ep68 勇者ユイリス
アミーナから導きの欠片を取り戻したコーロだったが...。
一時間後。
二階のアミーナの部屋の前に来たコーロ達。
コーロは控えめにコンコンとドアをノックする。
「アミーナ!俺だよ。スヤザキだよ。疲れているところ悪いんだけど、ちょっと話をしたいんだ」
「......」
「アミーナ?寝ているのか?」
「......」
コーロは横にいるユイと目を合わす。
今度はユイがコンコンと扉をノックする。
「ねえ?アミーナ?私よ、ユイリスよ。お願いだから、話をさせてもらえない?」
「......」
ユイはいったん下を向いてふ~っと息を吐き、再び前を向くと、意を決したように口を開いた。
「アミーナ。私は、勇者ユイリス。あの魔王を倒した勇者ユイリスよ。でも今は、かつての仲間に裏切られ、魔物の森の妖精主殺しの罪で国を追われている」
「お、おい!ユイ!」
「いいの、コーロ。私は大丈夫。ねえアミーナ?余計なお世話かもしれないけれど、迷惑かもしれないけれど、話をさせて欲しいの」
返事はなかった。
だが、カチャッとドアの鍵が開く音が鳴る。
そしてゆっくりと扉が開いた。
暗い部屋の影の中から寝衣姿のアミーナが現れた。
「......おねーさん、勇者なん?」
アミーナが弱い声で質問した。
「ええ。私は勇者ユイリス。本物の勇者よ」
ユイは優しく微笑んで答えた。
「ホンマなの?」
「本当よ。嘘じゃない」
「ほな国を追われているんも?」
「本当よ」
「そ、そんなん、こんなとこでウチに言ってええの?」
「いいの」
「ウチがバラして、捕まったらどないすんの?」
「アミーナがそうしたいならそうしていいわ」
「でも、仲間に裏切られたってゆうんなら、ホンマは悪くないんちゃうの?」
「ユイは仲間に利用されて罪を着せられて国を追われたんだ。俺は現場にいたから真犯人もわかっている」
コーロが言葉を挟んだ。
ユイは続ける。
「アミーナ。もし本当に、あなたが私の事を通報しても、私はあなたを恨まない。あなたがそれを正しいと思ってやったのなら」
「そ、そんなんむちゃくちゃやん!」
「ねえアミーナ。私達に、事情を話してくれない?もちろん辛いなら無理しないでいい。話せる範囲でいいの」
アミーナはうつむいて黙ってしまった。
それから何秒経ったかはわからない。
床から、ポツ、ポツ、と音が鳴る。
彼女の大きな瞳からポタポタと水滴がこぼれ落ちていた。
彼女の身体は小さく震えている。
「......ウチ...ウチ...キースに...裏切られたんかなぁ?おかねがぁ...おかねがぁ...ぜんぶぅ...せんぶぅ......」
アミーナは堰を切ったようにわああと声を上げて泣き出した。
ユイは彼女を優しく抱き寄せた。
コーロは、傷ついた者へ手を差し伸べる心優しき偉大な勇者の姿を今、眼前に目撃していると思い、静かに感動していた。
すると、突然コーロの懐からミッチーがバッと飛び出す。
「...ミッチー??」
そのまま本はフワフワと浮かびながら、抱き合うアミーナとユイの頭上斜め上まで来ると、急に改まって宣言する。
「......おほん!それでは......取り調べを開始します!!」
「は??」
ユイとアミーナとコーロは、虚をつかれたようにポカンとミッチーを見上げる。
「......ということで、今から、猫娘のアンナコトやコンナコトを、根掘り葉掘り聞いて参りますよぉ~!!?」
ユイとアミーナとコーロは一斉にす~っと息を吸い、声を合わせて叫ぶ。
「空気読め~!!!」
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