ep17 もう一人の者
勇者ユイリスのもとに...
彼女を見たことがある者も、ない者も、どよめいた。
久方振りに公に姿を現した英雄に。
その美しい神童の聖騎士の姿に。
騎士長コルトレーンは一同をキッと見渡し、雄々しい声を響かせる。
「お前達!今日は遂に、今回の任務にご同行いただく勇者様がいらっしゃった!!あの魔王を倒した英雄、勇者ユイリス様である!」
騎士長コルトレーンからの紹介を受け、勇者ユイリスは一歩前に出て簡単な挨拶をした。
続けて、コルトレーン同様に勇ましく声を上げる。
「すでに聞き及んでいる通り、現在各地で起きている不審な事件、そして今回の妖精主殺し。これは由々しき事態だ!
先の大戦で魔王を倒し、世界は平和を取り戻した。しかし、この事件は、せっかく取り戻した平和を脅かすものだ!
取り戻したこの平和を、我々はしっかりと守らなければならない!
そのために、勇猛なヘンドリクスの討伐軍と共にこの任務に参加する事を、私は勇者として誇りに思う!そして、勇者として私は全力で協力していく事を約束する!」
勇者の簡潔だが勇壮な演説に、今一つ釈然としていなかった討伐軍の兵士達も一気に「おおお!!!」と沸き立った。
騎士長コルトレーンは感心したように勇者ユイリスを見つめ、軽く微笑みながら言った。
「さすが勇者様だ。騎士長としては情けない話だが、先の大戦以来、すっかり気が抜けてしまっていた我が軍の士気が一気に高まったよ」
「いえ、コルトレーン殿。私は勇者ですから。勇者として、すべき事をするだけです」
ユイリスは誇りに溢れるような微笑を浮かべた。
ここでコルトレーンは、まだユイリスにも伝えていない事を明かす。
「実はユイリス様。今回の任務には貴女以外にももう一名、特別に参加していただく者があります」
「私以外にも?」
コルトレーンは軽く頷くと、再び真っすぐに一同へ向く。
「お前達!今回の任務にはさらに、勇者様以外にも特別に参加していただく人がもう一名いる。
それは、先の大戦で、勇者様と共に魔王と戦った稀代の魔導師、そう、あの賢者と称される、エヴァンス様だ!」
コルトレーンの紹介を受け、兵士達の後ろから、兵士の格好ではない文官あるいは魔法大学の先生といった出で立ちの、一人の男がゆっくりと歩いて来た。
痩せ型の長身で、やや青みがかった長めの髪は首の後ろで軽く束ねられている。
縁のない眼鏡の奥には少しつり上がった細い目が怜悧に光り、その下には不敵な口元が携えられている。
ユイリスは思わず驚きの声を上げた。
「エヴァンス!?貴方なの!?」
「やあ、ユイ。久しぶりだね」
男は妙にリラックスしながら歩いて来て、ユイリスの横に立った。
「エヴァンス!あなた一体あれからどこで何をしていたの!?」
「まあまあ、落ち着いてよ。今はまず討伐軍の皆さんに挨拶をしないといけないだろ?」
「そ、そうね」
「ユイ。また後でゆっくり話そう」
「わかったわ」
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