ep48 東の街の宿屋
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「おお!ここがキャロルの街か!」
「ここはまだ国の東の街だけど、中心のタペストリ市に行けばもっと人がたくさんいて、街も人ももっと賑わっているわよ」
「そうなのか!でもここだって...しかも夜なのに、いや夜だからか?ずいぶんと活気があるな!」
「もともと多くの商人や冒険者が行き交う商業国だからね。キャロルのどこの街にもそういった人達が多く集まっているのよ」
「木造の簡素な建物が多いけど、所狭しとそこらに色んな店があって、商人の声も飛び交って、酒飲み連中がいて......雑な感じだけど良い街じゃないか」
「せやろ?ウチ、こーゆーガチャガチャ楽しい雰囲気好きやねん」
「確かに元気なアミーナが好きそうな雰囲気よね」
「アミーナのおかげで問題なく入国もできてここまで来られたんだ。ありがとな。(金は払ったけど。ユイが...)」
「にゃはは。たいしたことあらへんよ。それにおにーさん達には破滅の黒猫様について調べてもらわんとあかんしな!」
旅芸人一座の馬車に拾われた日の翌日の夜、コーロ達はアミーナと共に下車し、キャロルの東の街に降り立っていた。
旅芸人の連中はアミーナと別れを告げ、そのままキャロル国内の別の場所へと向かって行った。
あと一晩を一緒に過ごしても良さそうに思えるが、新たな旅立ちを迎えるアミーナの邪魔をしたくないという気遣いから、連中はそそくさと去って行った。
がさつな所も多々あったが、彼らは心根の良い連中だった。
別れの寂しさも笑顔に変えて、若いアミーナを送り出したのだった。
アミーナも彼らと同じように、寂しさを笑顔に変えて、送り出されたのだった。
様々な灯りと音と声と人混み。
雑然と賑わう雑踏の中、アミーナの案内で彼らは宿に向かって歩いていた。
やがて街の喧騒がやや収まってきた辺りのところまで進むと、一軒の、質素で小ざっぱりした二階建ての木造の宿屋にたどり着いた。
宿屋の一階には受付と厨房と食堂があり、二階には十部屋ばかりある宿泊施設を備えていた。
「ここなら安くて綺麗で過ごしやすくてリーズナブルやで!しかも食堂付、簡易魔動シャワー付や!」
「おお!思ったより綺麗だな!」
コーロが嬉しそうに言うと、彼のジャケットの懐からチラっと顔を覗かせてミッチーがチクリと言った。
「ここなら神経質なコーロ様も大丈夫でしょう」
「神経質って言うな!俺は現代人なんだよ!」
「そんなこと自信持って言われましても」
「それよりミッチーは俺の懐に隠れていろよ?お前が出てくるとややこしいから」
「はいはい承知しましたよ。チッ!」
「お前、今、チッて言った!?」
「......」
「ちょっとコーロ。何してるの?早く入りましょう」
「あ、ああ」
入口の扉をガラリと開け、宿屋に入るやいなや、店主らしき小太りのちゃきちゃきした、白髪混じりのひっつめ髪をした中年女性が声を上げる。
「いらっしゃいませ......て、アミーナじゃないのさ!?」
「おばちゃん!ウチ、またキャロルに戻ってきたで!」
「あらあら!相変わらず元気ねえ。ん?今日はいつもと違うお連れさんだねぇ?」
「実はウチな、旅芸人はもう辞めたんや。で、今日は別のお客さんを連れてきました。にゃはは」
「旅芸人辞めたのかい?そうかいそうかい。それで新しいお連れさんを連れてきたってわけかい」
「せやから今日はこの三人で泊まらせてもらうわ」
「あいよ。じゃあ早速案内するよ!」
「アミーナはあのおばさんと知り合いなのか?」
「前から知っとるよ。ほんでな?ウチの事、めっちゃ良くしてくれんねん。ほんでウチもおばちゃんの事めっちゃ好きやねん」
「なんかアミーナらしいわね」
「そう?にゃはは」
三人は、それぞれ二階のあてがわれた部屋へ入室した。
部屋は十帖ぐらいの広さで、窓が一つ、ベッドが一つあり、あとは小さい机が一つと椅子が二つずつあるだけの簡素なものだった。
コーロは部屋に入って灯りをつけるなり、そそくさとジャケットを脱ぎ、ベッドに座り靴を脱いで、すぐさま横になった。
彼は疲れていた。
...すぐにまどろみ始めた。
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