ep120 瀕死のブラックキャット
「コーロおにーちゃん!!」
降下したプテラスからぴょんとアミーナが飛び降りてきて、タタタッとコーロのもとに駆け寄る。
「良かった!!」
「アミ」
コーロが振り向こうとすると、アミーナが彼の背中に飛び込むようにひしと抱きついた。
「...ホンマ...もうダメかと思った......でも良かった...無事で良かった......!」
コーロは抱きつくアミーナの手を優しく解き、振り向いて彼女の肩を撫でて微笑んだ。
「アミ。まだだぞ。アミが奪われた物を、コイツから取り返さないとな」
コーロはくるっとブラックキャットに向き直った。
ブラックキャットはなんとか四つ足で立ち上がっていたが、プルプルと震え、多大な疲労とダメージが明白だった。
三メートルはあった体も二メートルちょっとに縮んでいる。
部分的に狐から人の姿へ戻りかけてもいる。
コーロは威圧するように鋭い声を上げる。
「ブラックキャット!もう手立てはないんだろう?それはお前自身が一番よくわかっているはずだ!さあ、奪った金はどこだ?返してもらうぞ!」
「......くっ、クソが...こんなところで......こんなところで終わってたまるかぁ!!」
ブラックキャットは、残る力のすべてを振り絞るように、勢いよくコーロに向かって飛び出した!
「まだやるのか?」
コーロは再び構える。
が、
「!」
ブラックキャットはコーロに向かうと見せかけてクッと斜めに進路を変え、彼らを通り過ぎるように脱兎の如く逃げ出した!
「バカが!こんなところで終わるオレではない!いつか必ず復讐してやるからな!!」
捨て台詞を吐き一目散に逃げるブラックキャット。
逃走は成功...
ガキーーーーン!!
しない!
「なんだ!?足が凍りついた!?」
地を駆けるブラックキャットの足が突如、地面から発した冷気によって氷漬けになる。
「......くっ!動けん!」
次の瞬間...
グサッ
「ぐぉっ...!!」
地面からギラリと伸びた大きなつららのような氷の尖りが、ブラックキャットの体を貫いた!
コーロ達も思わず目を見開いた。
一同、何が起こったのかわからない。
一瞬、シーンと水を打ったような静寂が訪れた時...
「...決着、つきましたね。皆さんご苦労様です」
草木の影からニッコリ笑ったフロワース警部がゆらりと現れた。
「フロワース警部!」
「これでブラックキャットはもう逃げられません。あ、殺してはいないですよ?氷で止血もしているんで。コイツにはまだ生きててもらわないと困るんでね。まあ、ボクの加減次第ですぐに絶命させられますけど」
フロワースは二人のもとへ寄って来て会釈した。
「スヤザキさん。アミーナさん。これであとはお金を取り返すだけですね。そしてボクは、そのお金の在り処とやらを見つけたので、もうそいつから聞き出す必要もないですよ。今からボクがご案内します」
「本当か!やったぞアミ!」
歓喜するコーロ。
「う、うん...」
なぜか浮かないアミーナ。
「ん?どうしたアミ?」
「...いや、なんでもあらへん。ほな、はよ行こ!」
「ああ!」
「でも、ブラックキャットはこのままにしておいて大丈夫なのか?」
「それは問題ないですよスヤザキさん。ボクが保証します。もし仮に無理矢理逃げ出すことができたとしても、その瞬間に彼は大出血して息絶えることになります」
フロワースは冷然と説明してブラックキャットにキラッと冷酷な視線を投げた。
「ぐぅ......(...こ、この男は......奴の部下...なぜコイツがここに...)」
もはや為す術なく小虫のように呻くブラックキャット。
「じゃあ、ボクに付いてきてください」
フロワースは微笑を浮かべながら、コーロ達を促すように屋敷に向かってゆっくり歩き出した。
「それじゃあプテラスはもう戻すか。フェーズも『グレイ』に戻そう。余計に魔力使っちゃうしな」
「あ、あの...!」
フロワースをチラッと見ながらアニーナがやにわに声を上げる。
「ん?どうした?」
「ええっと...」
「?」
「な、なんでもあらへん!」
「うん?」
コーロはアミーナの様子に疑問を持ちながらもすぐにプテラスを戻し、フェーズチェンジもすると、フロワースの背中を追いかけた。
アミーナはコーロの後についていった。
......




