ep74 音の正体
何の音であろうか?
明らかに不自然な音だ。
だが、コーロにはなぜか、どことなく懐かしさを覚えさせる音。
タラタラタラタラタン
繰り返される旋律。
コーロは音の発生源が何なのかに気づく。
「こ、ここから鳴っているのか??」
彼は懐にしまっていた一本の羽根を取り出した。
音の主は、魔物の森での戦いの後、レオルドが去り際、彼に託した『フェアリーデバイス』であった。
タラタラタラタラタン
「え?何これ?何をどうすればいいの?」
音の発生源を突き止めたものの何をどうすればいいかまではわからず、コーロは羽根を手にしてあたふたとした。
「えっと、あれ、あっ」
彼が適当に羽根をいじくっていると、何かの動作に反応して音が鳴り止んだ。
つづいて、羽根から何者かの声が聞こえてきた。
「......スヤザキ様。スヤザキ様。聞こえますか?」
「え?声?しかも、その声......エルフォレス様ですか!?」
「エルフォレス様!?」
驚きの声を揃えるユイとミッチー。
アミーナは「なんやなんや?」と何のことだかさっぱりわからず皆の顔をきょろきょろ見る。
「スヤザキ様!良かった!ちゃんと繋がりましたね!」
なんと、声の主は森の妖精主エルフォレスだった。
「エルフォレス様!本当に無事だったんですね!」
「スヤザキ様もご無事で何よりです!」
「レオルドさんは死んではいないと言っていたけど、本当に無事で良かったです」
「はい!わたくしはこの通り無事です」
「良かったです!で、エルフォレス様は今どこにいるんですか?」
「わたくしは、閉じられた森の中におります。ですが、FNを通じてこうしてお話しているのです」
「FN?」
「はい。フェアリーネットーワークです」
「は、はあ(...相変わらずこの人のこういうの、よくわからない......)」
「ご安心ください。こちらはVPN接続なのでセキュリティも万全です」
「VPNって何ですか!?」
それからコーロはエルフォレスに、魔物の森の戦いを終えてから現在に至るまでの経緯を説明した。
「破滅の黒猫!?彼女がキャロルに!?」
「え?エルフォレス様は破滅の黒猫と知り合いなんですか?」
「......あ、いえ!取り乱してしまい申し訳ございません」
ーーーまだ、わたくしからスヤザキ様にお話できる事は限られている。わたくしは啓示には逆らえない。ですがーー
「スヤザキ様。その、ブラックキャットという者ですが......」
「エルフォレス様?奴を知っているんですか?」
「同一人物かはわかりませんが、その名前を聞いた事があるのです。......ちょっとお待ちください。今、わたくしの方でさくっと調べてみましょう。カタカタカタ......」
「お、お願いします!(...え、なんの音?)」
「......ああ、ありました。これです。Fペディアによると......」
「は、はい(...ダメだ。Fペディアにツッコむのはやめておこう。きっと妖精界隈の何かの事なんだ...)」
「スヤザキ様?」
「あ、いえ!続けてください!」
「ええと......偽造魔導師ブラックキャット。その者は偽造魔法の達人で、人間だけでなく多くの魔族も欺いたのだとか。
ですが、色々とやり過ぎたようで、やがて魔王領から追われる身となり、現在は人間の世界のどこかで生きていると......」
「偽造魔導師ブラックキャットですか......。それがブラックファイナンスのブラックキャットと同一人物なのかどうか......」
「残念ですが、そこまではわかりません」
「いえ、十分です。貴重な情報ありがとうございます!」
「とんでもございません。しかし、導きの欠片の一つが見つかったようで本当に良かったです。...あっ、スヤザキ様!」
「どうしたんですか?」
「申し訳ございません。パケット制限がかかり、間もなくこの通信が切れてしまいます」
「パケットって何ですか!?てか早くね!?」
コーロは我慢しけれずツッコんだ。
「あ、あの!妖精主様」
ユイが慌てて口を挟む。
「勇者様?」
「あの...その...森での事は...本当に、申し訳ありませんでした...!」
「勇者様。その事はもう良いのです。大事なのはこれからどうするかです。わたくしはスヤザキ様と勇者様が旅を共にされている事をとても嬉しく思います。わたくしも混ざりたいぐらいですよ?フフフ」
「...よ、妖精主様...!」
胸を撫で下ろすユイ。
「それと、新たなお供の猫娘さんも、よろしくお願いしますね」
「え?う、ウチはお供やないけど...」
「いいえ。貴女もスヤザキ様と共にゆくことになります。だからこそ、貴女は導きの欠片を手にしたのです」
「ど、どーゆー意味??」
「フフフ。それでは皆様、ごきげんよう......」
妖精主との通信はプツンと途切れた。
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