ep138 約束
深夜の東の街。
辺りはすっかり寝静まっている。
時刻はとっくに日を跨いでいた。
宿屋前。
三名の者が辿り着く。
「無事戻って...きたんだな」
「そうね」
「なんや、妙に懐かしい気いするわ」
コーロとユイとアミーナは、連れ立ってプテラスに乗り、無事、混乱の公園から離脱を果たしていた。
「...でも、ここへ戻って大丈夫なのか?」
「そうなのよね。なんだか勢いでここまで戻って来てしまったけれど...」
「キース......」
三人は、宿屋の前で沈鬱に足を止めて佇む。
そこへ...
「おいおい待て待て」
通りの先から二人の男が近づいて来た。
「...あんたら!」
「...やっぱり来たわね」
「!」
一歩前に出たスラッシュがユイの正面まで来て、若干困ったような表情を向ける。
「おいおいユイリスちゃん。オレとの約束はどうなった?」
「約束?そういえばさっきも言ってたよな?」
コーロが疑問の声を上げてユイを見る。
「ユイおねーちゃん?」
アミーナは、どうしたの?という表情でユイを見る。
ユイは二人に「アハ...アハハ......!」 と意味不明な笑いを見せる。
「なあどうなのよ?」
スラッシュは迫る。
「あ、あああの、その、約束なんだけど......」
ユイが珍しく冷や汗ダラダラときょどりながら声を震わせる。
「?」
「...わ、わわ私......か、か......」
ユイはモジモジしながらうつむく。その耳は真っ赤である。
「か?」
「......か、か、か......カレシがいるのーー!!!」
声を張り上げて、ユイは横にいるコーロの腕にひしと抱きついた。
「......えっ???」
誰よりも驚いたコーロ。
「だ、だから、その......カレシの許可がないとダメなのぉー!!」
ユイの唐突な発表に、ピタッと空気が止まる。
ユイは顔を茹で蛸のように真っ赤に火照らせて、恥ずかしさのあまりもはや形容し難い表情をしていた。
「......え、ユイリスちゃんって、オトコいたの?」
スラッシュが言葉を吐いた時、コーロの逆サイドで猫娘がワナワナと震えていた。
「おにーちゃん、おねーちゃん...」
下を向いていたアミーナが静かに口を開いたかと思うと、グッと顔を上げた。
「二人は付きおうてたんかーーー!!!」
わんぱく猫のようにギャーギャー騒ぎ出すアミーナ。
ただひたすら顔を真っ赤にしてコーロの腕にしがみつくユイ。
「スラッシュさん......どうせナンパついでに助けたんでしょう?そんなのはいいからもう行きましょう」
フロワースがもう勘弁と言わんばかりにボスをたしなめる。
「いや、だってよ。天下の勇者にカレシだぜ?びっくりすんだろ?」
「まあ確かにそれは驚きますけど。......ん?勇者?ユイリスさんが?」
「ああ?今さら何言ってんだ?勇者ユイリスはお前も知ってんだろ?」
「......」
「おいフロー。お前まさか......気づいてなかったのか?」
「......あ、そ、そうでしたね!もちろん気づいてましたよ?何を言ってるんですか!?」
普段は雪のように白い顔を若干赤らめるフロワース。
「......お前、マジで気づいてなかったな......ブワァッハッハ!!」
大声を上げて笑うスラッシュ。
「なんで言うてくれへんかったんや!?なぁ!?なぁ!?」
「ち、違うの!アミ!これは...」
拗ねているのかなんなのかギャーギャー騒ぐアミーナとひたすらへどもどするユイ。
「お前、意外と抜けてるとこあるよな!ハッハッハ!!」
「だから気づいてたって言ってるじゃないですか!!」
「せってーウソだ!ハッハッハ!」
躍起になって弁解するフロワースと愉快にからかうスラッシュ。
先ほどまでの闘いが嘘のように宿屋の前で賑わう一同。
とその時...
ユイが掴んでいたはずのコーロの腕がズルッと抜け...
「え?」
バタン
突然、地面に吸い込まれるようにコーロがうつ伏せに倒れた。
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