ep47 融資のプラン
翌日、キースは再び例の好物件を訪れ、カイソーと面会していた。
カイソーはキースにその物件を紹介した男で、起業コンサルタントと名乗っていた。
小柄な丸みのある体をした中年男で、頭にはハットを被っており、垂れた目に片眼鏡、丸い鼻の下には口髭を生やしている。
纏ったグレーのスーツの中からは黒いベストと白いシャツと淡黄色のネクタイが見え、手首からは高そうな腕時計がチラリと覗き、艶のある革靴を履き、よく整った身なりをしていた。
「キース様。突然お呼び立てしてしまい申し訳ございません。実は、当物件に若干の瑕疵が見つかりまして」
「瑕疵?欠陥ってことですか?」
「はい。実はこの室の魔動供給設備に不具合が生じてしまいまして、その修繕をしなければならないのですが」
「はあ」
「大変申し上げにくいのですが、契約上、その負担は新借家人が負うことになっておりまして」
「え?」
「でないと当物件の利用権も失ってしまうことになります」
「そ、そうなんですか!?でも、まだ賃貸借期間の開始前ですよね?そもそもまだ賃料も発生していなければ利用もできない状態なのに...ですか?」
「契約上そうなっています。何せ当物件は抜群の立地と設備を備え確実な集客が見込めるにもかかわらずリーズナブルな賃料の超優良物件ですから、そのような特約を設けているのです。書面にも記載してありましたよ?」
「そ、そうでしたか??...えっと、じゃあ、いくらぐらいなんですか?」
「二百金貨です」(約二百万円)
「そ、そんなにですか!?」
「ええ。この室は最新の魔動設備を多く備えておりますので」
「でも、いきなりそんな高額な費用を請求されても...」
「では契約を取り消されますか?」
「えっと、その、はい......。そもそも、本来はパートナーに確認してから契約するはずのものでしたし...。(アミを喜ばせたくてつい先走ってしまったんだ僕は...)」
「そうですか。となると......違約金として百金貨をお支払いいただくことになりますが」
「違約金百金貨ですか!?そ、そんな!」
「当然です。これも契約上そうなっています。むしろ、我々としてはこれでも損なんですよ?何せここは引く手数多の超優良物件ですから。他にもいくらでもお客はいるのです」
「ど、どうしよう......」
「お悩みのようですねぇ。では、私から一つ提案があります」
「提案、ですか?」
「例の融資のプランですよ。それを利用するのです」
「はあ」
「あのプランをご利用いただければ、修繕費二百金貨は今お支払いいただかなくても結構です。お店を開いて利益を上げてから、余裕を持ってお返しいただければ問題ありません」
「そ、そうですか!でも......」
「パートナーの方にご心配とご迷惑をかけたくないのでしょう?」
「は、はい!そうなんです!」
「そうでしょうそうでしょう。それに、こんな好物件めったに出ませんからね。
つまり、これは大きなチャンスなんです。逃す手はありません。ここで逃したら絶対に後悔するでしょう。
これは成功するための投資です。未来への投資です!その未来のために、私も精一杯のご協力をさせていただきますよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
「では早速、手続きを始めましょう」
キースは、カイソーの言う「融資のプラン」を利用する事で、事なきを得た。
二百金貨は確かに高額だが、なんとか払えない額ではなかった。
しかし、彼はアミーナに少しでも余計な負担をかけたくなかった。
手持ちの資金が一気に減れば、必然的に彼女にも影響を与えてしまう。
だから、彼一人で融資を受け、彼一人で返済する事にしたのだ。
キースにとっては、商売云々以上に、アミーナと目標・目的・行動を共有できる幸福が何よりも大切だったのである。
融資の手続きの完了と共にキースとの面会を終え、物件を後にしたカイソーは、タペストリ市内のとある豪勢な屋敷を訪れていた。
「社長。先ほど、タペストリート沿いの居抜き物件に絡んだ融資の手続き、滞りなく終了いたしました」
「カイソー。またどこぞの小僧を捕まえたらしいな。相変わらずお前らしい」
「いえいえ。私は堅実に仕事をこなしているだけでございます」
「フッ。で、搾り取れそうか?」
「あのタイプはチョロいですな。あういうお勉強はできるけど大人の社会には疎く将来を夢見てる若者なんてのは一番簡単ですな。
それに小僧の入れ込んでるビジネスパートナーも戻ってくるとの話。さらにそちらからも搾り取れば...」
「そうか。我が社のために、たっぷりと搾り取って来いよ」
「かしこまりました。社長」
......
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