ep55 キースの想い
やがてタペストリートに出てしばらく進んでいくと、黄みがかった白色の三階建ての建物が見えた。
目的地に着くなり、キースはうわついた声を上げた。
「アミーナ!こ、ここの一階だよ!」
「これ?おお!」
「もう鍵ももらってるんだ。中に入ろう!」
「う、うん!」
中に入ると、そこには飲食店としては十分すぎる広さのフロアに最新の魔動設備を擁した素晴らしい景色が広がっていた。
「うっわ!ホンマにむっちゃええ物件やんか!」
「わかってくれたかい!?」
「うん!ようやったよキース!」
「あ、ありがとう」
キースは顔を赤らめて、感動するアミーナの姿を見てこの上ない幸福感を覚えた。
そして自分の判断は間違っていなかったんだと思った。
ーーーああ、良かった。アミーナが喜んでくれて。
アミーナは僕を救ってくれた天使のような存在だから......。
ーーー僕の家は中流階級の家庭だ。
だけど、父は上流階級から中流階級に没落した人だった。
それで僕をどうしても上流の人間として育てたいがために、父は僕を無理矢理、上流階級の貴族連中ばかりの学校に入れさせた。
優しい母さんは反対していたけど、父は頑なに譲らなかった。
入学すると、僕は彼らとはまったく気が合わなかった。
僕は彼らから常に上から目線で扱われた。
僕はせめて勉学だけでも勝りたいと思い、何年も必死に勉強した。
やがて結果は伴った。
僕は成績優秀な優等生になった。
でも、彼らの態度は変わらなかった。
もちろん、多少は周りの見る目も変わったけれど。
結局、そんな事は彼らにとって取るに足らない事だったんだ。
むしろ、あいつは生意気だと、いけ好かない奴だと、逆に疎まれるようになった。
おかげで、僕はひとりぼっちになってしまった。
いったい僕が何をしたっていうんだ?
僕は悪くない。
じゃあ誰のせい?
そうだ。父さんのせいだ。
父さんが僕を無理矢理に上流貴族として育てようとしたからだ。
僕は貴族なんかになりたくない。
あんな奴らみたいにはなりたくない。
なのに父さんは僕を......。
僕は父を恨んだ。
......それからすぐだった。
父が他界した。
まだ若かった。
僕は虚しくなってしまった。
勉強することは続けたけど、ひとりで無意味に時間だけが過ぎていっている気がした。
たださびしく、つまらなかった。
......やがて月日が経ち、一年前。
僕は、キャロルの街に旅芸人としてやってきたアミーナと出会った。
僕は彼女に一目で心を奪われた。
彼女は自由だった。
僕なんかと違って、何にも縛られず、翼を大きくはためかせ命を輝かせてめいっぱい生きていた。
彼女は、陰鬱としていた僕にも快く接してくれた。
僕が上流貴族たちに見下されていることなんか、彼女にはまったく関係なかった。
僕がひとりぼっちでウジウジしていることなんか、彼女にはまったく関係なかった。
僕はアミーナと話せば話すほど、自分の心が雲一つない空のように澄み渡っていくのを感じた。
だから、アミーナが起業したいと夢を語ってくれた時、僕は彼女を全力でサポートしたいと思った。
それから僕は、らしくもなく方々駆け回って、タペストリで商売をやっている連中との交友関係を結び、人脈を広げた。
最初は怖じけずくこともよくあったけど、アミーナの事を考えると頑張れた。
そして、ようやく、この物件を見つけたんだ。
これで僕はアミーナと共に、夢に向かい本格的にスタートできるんだーーー
二人はしばらく物件内をうろうろしながら愉快に喋った。
何となくぎこちなかった二人の距離感は完全に正常に戻った。
ふとキースは昼食の時間が過ぎてしまっていることに気づき、遅めのランチに彼女を誘った。
アミーナは快活に承諾した。(契約書の事は忘れて...)
二人は物件を後にして、昼食を取りに付近のレストランへと足を運んだ。
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