ep140 ブラックボックス
コーロは、ベッドにそっと横たわったままのミッチーを見ながら口を開いた。
「ミッチーの奴、ずっと寝てるな。一体どうしたんだ?」
「......ひょっとしたら昨日の事が関係あるのかしら......」
「昨日の事って?」
ユイは昨日、ミッチーに傷を治してもらった事、ゲアージとの戦いの際に弾丸を防いでもらった事、キースへの弾丸も防いだ事を説明した。
「そんな事があったのか......」
「それはミッチーの魔法なんか?」
「どうなのコーロ?」
「いや、俺もわからない。というか、ミッチーが魔法を使っているところ自体見たことない」
コーロはミッチーを不思議そうに眺め、一度ふぅっと息を吐いてから、表情を引き締めて話を切り替えた。
「ユイ。アミ」
「なに?」
「なんや?」
「俺......これからタペストリの警備局に行こうと思う」
「!」
「ホンマ!?」
「ああ。キース君は任せてと言ってたみたいだけど......ブラックファイナンスの不正を暴いたのは俺だ。つまり、俺の能力で何か役立てる事があるんじゃないかって」
「コーロ!」
「おにーちゃん!」
「それに、なんかバタバタして忘れちゃってたけど......」
コーロはおもむろにベッドに向かい両手をかざすと、魔法を唱えた。
『ブラックボックス』
ブウゥゥゥン...
黒き闇の光とともに、ベッドの上に黒いアタッシュケースのような箱が出現した。
「なにかしら?」
「なんやそれ?」
コーロはパカッと闇のアタッシュケースを開いた。
「それは...」
「金塊!?」
コーロは金塊を一つ掴むと、アミーナに見せながらニイッとした。
「全部でちょうど、額にして一千金貨分はあると思う。一応フロワースにも確認してもらったからな。アミとキース君が取られた金額分って訳だ」
「...フロワースとは金庫で戦ってたんじゃないの?」
「そのすぐ後、アイツと休戦して金庫から出る時に急いで持って来たんだ」
「......おにーちゃん!!」
コーロはアミーナを見て頼もしく微笑んだ。
「これはアミとキース君、二人の努力を合わせたモノだろ?だからキース君にも渡せないと意味がないからな」
「コーロ...」
ユイはコーロにじいっと視線を注いだ。その眼差しの奥には淡い花の色彩がゆらめいていた。
「おにーちゃん!!」
アミーナはコーロの胸にバッと飛び込んだ。
「コーロおにーちゃん!コーロにぃ!」
コーロはあやすようにアミーナの肩をよしよしと優しく撫でた。
ーーーーーー
支度を整えると、すぐに三人は宿屋を出た。
宿屋沿いの通りを歩きながら、コーロはジャケットの懐にしまった本をチラッと覗く。
「いつになったら起きるんだコイツは……」
そこへ…
「お前らぁ!!」
彼らを呼ぶ怒声が路上に響く。
「あれは...」
「...まさか、ブラックファイナンスの...カイソー!」
「と、警備局の人もおる!」
いつの間にか三人の進路の先には、ブラックファイナンス部長カイソーと警備副長、そして無数の警備隊員が立ち塞がっていた。
連中はダダダッと駆けつけ次第すぐさま三人を包囲する。
「お前ら......ただでは済まさんぞ!!!」
憎悪に目を燃え上がらせて怒鳴るカイソー。
「大人しく連行されてもらおうか、勇者様」
血走ったイヤらしい目をたっぶりとユイに注いで凄む警備副長。
カチャッ
警備隊員達が彼らに魔動銃を向ける。
「どうする?」
「こんな街中で警備隊員相手に戦うのは...」
「逃げるしかないんか...でもキースが...」
当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。
感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。
気に入っていただけましたら、今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。




