ep28 勇者の真実
賢者エヴァンス、現る。
生い茂った木々の影から、この湖の前の広場にエヴァンスが姿を現した。
相変わらず、敵前にもかかわらず、妙にリラックスした調子でコーロ達の前に現れる。
「あの男は?あんたの仲間か?」
「彼は私達の仲間、賢者エヴァンスよ」
「賢者!?」
「おやおや?貴方は誰ですか?あの暗黒魔法は貴方ですか?」
「エヴァンス!彼は私達と同じ人間よ!そして、妖精主様は生きていらっしゃる!」
「...どうやらそのようだね」
「エヴァンス?...それに、ねえ、あの不気味なアレは何なの?何者なの?貴方は知ってる?」
「さあ、僕にもわからないな。ところでユイ。討伐軍の兵士のほとんどは眠っちゃったよ。とはいっても文字通り眠っているだけだけどね。いやいやこれはマズイ状況だね。僕らが頑張らないと」
「私達は制圧されてしまったの?」
「いや、まだ僕らがいるからね。うん、えーとそうだな。とりあえずユイ。あの不気味なアレを君に任せていいかい?僕は奴の相手をしなきゃならないからね」
その時、森の影からレオルドがよろよろと現れた。
エルフォレスが叫ぶ。
「レオルド!?貴方やられたの!?」
「エルフォレス!それに兄ちゃん達!無事で何よりだぜ!オレは......ちょっと色々あってな。でももう大丈夫だ!」
「そうですか、あなたがそう言うのなら大丈夫なのでしょう。何せあなたは......」
「なあに、さっきはよくわかんねえ奴に不意打ちをくったが、今度はそうはいかねえ!」
「まだまだ活きがいいようだね」
エヴァンスはレオルドの方に向かい戦闘の構えを見せた。
それを見てユイが問いかける。
「エヴァンス!あの守護獣は本当に敵なの!?」
「何を言っているんだい?そもそもアイツが妖精主殺しの首謀者だっただろ?」
「でも妖精主様は本当の敵は別にいると...」
「本当の敵?それはね、ユイ......」
エヴァンスがそう言うと、突如としてユイリスの思考はそれ以上働かなくなった。
「...え?なに?」
「ユイ。今、君が倒すべき敵はアレだよ」
エヴァンスはユイリスに、人ならざる妖気を醸す騎士の姿をしたアレを指し示した。
「...私はアレと戦えばいいのね?」
「ああ。アイツから妖精主様を守らないとね」
「わかったわ!(...?何か......いえ、ダメよ!今はアレと戦わなければ...!)」
ユイリスはしかと敵を見据える。
剣を構える。
敵は相変わらず不気味にぬらりとしている。
ユイリスは深く呼吸をし、集中力を高め...
双眼をカッと見開く!
いざ、地を蹴り、勇者は眼前の敵に向かい駆け出した!
と思いきや...
「きぁあっ!!」
派手にズベンとすっ転んだ!
「え?」
一同はポカーンとした。
「あいたたた......」
勇者は剣を持った腕を抱えながら起き上がると、何事もなかったように再び剣を構えた。
集中する。
眼を見開く!
地を蹴り、今度こそ敵に向かって駆けた!
が...
「うぎゃっ!!」
またまたズベンと派手にすっ転んだ!
「え?」
一同は唖然とした。
それから勇者は同じ事をズベンゴロンと何度か繰り返した。
そう。実は、ユイリスは一年前の魔王との戦いの代償で、その力の大半を失っていたのだ!
今のユイリスが勇者として全力を出してまともに戦えるのは、せいぜい五分ぐらい。
そのリミットを過ぎると、反動が起こる。
ポンコツになってしまうのである。
そして彼女は、暗黒魔法による漆黒の中、聖なる力をフルに使いここまで駆けてきたので、すでにほとんど電池切れだった。
すなわち、今のユイリスは、ただのポンコツ勇者だった!
思わずコーロが声をかける。
「あ、あんた大丈夫か?」
ユイリスは再び腕を抱えながらむくりと起き上がり、顔から血を流しながら誇り高く言った。
「何も問題ないわ!」
「あるだろ!!!」
反射的にコーロがツッコんでしまったが、まさかの勇者のポンコツぶりには皆、驚愕を禁じ得なかった。
コーロは再度、ユイリスに向かって訊く。
「な、なあ、本当に大丈夫なのか?」
「だ、だから大丈夫って言ったでしょ!?」
「明らかに不自然にすっ転んでたぞ?」
「受け身はとっているわ!」
「そういう問題なのか!?」
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