ep46 青年キース
コーロ達が馬車に揺られる中、キャロル公国タペストリでは...。
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コーロ達とアミーナが出会う数日前。
キャロル公国タペストリ市タペストリート沿いのとある空物件。
それは黄みがかった白色の三階建ての建物の一階部分で、先月まではレストランが営業していたスペースだった。
室内は飲食店としては十分過ぎる広さであり、立地もよく、人の多い賑わいのある通りに面していた。
辺りはいわゆる商業地域で、酒場、食堂、喫茶店、服飾屋、雑貨屋、宿屋、小劇場、等々、市民の生活から娯楽までを支える種々の店々が軒を連ねていた。
「アミの奴、びっくりするだろうなぁ。こんな好物件をおさえることができたなんて知ったら。早くアミの喜んだ顔が見たいな」
この二十歳の青年の名は、キース・スチュアート。
先日、タペストリート沿いの好物件を確保することに成功した、アミーナのビジネスパートナーである。
背は低く、ウェーブのある栗色の髪で、黒縁の眼鏡から覗く大きな目は、気弱におどおどしがちだった。
顔には無数のそばかすがあり、決して器量が良いとは言えない外見からは、都会の人間のわりに純朴で俗世間には疎い人の良さが滲み出ていた。
キースは、中流階級の家庭で、それなりに裕福に育った。
一定以上の教育を受け、学があった。だが、いつもどこか不自由な心を抱えていた。
そんな彼が、ある時、タペストリの街に旅芸人としてやって来たアミーナと出会う。
彼女の猫娘としての可愛らしさはもちろんだが、何より彼女の自由奔放で逞しい生命に心を奪われた。
利発で気さくで社交的なアミーナとは、すぐに仲良くなった。
決してアミーナは誰彼問わず親しくなるわけではなかったが、彼からどことなく非凡な知性と人の良さを感じ、彼女もまた彼に興味を持ったのだ。
いつしか二人は互いに協力し、互いにアイディアと資金を持ち寄って、商売を始める計画を立て始めた。
キースは経営に関する書物を読み漁った。
また、知人のツテで事業関係の人間達と何かと情報交換した。
アミーナは旅をしながら、各地の様々な商品や店を見て回った。
どんな人がどんな商売をして、どんな人がそれを楽しんでいるのか、つぶさに調査した。
結果的にはアミーナの猫娘としての特性を活かす、ある意味ではシンプルな着想に帰結したが、この世界でのそれは非常に斬新なものだった。
何をするかが決まった。
あとは具体的に、実現の手段を考え、講ずること。
そしていよいよ、その計画が現実となる日が近づいていた。
次にアミーナがキャロルに戻ってくる時が、船出となる時である。
「......本当にこんな好立地の好物件を、しかも、最新の魔動キッチン、最新の魔動シンク、最新の魔動冷蔵庫、最新の魔動空調機......
こんな最新の魔動設備の付属した居抜き物件を、この金額で利用できるなんて......それもこれもカイソーさんのおかげです」
「とんでもございません。知人の方からキース様をご紹介いただき、この度お手伝いさせていただけることとなったこと、誠に嬉しく思います」
「いえ、そんな!カイソーさんにお手伝いしていただいたから、こんなにスムーズに事が運んだんですよ。本当にありがとうございます」
「いえいえ、これもまたひとつの縁なのでしょう。ところでキース様。融資の件はどうなさいますか?」
「えっと、それは、もうすぐビジネスパートナーがキャロルに戻って来ますので、一度彼女に相談してから決めたいと思います」
「そうですか。かしこまりました。ただ、今回の融資は特別なものなので、対象者の「枠」にも限りがありますので、申し込まれるのであれば、くれぐれもお早めにお願いいたします」
「あ、は、はい!」
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