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導きの暗黒魔導師  作者: 根立真先
異世界の章:第一部 西のキャロル編
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ep54 再会

 数刻後。


 ユイはタペストリでもっとも大きい銀行に来ていた。

 ユイには勇者として得た多額の報奨金があった。

 そのお金は、教会や孤児院や貧しい病院などへの寄付といった慈善活動にも多く支出されていたが、残りのほとんどは祖国のヘンドリクスの銀行と聖教会に預けられていた。

 しかし、かつての仲間の教えで、ある程度を分散して保管していた。


 その一つがキャロルの銀行である。

 商業国家で為替のシステムも発達しているキャロルの銀行に預金しておけば今後何かと役に立つと、かつての仲間がユイに教授していたのである。


 ユイは旅の資金を引き出した。

 滞りなく。

 何も問題はなかった。

 その事実は彼女に安堵と言い知れぬ不安をよぎらせた。


ーーー何も問題ない。びっくりするぐらいに、何も...。

 いえ、これ以上考えても仕方ないわ。

 でも、シェリルに教えてもらったことがこんな形で役に立つなんて......。


 とりあえず、これで当面の旅の資金を心配する必要はなくなったわ。

 コーロは私にお金を使わせることを気にしているみたいだけど......

 これは私が私の意志でしているだけ。

 こんな事は大した事じゃない。

 私は、あの人に救われたのだからーーー



 その頃。


 アミーナはタペストリ市内の中心街からは少し外れた、ある中流階級の家庭の屋敷を訪れていた。

 

「キース!久しぶり!元気やった?」


「や、やあ!アミーナ!久しぶりだね!僕は元気だよ!アミーナは、相変わらず元気そうだね」


「ウチはいつでも元気やで!キースは......少し疲れとる?」

「そ、そんなことないよ!」


 そこはキースが家族と暮らす住居だった。

 アミーナは以前にもキースに招待されたことがあった。

 その時、将来一緒に起業してああしようこうしようと楽しく未来を語り合った事は、二人にとって(まばゆ)い思い出となっていた。


 キースは彼女を客間に案内する。

 先にアミーナを席に着かせると、彼は飲み物を取りに一旦部屋から出ていった。

 アミーナはキースの様子が若干気になったが、すぐにふんふんふんと鼻歌を口ずさみながら上機嫌に待機した。


 キースは紅茶を入れたカップを持って戻ってくると、それをかたんとテーブルに置き、アミーナの正面の席に着いた。

 彼は妙にもじもじしていた。


 アミーナは首を少し傾げて、不思議そうに彼を見る。

「キース?どないしたん?」


「え?い、いや、何でもないよ!」

「ホンマに?」

「ほ、本当だよ!そ、そうだ!アミーナ!実は......」

「?」


「実はさ!タペストリート沿いに良さそうな物件を見つけたんだ!好立地なのに低賃料で、しかも最新の魔動設備も備えた、かなりの好物件なんだ!」


「...ホンマ!?」

「本当だよ!」

「スゴイやん!キース!」

「それでね?アミーナ」

「うん?」


「あまりにも良かったんで、すでに契約書を交わしたんだ」


「え?」


「えっと、その、本当はアミーナに最終確認してからするつもりだったんだけど、あんな物件そうそう出てくる事はないってコンサルタントの人に言われて」


「...そんでひとりで決めたと?」


「ご、ごめん、アミーナ。でも、僕はアミーナが喜んで欲しくて...!」


「キース」

「な、なんだい?」

「契約書は?」


「あ、えっと、契約書は、その、物件に置いて来てるんだ。...そ、そうだ!この後、その物件を一緒に見に行こうよ?アミーナも見てくれたらわかってくれるから!」


 キースはそう提案すると、カップを手にして紅茶をぐーっと一気に飲み干した。

 それからすぐに外出するようアミーナに促した。


 アミーナは不自然にあくせくするキースをいぶかしげに眺める。

 だが、彼の知性も人の良さも彼女はよく知っている。

 そんな彼を信用している。

 だからこそ、彼と共に起業することを決意していた。

 なので、アミーナは釈然としない気持ちがありながらも、キースに伴われ言われるがまま出掛けた。


「な、なんかバタバタしちゃってごめんね!」

「全然ええよ。それよりキース」

「な、なんだい?」


 アミーナは路上で急に立ち止まると、怪訝(けげん)に彼の目をじ~っと見つめて質問する。

「キース、なんかウチに隠してることない?」


「え??えっと、ぼ、僕がアミーナに隠していることなんて何もないよ?」


「ホンマ?」

「もちろんだよ!」

「ホンマにホンマ?」

「本当だよ!?」


「ならええけど。ウチ、キースのこと信じとるから」


 二人は再び歩き始めた。

 キースは額に若干の汗を滲ませつつ、心持ち足早になって歩いた。

 アミーナもそれに続いた。

 当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

 感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

 気に入っていただけましたら、今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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