ep69 契約書
ユイの優しさにより心を開いたアミーナ。そして...
ーーーーーー
「これは...封筒。...中に書類が入っているのか」
「うん。でも、さっきの雨で、もうアカンかも......」
「いや?全然問題なさそうだぞ?」
「え?」
一同はアミーナの部屋に集まっていた。
アミーナとユイはベットの上に座り、コーロは横にある小机の前に設置された椅子に座っていた。
ミッチーは皆の周りをテキトーにフワフワ漂っている。
コーロはアミーナから受け取った封筒から書類一式を取り出すと、小机に広げた。
「これは...不動産の賃貸借契約書と、融資の...金銭消費貸借契約書か」
「うん......」
コーロは書類にじっくりと目を通した。
彼は元の世界において不動産の営業をやっていたため、形式・様式の違いはあれど理解が早かった。
「お、おい!これ......」
「どうしたの?コーロ」
「これ、相当タチの悪い内容だぞ!?」
「うん...」
アミーナはうつむいたまま小さく頷いた。
「でも、そのキース君は、この契約書にサインしたってことだよな!?」
「うん...」
コーロは慎重に書類を見返す。
「特に融資の方は、これは完全に闇金だろ?この内容は相当悪質だぞ?利息制限法もクソもないな(...こっちの世界にそんな法律あるかわからないけど...)。
しかも七日で五割って!俺がいた世界の闇金でも普通は十日だぞ?まあ、日に何割って世界もあるらしいけど......にしても...
...これは酷いな。だって百金貨借りたら一週間後には二百金貨だぞ?いやこの契約だと利息先払いだから......四百金貨!?
本当にこんな契約書に、キース君はサインしたのか!?」
アミーナは目を伏せたまま、か細く答える。
「確かに...キースの筆跡やねん......」
一同は静まり返る。
だが、やにわにアミーナが再び泣き崩れるような声で喋り始めた。
「キース...なんも言ってくれへんかった......ウチな?なんか隠してることない?て聞いたんやで?でも、教えてくれへんかった......
でもウチな?キースのこと信じとったから、それ以上は聞かんかった。
......お金無くなったのもショックやけど、なんやキースに裏切られた気になってな?それがめっちゃツラいねん。胸が...痛くて...痛くて...苦しいねん......」
アミーナは片手で胸を押さえてうずくまった。
横に座るユイが彼女のもう一方の手を両手で被せるように握った。
コーロは苦しむアミーナを見ながら再度書類に目をやると、微かな違和感を感じた。
彼は書類をじっと見つめたまま何かを思案する。
「コーロ様?どうかしたんですか?」
ミッチーが彼のそばにふわ~と寄ってきて尋ねる。
コーロはふと何かを閃いたように声を上げる。
「アミーナ!」
「...な、なんや?」
「アミーナはさっき、この書類を雨でずぶ濡れになりながら持ってきたんだよな?」
「そ、そうやけど?」
「これ、封筒って、そんなに厚いわけじゃないよな?」
「?」
「コーロ?一体どうしたの?」
「じゃあなんでこの書類は完全に原形をとどめたままなんだ?少しぐらい字が滲んだり紙がふやけたりするもんじゃないのか?」
「た、確かにそうやけど...」
「コーロ?......あっ!それ、ひょっとして魔法紙じゃない!?」
「魔法紙って...確かギルドで冒険者登録したとき...」
「魔法紙は、魔力で加工された紙の事よ。ギルドでは冒険者登録の際に使用しているわ。でも、この手の契約書で使われるなんて滅多にないと思うけれど」
「なるほど...。俺、わかったかもしれないぞ」
「わかった?て、何を?」
ユイとアミーナは「?」と顔を見合わせる。
ミッチーはコーロの顔の辺りに寄っていって、彼の顔をじっと見た。
コーロは静かに魔力を練り始めた。
彼の身体から、闇の魔力がじわっと黒く滲んで光り出す...。
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