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導きの暗黒魔導師  作者: 根立真先
異世界の章:第一部 西のキャロル編
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ep70 コーロの決意

「コーロ様?」

「コーロ?」

「おにーさん?」


 コーロは闇の魔力を帯びた状態で、もう一度書類を凝視する。


 ......真の暗黒魔導師の闇の力は、闇からその真理を見抜く。

 そして彼に秘めたる闇の力は、すでに覚醒していた......。


 彼は瞬時に理解した。

 悪意の偽装に...!


 コーロは書類に手をかざして解除魔法を唱えた。(彼の解除魔法は闇の魔力による強力なものだが本人はそれに気づいていない)

 彼は書類を手に持ってアミーナに見せる。

「アミーナ。もう一度見てみてくれ」


「え?なんでや?」

「いいから!」


「う、うん...」

 アミーナは戸惑いながらコーロから書類を受け取ると、言われるがまま再び書類を見始める。

 そして......


「え??なんで?書いてあることちゃうよ!?」


「コーロ?これは?」


 コーロは答える。

「これはおそらく、魔法迷彩ってやつの一種じゃないのか?」


「なるほど!そういうことですか!」

 ミッチーが一早く理解を示す。


「えっと、おにーさん?」

 キョトンとするアミーナ。


 暗黒魔導師は説明を始める。


「この契約書は、魔法で偽装されたものなんだ。しかも、部分的にね。

 まず、不動産の契約書の方は、見事に、特約の欄とそれに関連する条項の一部だけが魔法で偽装されている。

 そして融資の方は、うまい具合に数字の部分と一部の文言だけ偽装されている。

 しかも、この偽装は......何かをトリガーにして時間差で発動されるようになっている。 

 ......そうだな、例えば、相手のサインとか。だから、契約を交わす段階ではマトモな内容の契約書なんだ。

 つまり、マトモな内容だと思ってサインしたら、それがトリガーとなり、一気に悪質なトンデモ契約になるってことさ」


 アミーナは飛び上がるように立ち上がる。

「ほな、キースは()められたってことやんか!ほんでお金を全部騙し取られたってことやんか!」

 が、彼女はまたベッドにへなへなと腰を下ろした。


「ほんなら、なんでウチに一言も相談してくれへんかったんや......。ウチは、キースにとってその程度の存在やったんか?ウチはキースのこと、信頼しとったのに...なんで...なんで!?」

 うなだれるアミーナ。


 ユイはアミーナを気遣いながら、感心してコーロに訊く。

「なぜすぐに、そこまでわかったの?おそらく、魔導鑑定士でもそこまで簡単にあっさりとは見抜けないはずだわ」


「なぜ、と言われても......なんだろう。俺にはわかるんだ。これも暗黒魔導師の力なのか......」


 弱々しく顔を上げたアミーナが、目に涙をためながら力無く笑った。

「でも...ウチが...甘かったんかなあ。騙されたキースも...騙されたウチも...悪かったんかなぁ......」


 アミーナを一瞥してからコーロが、抑揚なく低い声で言う。

「確かに甘かったな。騙された方が悪いかもな。世の中そんなに甘くはない」


「ちょっとコーロ!?なんてことを言うの!?」

 ユイは激しく非難するように声を荒げる。


 コーロは落ち着いていた。

「それが現実だよ。だけど......」


「?」


「それは()()()()()()()()()()()()にはならない。それは()()()()()()()()んだ」


 コーロは確固たる信念の表情を見せる。

 そしていきなりガタンと立ち上がった!


「コーロ様?」

「コーロ?」

「おにーさん?」


 コーロは、アミーナの目をキッと睨むように見つめ、表明する。

「アミーナ!取られた金を、取り返そう!」


「え?」

 理解が追い付かないアミーナ。


「取り返すんだ!アミーナ!」

 この時、彼は思った。


ーーー今の俺には、暗黒魔導師の力がある。

 少し違うが、元の世界で俺も似たような目に遭った。

 でも、その時は何もできなかった。だけど今なら......。

 何だろう。今、アミーナを救えなかったら、俺はたとえ元の世界に戻れても、何も変わらない気がする。

 これは俺のエゴなのか?いや、それでもいい。俺はアミーナを救いたいーーー


 立ち上がったコーロを見上げ、ユイは思う。

 この人はこういう人なのだと。

 私にそうしてくれたように、アミーナの事も救いたいのだと。

 だから私は彼と一緒にいるのだと......。


 ユイは目を瞑り、優しく微笑んで賛同する。

「私も協力するわ」


「おねーさんまで?な、なんで二人とも、友達でもないウチにそんな......」

 二人の決断に戸惑うアミーナ。


 あたふたとするアミーナを見て、コーロはポケットから一枚の紙片を取り出し、彼女へ差し出した。


「......おにーさん?」


「アミーナ。導きの欠片、いったん返すよ」

「返すて?もうウチがおにーさんに返したやろ?」


「だって、まだ黒猫調査終わってないだろ?」

「な、なに言うてんのや?」


「ユイ。この契約書にある、ブラックファイナンスの社長って誰だっけ?」


 ユイは笑顔で答える。

「ブラックキャットね」


「そう。ブラックキャット、つまり黒猫だよな?」

「ええ。そうね」


「え?え?なんなん?なに言うてんの?」


「アミーナとの取引は、黒猫の情報と導きの欠片の交換だよな?じゃあブラックキャットの重要な情報と交換ってことだよな?」


「な、なに言うとんねん!?」


「それでいいか?」

「だからなにわけわからんこと言うとんねん!」


「いいか?」

「だからなに言うとんねん!」


「い い か!?」


「......ああ!もう!ええよ!もうなんでもええよ!」


「よし!それじゃ契約継続ってことで!」


「フフ。アミーナ、では改めてよろしくね」

 ユイはニコッと笑顔を浮かべた。


「もう何でもええよ!」

 アミーナは、コーロ達に温かくからかわれるがまま取引の継続を約した。

 困り果てながらも僅かに笑みをこぼすアミーナ。

 この時、彼女は久しぶりに笑顔の作り方を思い出した。


 ミッチーは、一連の光景を目を細めて焼き付けながら、胸を熱くしていた。

ーーーコーロ様。本当に貴方という人は......貴方はワタシの誇りです。

 やはり貴方こそ真の闇黒魔導師です。

 ......あの方もさぞお喜びになることでしょうーーー

 当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

 感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

 気に入っていただけましたら、今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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