ep67 導きの欠片
ゲアージは去って行ったが...。
ユイが口を開く。
「ねえコーロ」
「どうした?」
「あの男。血のニオイがしたわ」
「血のニオイ?」
「マトモな事をやっている者ではないって事」
「そういうことか...」
「え?」
「あそこまで明からさまに殺気を撒き散らしている相手を初めて目にしたから、逆に疑問だったんだよ。でもユイの言葉でよくわかったよ。
要するに、裏社会のヤカラってことだよな。まあ見た目からそんな感じではあったけど」
「わかっていたのね?だから入って来る前に気づいていたのね」
「ああ。でも、目的は何だったんだろうな?」
「さあ。ただ......」
「?」
「良くない連中に私達が目を付けられたことは確かね」
「うわ、マジか。勘弁して欲しいな~そういうの。でも原因はなんだ?あの男は黒猫調査と野犬退治について聞いてきたよな?」
「そうね。その二つとさっきの男が、何か関係あるのかしらね」
「......あのさ?ひよっとしたらさ?」
「なに?」
「破滅の黒猫って、マフィアみたいな存在なんじゃないか?」
「マフィア?」
「要するにヤバい組織の極悪人ってこと。
それで俺達がそれと知らずそのヤバいボスについてあれこれと調べていたら組織に目を付けられて監視されていてここまでマフィア絡みのヤカラが来た......
って、こわっ!え??これ警察、いや、警備局?行った方がいいんじゃないの!?」
「うーん。でも、今まで聞いてきた破滅の黒猫は、そういう類の存在とは違うのだけれど」
「ねえ!おにーさん!おねーさん!」
アミーナがしびれを切らし、話し込む二人に近づいて来て割って入った。
「アミーナ!ごめん!ちょっと急に立て込んでしまって」
「もう大丈夫なの?アミーナ」
「...うん。あの......」
アミーナは立ったまま、席に座る二人から視線を逸らして言い淀んだ。
「アミーナ?」
ユイが心配そうに訊く。
すると、アミーナは一枚の紙片を取り出して、二人の前に差し出した。
それは導きの欠片だった。
コーロは戸惑いながら彼女の顔を見上げる。
「えっと、アミーナ?」
「返すわ」
「え?」
「だから返すて」
「い、いいのか?」
「はよ、受け取って!」
「あ、ああ」
コーロは導きの欠片を受け取った。
だが、どうにも腑に落ちないのとアミーナの事が気になり、再度問いかける。
「本当にいいのか?正直まだ有効な情報手に入れてないと思うぞ?」
「もうええねん」
「?」
「だからもうええんやって!」
アミーナは泣き叫ぶように言った。
その声には痛々しい響きがこもっていた。
アミーナはすぐにクルッと彼らに背を向けると、即座に階段を駆け上がって自分の部屋に帰っていった。
「これで......いいのか?」
「コーロ様は、どうなのですか?」
「どうと言われても...」
「ねえコーロ」
「ユイ?」
「私、やっぱりアミーナを放っておけない。余計なお世話かもしれないけれど」
「ああ」
「ごめんなさいね。コーロは目的を果たしたのに」
「いや、このままじゃどうにもすっきりしないしな。......じゃあ、頃合いを見て事情を聞きにいきますか」
「いきましょう」
「あ、ところでユイ」
「なに?」
「さっき、俺が止めなかったら、ユイはあの男を斬りつけてたりしたのか?」
「まさか!私はこんなところで剣を抜いたりしないわ。ただ...」
「ただ?」
ユイはニッコリと微笑み、グッと拳を握って快活に答える。
「もし向こうが手を出そうとしてきたら...その時は軽く一発ぶん殴るぐらいよ!」
「あ、そ、そうっすか......」
コーロはうっすらと顔を青ざめた。
この時、彼は思った。
この人だけは怒らせてはいけないと。痛切に。......
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