ep65 絶望の猫娘
キースの事実を知らないアミーナは...。
翌日。
アミーナはキース邸を訪ねていた。
その日も、空には陰鬱とした雲が重々しく広がっていた。
「アミーナちゃん!キースはどうしたの!?」
「おばさん?どうしたって?ウチは今、キースを訪ねて来たんやけど?」
「それがあの子、昨日から帰ってないのよ!?」
「え?ほなどこ行ったんや?」
「それがね?昨日、あの物件行ってくるって言ってから一旦は帰ってきたみたいなんだけれど、それからまたすぐに出て行ってそのまま戻って来ていないのよ!」
「そうなんか!?ほなまた物件行ってあそこで泊まったんかな?」
「わからないけれど...」
「ほんならウチが今から行ってくるわ!」
「...私、警備局に行こうか迷っていたの」
「おばさん!そんな心配せんといて!今からウチがすぐ行ってくるから!」
「アミーナちゃん、お願いね!」
アミーナはキース邸からタペストリート沿いの物件を目指して勢いよく飛び出した。
目的地に向かいながら彼女の頭の中には様々な思案が巡ったが、まずは着いてから考えようと直ぐに頭を切り替えた。
物件前に辿り着く。
すると、彼女は何かどことなく不自然さを感じた。
ドアの取手に手をかけると、そのまま扉は開いた。
鍵は開いている。
室内を見渡すと、キースの姿はなかった。
しかし、厨房の奥の方から二人の男が現れる。
「あれ?君は?」
「え?自分らだれ?」
「えっと、僕らは内覧に来た者だけど?」
「内覧?なんで?ここ借り手ついとるよ?」
「え??そんなことないはずだけど?だってさっきここのオーナーに直接聞いたよ?ここ空いてるって」
「は?」
「なんでも、昨日、突然解約されて空き物件になったと聞いたよ?」
「昨日、突然解約!?」
「そう。ところで君は何なの?」
アミーナは、相手の質問が耳に入らず、口を閉ざして目まぐるしく思考を巡らした。
ーーーえ?どゆことや?解約て?キースがしたんか?え、なにがなんだかわけわからん。ほんで昨日から帰ってへんて。なんなんこれ?ーーー
「?ちょっと君?どうしたの?」
アミーナは立ち尽くしたまま考え続ける。
が、すぐに彼女はハッとして、いきなり走り出して物件をバッと飛び出した。
男達は、突然現れ突然走り去っていった猫娘に呆気に取られた。
「......一体なんだったんだ?」
アミーナは全速力でキース邸に引き返していた。
しなやかな尻尾が風を切っている。
顔には汗が噴き出していた。
「なんやごっつ嫌な予感する。嫌な予感する...!」
再びキース邸にたどり着いたアミーナは、口で息をしながら乱暴にドンドン!とドアを叩いた。
「おばさん!おばさん!」
慌てたようにキースの母が扉を開いて出て来る。
「アミーナちゃん?どうしたの?物件に行ってたんじゃなかったの?キースはいたの?」
「おばさん!ごめん!キースの部屋に入るわ!」
「ちょっとアミーナちゃん?」
アミーナは脇目もくれず勢いよく二階に駆け上がりキースの部屋にバン!と飛び込んだ。
普段、彼女は、勝手に人の部屋に入り、ましてや他人の部屋を物色するというぶしつけな行為をするなどあり得なかった。
しかし、平時の常識の枠で収まらない事態であるという事を彼女は本能的に悟っていた。
彼女は無遠慮にガシャガシャと室内の机や引き出しを掻き回す。
後から付いてきたキースの母は、アミーナの尋常ならざる様子にただ唖然としていた。
「あ、アミーナちゃん...?」
アミーナは猛然と立ち入り検査を続ける。
しばらくすると、彼女は一枚の封筒に入れられた一式の書類を見つけた。
アミーナは両膝をついて書類を床に広げる。
書類の一部に、覚えのある文言を見つけた。
彼女は両手も床につけて、一枚一枚食い入るように目を通す。
「こ、これ......なんや?なんなんや?なんやねんこれ!!」
キースが隠していた秘密が、考えうる限りもっとも最悪の形で、ここに暴露された。
アミーナは書類を手に取りワナワナと震える。
部屋の入口で呆然と立っていたキースの母が、明らかに不安定に沈んだ様子のアミーナにおずおずと声をかける。
「アミーナちゃん?一体どうしたの?ねえ?アミーナちゃん?キースは?あの子は?」
アミーナはキースの母の不安げな声を聞き、正気を取り戻したように広げた書類を忙しく回収して封筒にしまった。
彼女は、これをキースの母には見せてはいけないと思った。
いや、本当は見せるべきなのだが(彼女自身もそれをわかってはいたが)、彼女はそう判断した。頭ではなく、感情で。
アミーナは封筒を持ったまま立ち上がった。
そして、うつむいたまま何も言わずにキースの母の横を通り過ぎると、一気に部屋を飛び出した!
階段を勢いよく駆け降りて、あっという間に外へ出て行くアミーナ。
取り残されたキースの母は、何がなんだかわからず、ただ茫然と立ち尽くすのみだった。
再びキース邸から飛び出したアミーナは、今度は銀行に向かう。
彼女の胸騒ぎは、彼女の息の根を止めるかのようにぎゅっと胸を締め付け、呼吸を荒くさせた。
まるでこの僅かな時間に、あらゆる人生の理不尽を凝縮したかのように。
アミーナはすでに汗まみれだった。
彼女は汗だくになり、知りたくない事実を知りにいくために、ひた走る...。
数刻後......。
銀行から出て来たアミーナは、すれ違う人の肩にぶつかりながら、タペストリの街を歩いていた。
俄に雨が降り出した。
彼女はそれに気づかない。
やがて雨は本降りになる。
アミーナはずぶ濡れになりながら歩いていた。(手に持った封筒内の書類は不思議と原形をとどめている)
交差点。
横から歩いて来た人間に彼女はドンと突き飛ばされた。
彼女は水たまりにバシャンと尻もちを着いた。
「いたっ!痛い!!」
雨道に横たわる彼女のしなやかな尻尾が道行く人にグシャッと踏みつけられた。
彼女は耳を垂らしながら弱々しく立ち上がると、再び生気なくフラフラと歩き出した。
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