ep36 歩きはツライよ
~ここまでのあらすじ~
異世界に来て暗黒魔導師となった須夜崎行路(コーロ)。
魔物の森で出会った妖精主エルフォレスと守護獣レオルドの要望により、彼らと共に勇者を率いたヘンドリクス王国の討伐軍と戦う事になる。
しかし、賢者エヴァンスが勇者を操り、その戦いでエルフォレスは倒れてしまう。
陥った危機的状況に、エルフォレスが緊急事態用に仕込んでおいた魔法を発動し、エルフォレスと森の魔物達は、森ごとその姿を消した。
魔人となったレオルドの威嚇により、討伐軍はコーロと勇者を捕らえることは断念し撤退する。
だが、レオルドはコーロに『フェアリーデバイス』を手渡すと、己の目的のために去っていく。
残されたコーロとユイリス。
かつての仲間に裏切られ傷ついた勇者ユイリスに、コーロは手を差し伸べる。
そして、コーロとユイリスとミッチーは、『導きの欠片』を求め、西のキャロル公国を目指していく。
...ということで、
西のキャロル編、開幕。
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最初の試練を、乗り越えたようじゃな......。
しかし、まだうまく力を使えていないようじゃ。
そろそろ、その闇の力、覚醒してみせよ。
すでに奴に、解放してもらったのじゃろう?
さもなくば、これからは生き残ってはゆけぬぞ。
つぎはそこにゆくのか。
それもいいじゃろう。
勇者と共にゆくのか。
それもいいじゃろう。
さあ、妾を、どうか...
どうか......
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「ちょっとコーロ様!もっとさっさと歩いてくださいよ!」
「マジでもう無理!正直、さっきの戦いだけでもう限界だ!」
「時間的には長くはなかったでしょう!?それにさっきまでだって座ってたじゃないですか!情けないですねぇ!勇者様を見てくださいよ?」
「な、なに?私がどうかしたの?」
コーロ達は勇者ユイリスと共に、西のキャロル公国へ向かって広大な大地を歩いていた。
空はまだ明るかったが、徐々に赤みを帯び始めている。
「ユイリスは、何でそんなに平気で歩けるんだ?勇者だから?」
「何を言っているの?少しでも早く着いた方がいいでしょう?それに森があった場所からは早く離れた方がいいわ。夜になるまでに少しでも進んでおきましょう」
「まあ、そうなんだけどさ...ただ体力的に......」
結局コーロは、しばらく歩いてから足を止めてしまった。
彼が思うところの、決して体育会系ではない現代人の限界らしい。
「勇者様!申し訳ありません!コーロ様は脆弱な暗黒魔導師なんです!勘弁してあげてください!」
「ぜ、脆弱な暗黒魔導師なんているの!?」
「...スイマセン。ここにいます...」
「そ、そう。ならいったん休みましょう」
ユイリスはコーロを慮り、いったん小休止を取ることにした。
ユイリスは完全に立ち直っているわけではなかった。
胸の苦しみは残っていた。
しかし、心は落ち着きを取り戻していた。
コーロ達と共にゆくという事が、彼女の胸に新鮮な温もりを与えていたから。
ユイリスは、野原の上に疲れてぐでんとなっているコーロを不思議そうに眺めた。
ーーー私はまだこの人の事をよく知らない。異世界から来たひと。闇の魔力を持ったひと。崩れそうな私に手を差し伸べてくれたひとーーー
「...ユイリス?」
「あ...はい!?」
「なんかボ~っとこっち見てるから」
「な、なんでもないわ!」
「ならいいんだが。ユイリスは疲れてないのか?」
「私?私は平気よ?」
「じゃあやっぱり俺がダメダメなだけなのか?ヤバ、なんかヘコんできた...」
「ねえ」
「ん?」
「貴方のこと、なんて呼べばいい?」
「え?」
「本の人はコーロって呼んでいるから、私もそう呼べばいいのかなって......」
「あ、ああ。それでいいよ」
「うん。あと、私のことも、ユイでいいわ」
「そ、そうか。じゃあそう呼ぶよ」
「じゃあ、コーロ」
「え、なに?」
「その......」
「?」
「さっきは...ありがとう」
ユイは、はにかんで目を逸らした。
コーロは俄に照れ臭くなって無意味に頭をかき出した。
すると、二人の奥ゆかしいやり取りをぶち壊すように、図々しいミッチーがしゃしゃり出てくる。
「ちょっとユイ様。ワタシは本の人ではありません。ワタシの事は金輪際ミッチーとお呼びください!」
「えええ?わ、わかったわ」
「わかったならよろしい!」
「なんでおまえはそんなに偉そうなんだ......。ん?なんか音が聞こえるぞ?これは...馬?」
遠くから、馬の蹄と車輪の音が響いている。
その音は、徐々にこちらに近づいて来ていた。
やがて、彼らの視界の先に馬車が駆けて来ているのが見える。
馬車は所々から、何か薄くぼんやりとした光を放っていた。(何の光であろうか?)
ユイは何かを思ってすぐに立ち上がり、馬車に向かって大きく手を振りながら声を上げた。
彼女の姿に気づいた馬車は、こちらに接近しながら緩やかに速度を緩め停車する。
「乗せていってもらえるか聞いてみるわ」
ユイが疲れるコーロを元気づけるように言った。
「あ、ああ、わかった!(それ俺がやんなきゃいけないんじゃね?ヘンドリクスから来た人だったらヤバくないか?いやさすがにまだ大丈夫か......あ!あとミッチーは隠した方がいいような...)」
コーロは念のため、フワフワ浮かんでいるミッチーをパッと掴んでジャケットの懐にゴソッと押し込んだ。
「(モゴモゴ)」
ユイは最低限の警戒はしながら、停車した馬車に向かい要望を投げる。
「あの、すみません!私達、キャロルに向かっているのですが、途中まででもいいので、乗せて行ってもらうことはできませんか?」
馬上の者からも馬車の中からも、反応はなかった...
かに思われた時、一人の娘の声が上がる。
「ええよ!」
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