東の街の宿にいる。どうせ調べはついているんだろ?大人しく待っててやるさ」
「先日はゲアージ様がお世話になったようで」
「!」
「やっぱりあいつもブラックファイナンスなんだな。まあいいさ。ユイ、もう行こう」
「ちょっとコーロ?」
コーロはユイの腕を引っ張って連中をかき分けるように部屋を出ると、一切振り返らずにずんずんと進み、そそくさとサロンを後にした。
「ねえコーロ!待って!」
「ユイ。早く宿に戻ろう」
「アミが攫われてしまったのよ!?」
「落ち着いてくれ!ユイは勇者だろ?」
「だから落ち着いていられないのよ!」
「じゃあどうやってアミを助けるんだ?奴がどこにいったかもわからないんだぞ?」
「そ、それは!」
「今の状況でやみくもに動いてもかえってアミの身を危険に晒すだけだ。だからユイ、一旦落ち着こう」
コーロは立ち止まり、ユイを落ち着かせようと、説得するように言った。
ユイがなんとか平静を取り戻すと、コーロは「ん?」と不意に横方向から人の視線を感じる。
パッと振り向くと、
「やあ、どうも」
水色の髪に青いネクタイを締めた細身の男が、笑顔で彼らのもとへ近づいてきた。
「あ、あんたは、フロワース警部」
「こんにちは、スヤザキさんとユイリスさん」
「......」
ユイは無言のまま目で挨拶する。
コーロは警戒しながら質問する。
「あの、俺達に何か用ですか?」
フロワースは思考が読めない笑顔で問い返す。
「というより、何かあったのですか?」
「...なぜそう思うんです?」
「はあ。こんな問答キリがないですねぇ。...この通りの先にはブラックファイナンスのサロンがあります。お二人はそこから出てきたでしょう?」
「......俺達をつけていたんですか?」
「それは半分正解で半分不正解ですね」
ユイが強引に口を挟む。
「フロワース警部。貴方は私達の味方ですか?それともブラックファイナンスの味方ですか?」
「お、おい!ユイ!」
「......これはこれは随分と直球ですねぇ。いや、むしろさすがと言うべきでしょうか。そうですね......では後ほど、貴方方への所へ改めてお伺いします。信用を持って、ね」
フロワースは妖しく微笑しながら予想外の意を示した。
「?」
コーロとユイは相手の発言の意図が汲み取れず理解しかねる。
フロワースはニコッと笑って付け加える。
「ですが、先にこれは言っておきますね。
ボクはブラックファイナンスから賄賂を受け取っていませんよ?すでに買収されてしまっている人間も少なくないですけどね。
ボクは貴方方にご協力願いたいだけですから」
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