ep58 野犬退治
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「ありがとうございます!うちのクロちゃんを見つけてくれて!」
「あ、いえいえ!」
「もう逃げないように気をつけてくださいね」
「はい!もうこの子ったら、一年前から急によく飛び出していくようになったのよ!まったく困っちゃうわ」
「はあ」
コーロは無事、初仕事を終え、この世界に来て初めて、労働で得た報酬を手にした。
高校生時代の初バイト初給料を彼は思い出した。
時間にして一時間とちょっと。
迅速な業務執行だった。
というのも、ユイがコーロを一切ダラけさせなかったからだ。
「どうだった?コーロ」
「あの、ユイぱいせん」
「ぱいせん?」
「もっとお手柔らかにお願いします...」
「あら?ご指導ご鞭撻って言ってなかったかしら?」
ユイは両手を腰に当て、微笑みながら鋭い目つきでコーロをじっと見つめて言った。
「まあ...言ったけど」
バツが悪そうに答えるコーロ。
「どんなクエストも、クエストはクエスト、仕事は仕事です!」
ユイは人差し指をぴんと立てて小学校の先生のような顔で指導した。
「ですよね......」
コーロは小学生時代の社会科見学を思い出した。
続いて、彼らは野良犬駆除のクエストも受託した。
だが、ギルドの話によると、野良犬は夜にならないと出て来ないとの事。
なので彼らは、暗くなるまでは再びタペストリに行き、黒猫調査を行う事とした。
一方その頃。
アミーナはキース邸にいた。
「あらそうなの~!もうアミーナちゃんは相変わらず元気で可愛いんだから!」
「おばさんはいつもめっちゃキレイで可愛いやん!ウチ、歳を重ねても、おばさんみたいにいつまでもずっと若くてキレイで可愛くいたいわ!」
「あらもうアミーナちゃんたらっ!」
「にゃははは」
「もうずうっとここに泊まっていっていいのよ?」
「ホンマにぃ!?にゃはは」
「あ、アミーナ。か、母さん......」
アミーナはキースの母をたらし込んでいた。
キースは横でただ苦笑いするのみだった...。
日が沈み......
夜になると、コーロ達は東の街の街外れにいた。
野良犬駆除任務を果たすためだ。
そこは繁華街から離れ、背の低い住居が点在していた。
灯りも乏しく、夜闇に道ばかりが広がっていた。
人気がなかったので、ミッチーは二人の間をフワフワ浮かんでいた。
「野良犬駆除って、要は野犬退治って事だよな?」
「だと思うわ」
「これって冒険者の仕事なのか?この街の行政?警察?の仕事じゃないのか?」
「本来は街の警備局の仕事だけど、手が回らなかったのかしらね。彼らも暇ではないのだし」
「あ、そういえば、このクエストは匿名の依頼なんだよな?ひょっとしたら警備局の人が匿名でこっそりギルドに依頼してたりして」
「どうかしらね。それならそれで匿名にする意味もないわ。実際、警備局だけでなく国からギルドへ依頼が来ることもあるのだし」
「いわゆる民間委託?てことか」
コーロとユイは辺りを見回しながら歩いていた。
「野良犬さんはどこにいらっしゃるんですかね~」
ミッチーが言った時、コーロは何かを感じてピタリと足を止める。
「コーロ?」
「コーロ様?」
「......来る。何頭か」
「視界には何も見えないけれど......」
「すでに近くまで来ている。俺には見えるんだよ」
「ユイ様。コーロ様はその闇の力で特別夜目が効くのです」
「そうなのね。...!?」
ユイも何かを感じとる。
「ユイも感じたか?これって......」
「......この気配、これは...野犬なの?」
すると、三人から少し離れた視線の先の草木の影から、黒々とした五頭の野犬が姿を現した。
いやに鋭い目つきを鈍く光らせ、通常よりも筋肉を盛り上がらせたようにも見える五頭の獣は、一種異様な雰囲気を纏っている。
「あれは野犬なの?魔物ではないの?何かとても邪悪な気配を感じる......」
「ミッチー、あれはなんだと思う?」
「......おそらくただの野犬ではありませんね。魔物...というより、限りなく魔物に近い獣と言ったところでしょうか」
「じゃあほとんど魔物ってことか...。こんなのが街にいたらヤバくないか?」
「とても危険だと思うわ。あの気配は普通じゃない。もうこれは魔物退治と変わらない。私達でなんとかしましょう」
「これはただ追っ払えばいいって訳にはいかなそうだな」
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