ep66 迫り来るブラックファイナンス
雨の街を独りずぶ濡れで歩くアミーナ...。
「......ナ!アミーナ!!」
彼女の名を呼ぶ声が雨の街路に響く。
「アミーナ!」
声はバシャバシャと駆けて来る足音とともに近づいて来る。
「おい!アミーナ!!どうしたんだ!?」
「お、おにーさん...?」
声の主は、タペストリで黒猫調査をしていたコーロだった。
「アミーナ?どうしたんだ?こんなずぶ濡れで?」
コーロは差していた傘をアミーナの頭上に持って来て、明らかに弱っている彼女の肩を抱き込んだ。
「大丈夫か??」
「......な、なんでも、ない」
「いやどう考えても普通じゃないだろ?......まあ、言いたくないならいいよ。今日は東の街の宿屋に戻るのか?」
「......どこでもええ」
「どこでもいいってそんな...わかった。ならとりあえず一緒に宿屋に戻ろう!な?」
「......」
コーロは弱りきったアミーナを連れてユイと合流すると、そのまま一直線に東の街の宿屋に帰還した。
彼らが戻るなり宿屋の女将は、自分達の居住スペースで使用している魔動シャワーにアミーナを入れさせ、雨で冷え切った彼女の体を温かく洗い流させた。
湯を上がったアミーナは、寝衣に着替え、早々に二階の部屋へと入っていった。
コーロ達は階下の食堂スペースの一席に着いていた。
「一体何があったのかしら......」
ユイは心配そうに言った。
「何かあったことだけは確かだけど......無理矢理聞くのもよくないしな」
「今はそっとしておいてあげた方がいいかしらね。でも、何か深刻な事態なら......心配だわ」
「ああ...」
「コーロ様。ユイ様」
ミッチーがコーロの懐からひょこっと顔を覗かせて二人に呼びかける。
「どうしたミッチー?」
「どうしたの?」
「アミーナさんに、ちゃんと事情を聞いてみましょう」
ミッチーは珍しく神妙に意見を述べた。
「......なぜそう思うんだ?」
「......アミーナさんが、ワタシの導きの欠片を持っているせいでしょうか?アミーナさんに良くない何かが迫っているような気がして...」
「そうか...」
「わかったわ。アミーナが落ち着いたら事情を聞いてみましょう」
「ん?」
コーロは突然ピクッとして何かを察知する。
「コーロ様?」
「コーロ?」
「何だろう。何か妙な奴が、ここに近づいて来ている......」
「妙な奴?」
コーロ達は会話を止めて沈黙した。
数秒後、宿屋の入口の扉がガラッと開いた。
コーロとユイは入口の方にチラッと目を向ける。
そこには白スーツに胸をハダけた黒ワイシャツを着たチンピラ風の男が立っていた。
男はドアの横へ乱雑に傘を投げ置くと、ズケズケと宿屋に入って来て、コーロ達が座っている席のテーブルの前に立った。
男はユイの方を見て、携えた剣に目をやると、顎に手を当てながらぶしつけに投げかける。
「おたくさん、冒険者?」
ユイは男を軽く一瞥し、微動だにせず訊き返す。
「その前に貴方だれ?」
男は額に皺を寄せて答える。
「あ?人に名を聞くときはまず名乗れってか?確かにそうだ。おれはゲアージだ」
「私はユイリス。で、私達に何の用なの?」
「何の用?何の用ってか。そりゃこっちが聞きたいんだが?」
「は?」
「ユイリスさんよ?それとそっちのにいちゃんよ?おたくら、タペストリで最近やたらと破滅の黒猫について調べてるらしいが、ありゃなんでだ?」
ゲアージはだしぬけに質問した。
ユイはコーロと視線を交わすと、コーロが軽く頷いて答える。
「ちょっと破滅の黒猫様に興味があって調べていただけだよ。なんでもここキャロルの近代化にも大きく貢献したっていう偉大な方らしいからね。それだけだが?」
「ふーん、そーか。んじゃ、やたらと魔...じゃねえ、野良犬駆除に精を出してんのは何でだ?」
「それがあんたに何の関係があるんだ?」
コーロは素直に不審がる。
「あ?質問を質問で返すなよ?ムカつくだろがオイ」
ゲアージはさらに表情を険しくする。
「いきなり迫って来て自分から名乗ろうともせず唐突にあれやこれや聞いてくる貴方の方がよっぽど失礼じゃないかしら?」
ユイは流暢に問い返した。
「あぁ?」
「その、あぁ?てやめてくれる?不快だから。それだけで貴方と話すのが嫌になるわ」
「おい、テメェ..。可愛いツラしてるからっておれが何もしねえとでも思ったか?オイ?」
「あら?私が何もしないとでも思った?」
「あぁ!?」
「おいユイ!ここでやめろって!」
コーロはざわついている周りを気にしながらユイをなだめる。
ここで二階から、ざわざわとしている階下に寝衣姿の猫娘がトコトコと降りて来た。
アミーナはコーロ達が何やら一人の男と揉めているのを見て声を上げる。
「おにーさん?おねーさん?どないしたんや?」
「あ、アミーナ?もう出てきて大丈夫なのか?」
コーロがアミーナの方を見て答えた。
「......ふーん、なるほど、ね」
ゲアージはそのやり取りを見て、ひとり首肯した。
「おっけーおっけー。わかったわかった。よ~くわかった。そーゆーことね。んじゃもういいや」
そう吐き棄てると、彼は途端にクルッと背を向けてズカズカと出口まで歩いていき、傘を引っ掴んで、そのまま立ち去って行った。
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