ep31 圧倒的な悪意
勇者の剣に妖精主が貫かれた!事態の行方は...。
ユイリスは自らの行動を自ら理解していなかった。
「わ、私は、何をしているの?な、なんで......?」
顔を真っ青に染め、握った剣をカタカタと小刻みに震わせる勇者ユイリス。
エルフォレスは鮮血に染まりながらドサッとその場に沈んだ。
レオルドが叫ぶ!
「エルフォレス!!!」
コーロの懐から覗いていたミッチーも叫ぶ!
「エルフォレス様!!」
レオルドは即座にエルフォレスに駆け寄ろうとする!が、エヴァンスが風魔法でそれを阻んだ!
レオルドは動けない!
「チッ!」
「おまえはそこで大人しくしていなよ」
俄かに兵士達が騒ぎ始める。
「一体何が起こっているんだ!?」
「勇者様が妖精主を!?」
「いや、そもそも妖精主は死んでいて、あれは幻術じゃないのか!?」
「じゃあ目の前のあれは一体何なんだ!?」
眼前の状況に兵士達が混乱し騒いでいると、エヴァンスがレオルドを牽制しながら暴露するように示す。
「皆さん!実は、妖精主様は生きていらっしゃったんだ!それには僕も驚いたけどね!
でも良かったよ!生きててくれて!ところが、今目の前でやられてしまった!それもなんと、勇者の手によって!
つまり、これは何を意味するのか!?そう、妖精主殺しの真犯人は、勇者という事だよ!!」
その言葉を聞いて兵士達は驚愕する。
あまりの衝撃の事実に理解が追いつかない。
そこに副騎士長マイルスが畳み掛ける。
「お前達!エヴァンス様の言った事は本当だ!実は、妖精主殺しの真犯人が勇者だという事は密かに探っていた事なんだ!
ただ、事が事だけに、この事はこのマイルスとエヴァンス様だけに留めておいたのだ!そして今、目の前でそれが証明されたのだ!」
兵士達はさらに沸き立つ。
「そ、そんなまさか、勇者様が!」
「でも今、実際に目の前で起こった事だぞ!」
「そうだ!勇者は裏切ったのだ!」
「勇者は裏切り者だ!」
ユイリスは喉を詰まらせながら弁明する。
「ち、違う!これは私では...!体が、勝手に...!」
コーロは、目の前の光景に茫然としながらも何かを感じていた。
そう。彼の闇の魔力は、この場の何処かに潜む圧倒的な悪意を感じ取っていた。
...彼は気づく。
勇者の体から黒く伸びる...悪意の糸に!
ーーーあの黒い糸は...あれは彼女のものではない。どこか別の所から伸びて来ている。どこから?それはーーー
コーロは糸を辿る。
その糸は......賢者エヴァンスから伸びていた!
コーロは理解した。
エヴァンスから伸びるその黒い糸が、ユイリスを操っている事に!
エヴァンスは薄っすらと口元に妖しい笑みを浮かべていた。
そして何かを示唆した。
瞬間、コーロはエヴァンスのさらなる悪意を傍受する!
『ユイ!トドメをさせ!』
瞬時にコーロはユイリスに向かって跳んだ!
ユイリスは震えながら、目前の血だまりに沈む半死半生の妖精主に向かい、今まさにトドメを刺さんと再び剣を振り上げていた!
が、誰よりも早く動き出していたコーロが彼女にガバッと飛びつき抱き込んだままゴロンと倒れ、間一髪押さえ込んだ!
倒れ様、コーロは即座に解除魔法を唱えた!
「うっ!なに!?」
エヴァンスはユイリスにかけた魔法が解除されたのを認識した。
「強制解除だと!?これは...あいつの仕業か!?あいつは一体!?」
(コーロの使う解除魔法は闇の魔力による極めて強力なものだった。だが本人はそれに気づいていない)
ユイリスは倒れ込んだまま、身体の自由を取り戻したことに気づいた。
「体が、戻った...!?あ、貴方がしてくれたの!?」
コーロは冷や汗まじりに微笑した。
「...やっぱりあんたは操られてたみたいだな!」
最中、レオルドの頭の中に瀕死のエルフォレスからの声が届く。
「エルフォレス?」
『レオルド。わたくしも長い間戦いから離れていましたから、油断しておりましたね。
そして、もう当初の目的を達成する事はほぼ不可能でしょう。
おそらく、このままではもはやヘンドリクス王国との全面戦争の道しかないでしょう。
となれば、いずれは必ず魔物の森は滅んでしまいます。それは絶対にあってはなりません。あってはならないのです。
......ですので、最終手段に出ます。
よろしいですね?レオルド。スヤザキ様達のこと、どうかよろしくお願いしますね。それと、勇者様も助けてあげてくださいね』
レオルドは答える。
『...そうか。しょうがねえな。オレも、お前をここで死なせる訳にはいかねえしな。兄ちゃん達も。
じゃあ、あれをやればいいんだな...。やるぜ!エルフォレス!』
直後、彼はけたたましく雄叫びを上げた。
「グルアァァァァァァ!!!」
森が震える!
木々がざわめく!
すると...俄に森中からガサガサという音が鳴り始めた。
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