ep63 ゲアージの提案
ブラックファイナンスの魔の手にかかったキース。
ハイエナのようにゲアージはさらに追い詰める...。
キースは頭を抱え、額からポタポタと汗を溢し始める。
ゲアージはうろたえるキースを見下しながら問う。
「で、どーすんの?」
「どうするって......そ、そんなの」
「そんなの?」
「だ、誰かに、相談して......」
「誰に?親にでも相談する?」
「こ、こんなこと親には......」
「えーと、キースくんは、今はお父さんはいないんだよね?それでお母さんと暮らしてるよね?キレイなお母さんで羨ましいよね~」
「え、な、なんでそれを?」
「いや、いーかもしんないぜ?それ?お母さんに相談してみよーか?オレも一緒にいくからさ?」
ゲアージは動揺するキースの肩を強引にグっと引き寄せていやらしく微笑した。
「そ、それは、それは絶対にできません!お母さんにだけは、絶対に...!」
キースは泣き叫ぶように拒否した。
「じゃあこーしよーか?」
ゲアージはキースから離れると、二三歩歩いてからクルッと振り返り、人差し指を立てて提案する。
「今日全額返済しちまおう」
「ぜ、全額!?」
「今日、利息分と元本合わせて六百金貨(約六百万円)を払っちまうんだ」
「六百金貨を!?」
「それで全部がチャラになる。どうだ?あとは賃料払いながらここを使えばいい。あ、修繕費はいるけどな」
「で、でも、僕が今すぐ払えるのは、融資で受け取った二百金貨と、僕自身の資金の残額二百金貨を合わせて四百金貨までです...」
「なるほどねぇ。それじゃ残りはお母さんにお願いすれば?二百金貨ぐらいなんとかなるんじゃね?」
「そ、それは絶対にダメです!ただでさえ心配性のお母さんにこんな話したら......!それだけは...」
「心配かけたくないってか?」
「は、はい...」
「それともお母さんに情けない姿見せたくないってか?見栄張っていたいってか?」
「そ、それは......」
「この後に及んで張る見栄なんかあんのかねえ?」
「......あの...」
「あ?」
「その...解約は、できないんですか?」
「解約?」
「この物件、解約...」
「キース様。その場合は違約金百金貨が発生します」
もう一人の男が答えた。
「てえことは?解約すんなら、全部で七百金貨ってことか?でも払えんのは四百までなんだよな?」
「......」
「なあ、キースくん。お母さんに頼めないならさ?もう一人いんだろ?」
「もうひとり??」
「そ、もうひとり。可愛いビジネスパートナーちゃんがさ」
「か、彼女もダメです!」
「なんでよ?」
「こ、こんなことに、彼女を巻き込めないです......」
「なあキースくん。冷静に考えてみなよ?今日すぐ払っとかないとさ?彼女は巻き込まれちゃうんだよ?」
「え??」
「だってそうだろ?そしたらここで二人で商売始めちまうだろ?君の負債はここの負債なんだから。いずれは彼女にも影響が及ぶことは免れないだろ?そうなったらどうなる?」
「そ、それは......」
「まあ、そん時は、可愛い彼女にちょっと特別はお仕事でもしてもらってもいいかもなあ?」
「そ、そんなことは!」
「だ か ら!今すぐなんとかすんだよ!」
「でも、お金が...」
「あんだろ?」
「?」
「共同資金だよ」
「えっ?」
「だから彼女の分も合わせた事業資金があるだろって言ってんだよ?なあ?」
「い、いや、あるにはあるけど、でもそれは......」
「違うよキースくん。違う違う!これは彼女を守るためなんだよ。そう。彼女を守って、お母さんにも迷惑かけない。みんなが幸せになれる最良の方法なんだよ」
「最良......」
「キースくんは、ここでみんなを守る英雄になるんだよ。
つまりこうだ。
キースくんは今ここで、みんなに不幸を撒き散らす悪魔になるのか?みんなを守る英雄になるのか?
選択を迫られてるってわけだ」
「......」
「なあ?選択肢はひとつしかねえよな?」
「......」
「まあそんな暗くなんなよ?さあ、善は急げだ。銀行に行くぜ?」
キースはがくっと肩を落として、ゲアージともう一人の者に連れられて、よろよろと物件を後にした。
もう彼には確固たる意志が無かった。
母の事とアミーナの事を考えて、己の情けなさと自己嫌悪に潰されそうになった。
ただ一秒でも早く、この状況から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
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