ep49 微妙という言葉にはトゲがある
......
ーーー導きのままに......さあ、妾をーーー
......なんだ?目の前に薄く光る一本の羽根が浮かんでいる......エルフォレス様?いや違う。もっと深い、何か......
「......様!コーロ様」
「ん?ミッチー?あれ、俺寝てた?」
「ちょっとコーロ様!ワタシをジャケットの懐に入れたまま放り出して自分は勝手に寝てしまうなんてヒドイですよ!」
「あ、ああそうか。そいつはスマン」
「もうイイですよ!それより、誰かがドアをノックしてるようですが?」
コーロはむくりと起き上がると、靴を履き、「はいはい今出ますよ」と言いながら入り口まで進み、ガチャっとドアを開けた。
そこにはユイが立っていた。
「コーロ?ひょっとして寝ちゃってたの?」
「あ、ああ。ユイ、どうしたんだ?」
「どうしたも何も、これからどうするかまだ何も決めてないじゃない。それに夕食はとらなくていいの?」
「そういえばそうだったな。どうしようか?」
「それで呼びに来たのよ。でも、疲れているのならやめようかしら」
「いや、行こう。そういえばアミーナは?」
「アミーナは下で待ってるわよ。四人で食べようって、さっき私に声かけてきたの」
「そうだったのか。悪い。それじゃあ今すぐ出るよ」
コーロは急いで(一応ミッチーも連れて行くために)ジャケットを着て、ミッチーを懐に押し込んで部屋を出た。
彼らは階下へ降りると、食堂スペースの一席に着いたアミーナを見つけた。
「おっそい!」
「す、スマン」
「ごめんなさいね、アミーナ」
「ん?本のおねーさんはおるんか?」
「我、暗黒魔導師の懐に鎮座する者也......」
ミッチーはコーロの懐からおどろおどろしく声を上げた。
「なんやねんそれ!ニャハハ!ほな注文しよか」
アミーナが注文願いの声を上げると、厨房の方から小太りの頭の薄い中年男が親しげな顔をして出てきた。
「アミーナ!さっきカミさんから聞いたぞ!戻って来たんだってな!」
「にゃはは!おじさん!ウチ、またキャロルに戻ってきたで!」
「相変わらず元気そうだな!ん?いつもと連れが違うじゃないか?なんだかここらじゃ見ない雰囲気の兄ちゃんとえらいべっぴんさん連れて」
「おばさんに聞いてないんか!?さっき説明したからそっちに聞いといてえや!」
中年男とおばさんは夫婦だった。
共に賑やかな街で宿屋を切り盛りしている働き者だった。
アミーナは働き者夫婦に、まるで娘のように可愛がられていたのだ。
四人はテーブルを挟んで、コーロとユイ、アミーナに分かれ席に着いた。
食堂内の、全部で十組分あるテーブル席と残りのカウンター席の八割は埋まっていたが、ほとんどが常連客らしく、アットホームな雰囲気が充満していた。
料理はアミーナの勧めるがままに注文した。
どれもシンプルだが、食べやすく、美味しいものだった。
アミーナは食事をしながらも、目をまん丸くしたり細めたり、口を尖らせたり窄めたりと、忙しく表情豊かによく喋った。
特に旅の話は話題が尽きないようだった。
また、話も上手く、相手を飽きさせない話し方を彼女はよく心得ていた。
彼女がいるだけでパアっと場が明るくなるような、そういうものをアミーナは持ち合わせていた。
一方、ユイはアミーナの旅の話を聞きながら、傍に座るコーロを気遣い、自分も知っている事については、アミーナの話を補完するように、コーロに向かい説明を付け加えたりしていた。
ふとアミーナは、そんなユイを見て、頬杖をついてうっとりした。
「おねーさんて、ホンマ美人やわぁ。肌もキレイやし、顔ちっさいし、スタイルええし」
「い、いきなりなに?」
「強くて美人でええな~て。にゃはは」
「ユイってやっぱりモテるのか?」
「ちょっとコーロまでやめて」
「おにーさんは......なんかこう、えっと」
「アミーナ、そこで言い淀まないでくれ...」
「えっとその...微妙に、カッコええで?」
「微妙がつくとすべて微妙に持ってかれるからね?意味変わっちゃうからね?いや俺は結局、微妙なのか...」
「シャレやでシャレ!ホンマに落ち込まんといて!」
「なあユイ。俺って微妙なのか?」
「ええ?えっと...」
すかさずミッチーが彼の懐から顔を覗かせて割って入った。
「アミーナ様。ユイ様。コーロ様はこう見えて、やる時はやる男です。正確に言えば、やる時はやる可能性が高いと思えなくもない男です」
「それたぶんやらない男だろ...」
「なんやねんそれ!ウケるわ!ニャハハ!」
「ねえミッチー。あなたコーロの事、それこそ微妙に馬鹿にしてるわよね?」
「馬鹿にしてません。小馬鹿にしているのです!」
「お前やっぱり俺の事バカにしてんだな!もういい加減頭に来たぞ!お前に飲み物こぼしてやる」
「ちょっとなに本気にしてるんですか!ワタシはコーロ様の最大の理解者ですよ!?」
「ニャハハ!」
「ぷっ、ふふ。アハハ!」
この時、コーロは初めて、大きく声を上げて、柔らかく表情を崩して笑うユイを見た。
彼はその笑顔を見て、まるで自分の事のように安堵した。
ユイはとても真面目だったので、いわば勇者としての責任感みたいなもので、本当は嫌なのに付いて来てくれたのかな?などと彼は心配していたのだ。
また、自分との旅が、少しでも彼女の傷ついた心を癒すものになればという思いもあったので、彼にとって彼女の笑顔はなおさら嬉しかった。
当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。
感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。
気に入っていただけましたら、今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。




