ep37 猫娘、現る
呼び止めた馬車から若い娘の声。その正体は...
馬車の中から、一人の若い娘が現れた。
「え?猫?人?」
コーロは娘のその姿に驚く。
黄金がかった銀髪、悪戯好きの子どものような大きな目、無邪気に生意気そうな口元。
動きやすそうなノースリーブのタイトな茶色の上衣。黒のアームバンド。縁の茶色い黒のショートパンツ。茶と黒の縞模様の長いソックス。
背は低く、痩せてはいるが、大人びた少女のような体。
頭には獣の耳が生えていて、腰の下辺りからは尻尾がしなやかに伸びている。
ミッチーは懐に隠れながら、その可愛らしい者をこっそりチラッと見て、驚いているコーロに小声で教える。
「あれは猫族の亜人、いわゆる猫人ですね」
「ね、ねこびと?」
「はい。猫人は亜人の中でも特に人間と相性の良い種族です。俗に猫人の女は猫娘と呼ばれ、その愛くるしい見た目には多くの人々が魅了されると言われています」
猫娘はトコトコと手前まで歩いてくると、ユイとコーロを確認するようにじーっと見つめて、再び口を開いた。
「乗せたってもええよ。ちょうどウチらもキャロルに向こうとるところや。た だ し!コレはあるん?」
そう言うと猫娘は、イシシとニヤけながらいやらしい目つきで、手でお金を示した。
ユイは猫娘の問いに、落ち着いて問い返す。
「お金を払えばキャロルまで乗せていってくれるのね?」
「もちのろんや!」
「わかったわ。じゃあお金を払うから私達を乗せてって」
「ほな、契約成立や!」
ユイが早速お金を渡すと、猫娘はニンマリと悪戯っ子のような満足顔を見せ、二人に馬車に乗車するよう促した。
コーロは不安そうにユイに訊く。
「なあ、大丈夫なのか?あと、お金はあるのか?」
「大丈夫よ。それにお金は私が払うから」
「あの、ほんっと、スンマセン!」
「コーロ様。ここはユイ様に任せましょう。その方が確実です」
「まあ、そうなんだけど......(おそらく年下であろう女子に奢らせてしまった...!)」
それは旅芸人の一座を運ぶ馬車だった。
座席のあるような上等なものではなく、屋根の付いた荷台のまわりを布で覆った、一座を乗せて運ぶ輸送機という具合だった。
馬車内には猫娘以外にも三人いて、旅の荷物や芸の小道具を横に、陽気に話す人間もいれば寝ている人間もいた。(三人以外にも馬上で輸送機を操縦している者が一人いる)
連中はその馬車を使って方々旅をしながら、各地で商売をして回っているのだった。
猫娘は、その旅芸人一座の一員である。
コーロ達は馬車に乗り込み、軽く挨拶をし、空けてもらったスペースに並んで腰を下ろした。
連中は突然の乗客に特に注目もせず、全く気にしていない訳でもなかったが、総じていつも通りといった塩梅だった。
馬車はコーロ達を乗せ、ぼんやりとした光を放ちながら再び駆け出した。
ユイは馬車内を見回し、ぼんやりとした光を感じながら口を開いた。
「やっぱり、これ......」
「魔法......?」とコーロ。
「これは...精霊魔法ね」
ユイの言葉に連中の一人が反応する。
「おお!よくわかったな!これはその精霊魔法ってやつさ!これなら夜でも安全に馬車を走らす事ができて、さらには風の精霊の力で馬車のスピードも上げてくれるってシロモノさ!」
「すごいわね。精霊魔法は高等魔法よ。こんなふうに使うなんてよっぽど優れた魔導師がいるのね」
ユイは素直に感心した。
その会話を聞きながら、コーロ達の横に座っていた猫娘は誇らしげにうんうんと頷いていた。
さらに連中の別の一人が口を挟む。
「その精霊魔法とやらを使っているのが、うちの看板猫娘さ」
ユイは猫娘の方を見直して、改めて感心した。
「貴女すごいのね」
猫娘はえっへんと言わんばかりに勝ち誇った。
「こんぐらいたいしたことあらへん!」
コーロは会話に交じらずに、一座の連中に気を配っていた。
念のため、悪意や敵意がないかを探っていたのだ。
だが、そういうものは見受けられない事を確認するとユイに喋りかける。
「このまま行くとキャロルまであとどれぐらいかかるんだ?」
「馬車なら二日もあれば着くんじゃないかしら?」
「それ、歩いていたらどうなるんだ......」
コーロの言葉に猫娘が答える。
「この馬車なら明日の夜には着くやろな」
「魔法の力かしら?」
「せや!夜通し進めばもっとはよ着くけど、それじゃ馬がアレやし、今晩は野宿して朝出発して夜に着くって感じやな」
彼らは東方から街々を回りながらキャロルに向けて駆けてきたらしかった。
その途上でコーロ達を拾うに至った、という訳である。
馬車は猫娘の精霊魔法の力により、通常の馬車の倍以上の疾さで駆けていた。
辺りが暗くなってからもしばらくは駆けていたが、やがて小さな川のほとりに辿り着くと、そこで野宿をしてから翌朝再び出発する運びとなった。
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