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私と天使のちょっとしたおはなし  作者: あたまさはら
1/1

私と天使の初対面!

ここに前書きかけるんだ!へぇ~

初投稿です。生暖かい目で読んで上げてくだい





「これで帰りのホームルームを終わります。秋月さんはあとで職員室に来るように。」

今日は9月13日。

夏休みが終わり、日本特有の高湿度で暴力的な猛暑からの逃げ場を失った学生達が、どことなく7月よりも暗い顔をしながら下校している。熱気に揺らぐ空間の中、底辺女子高生秋月優奈(あきづきゆうな)は一際陰鬱な表情を浮かべていた。

「三角関数ってほんとにやる意味あんのかよ。一々πに直さなくてもいいじゃんかよ。てかテストに出すなら分度器に書いとけよ!あと藤原と徳川と足利は謎に増殖するな!」

職員室で先週の中間テストについて延々と小言を言われ続けていたので、今日の優奈はいつもよりも帰りが遅い。空は既に朱色に染まっている。

「次赤点取ったら本当にどうしようも無いわよ。留年よ」

という担任教師からの有り難い御言葉を思い出しながら、留年なんて都市伝説だと思っていた井の中の蛙秋月優奈は深い溜息をこぼす。

「留年したらどうなるんだろ。後輩なんて私1人も知らないんだけど。てかそうなると宿題とか写せないじゃん。いや普通に頼めば写させてくれるだろうけどもそれはもう元上級生として完全に終わってるよな。だったら去年より成績下がるじゃん。あれ?これはもしや無限ループなのでは?いやループどころか負のスパイラルだよ!?あ!デフレスパイラルってそーゆーことか!」

謎の納得感を得た優奈はいつもの顔に戻り、軽やかな足取りで

肩に掛かる程度の金髪をはためかせながら帰路に着く。

家の近くまで歩いた優奈は無性に喉の乾きに襲われた。

「そういや4限目からなにも飲んでなかったな。スポドリでも買ってかーえろ。」

そう言いつつ自販機に駆け寄った時、ドン!と何かにぶつかった。

「おっと、あ、すみませ…ん…?」

優奈が振り返ると、そこには季節外れの冬用学生服を着て、どうやったらそんな色に染まるんだという程のショッキングピンクの髪を腰あたりまで伸ばした女の子が、虚ろな目でこちらを見て、おぼつかない足で立っていた。優奈と身長はさほど変わらない。恐らく高校生だろうと優奈は直感した。

「あ、あのー…大丈夫…ですか?」

優奈が恐る恐る言葉をかけると、ピンク髪の女の子は、声か息かも分からないような声で、

「み…ず……水……を…………………」

と発して倒れ込んでしまった。

「おおう!?ほんとにどうした!?熱中症か?え?水?水でいいの?」

優奈はテンパりながら自販機でミネラルウォーターを買おうとしたが、中々硬貨が入らない。

「ああ!もう!」

やっと入った。

熱中症と思われるピンク髪の女の子は完全に脱力している。どうやら早めに何とかしないとまずそうだ。

「ほれ!水!」

優奈は女の子の頭を少し上げて水を口の中に流し込んだ。幸いまだ意識は一応あるようで、何とか飲み込んでくれた。しかしまだ話せる状態ではないようだ。

「ここなら救急車呼ぶより家で何とかした方が早い…か。」

というわけで帰宅。

と言っても、放課後に呼び出されたり謎の少女を担いで帰ったせいでいつもより1時間以上遅い。

しかしこれほど優奈にとって中学の時に運動部に入っていて良かったと思ったことは無かった。

久しぶりに思いっきり筋肉を使ったので後々節々が痛くなりそうだ。

「クーラーにタイマーを設定しておいて助かったな」

と言いつつ、優奈はベッドにピンク髪の女の子をゆっくりと下ろし、冷蔵庫にたまたまあった冷えピタを女の子の額に貼り、自分もベッドの横にもたれかかった。

「はぁ~疲れた……どうしようこの子。やっぱり病院に連れていった方がいいのか……な…………あれ?……な…………に……」

突如、優奈は異常な眠気に襲われた。どうにか抗おうにも思考が回らない。

「…………あ…………………う………………………」

視界が暗転した。


優奈が目覚めた時、外は完全に日が沈んでいた。まだはっきりしない視界でベッドの上に置いてある時計を見て時刻を確認した。

「7時半…結構寝ちゃったな…。あれ!?あの子は!?」

ベッドの上に寝かせておいた女の子がいない。しかしどうやら夢とか幻覚とかの類では無いらしい。抜け落ちた長いピンク色の髪の毛が数本落ちている。

「どこ行っちゃんたんだろ?」

と優奈が部屋を見渡していると、浴室の方からシャワーの音が聞こえてきた。

まさかとは思いつつ、優奈は忍び足で浴室まで向かい、引き戸を思い切り開けた。

優奈の目には、色白で、まるで鎖骨から水を垂らしたらそのままつま先まで一直線に滴り落ちていきそうな程に可憐で流れるような体つきをした、ショッキングピンクの髪の女の子がシャワーの温水を頭からあびている光景が映った。

「うわ!、エロい体してんなー」

「死ね!」

優奈の腹にドロップキックが炸裂した。


「いきなり蹴るのはどうかと思うんですけどー!」

「貴方が変なこと言うからでしょ!」

「いや女同士だしいいじゃん」

「発言がエロオヤジなのよ!」

「えぇー…」

浴室のドア越しに甲高い声がドッヂボールの玉のように飛び交う。

「てゆーかさ、なんでお風呂入ってんの?」

「汗でべとべとで気持ち悪かったからよ。あ、貴方のシャンプー使ってもいいわよね?」

「あ、はい。どうぞ」

「……………………………………………」

「あのさ」

「まだ何か?」

「何で勝手にお風呂入ってんの?」

優奈は少し『勝手に』の部分を強調して言った

「ダメなの?」

「いや別に駄目というわけじゃないけどさ」

「ならいいじゃない。何か変なものでも隠してあるわけ?」

「いやそうじゃなくてさ!、これがもし男の人の家だったらどうするんよ。もしかしたら一方的に愛を育まれるかもしれないんだよ!?」

「オブラートに包もうとする努力は認めるけどもう1回蹴り飛ばしてあげましょうか?」

「何たる理不尽」

優奈は溜息をつき、まだ微かに痛む腹を擦りながらもこれ以上の争いは自分の身がどうなるか分からないことを悟り話題を変える。

「んで、具合はどうなの?」

「ああ、その節については本当に助かったわ。ありがとう。危うく死ぬところだったもの」

「そっか。良かった。」

「でもお風呂が少し汚いわ。貴方ちゃんと掃除してる?」

「うっさいわ!」

優奈はとっても傷ついた

「まあ…こんな感じで話すのもアレだし、お風呂から上がったらまた色々聞くよ。ではごゆっくり。」

「ええ、そうさせてもらうわ。あ、あと服も貸してもらえるかしら」

「へいへい」

(なんか凄い子を拾っちゃったな)

と心の中で思いつつ、優奈は再び溜息をつき、浴室のドアを後にした。


「お、似合ってんじゃん」

と、優奈は、風呂から上がって優奈の替えパジャマを着たピンク髪の女の子に言った。

「袖とか裾の長さまでピッタリだわ、貴方意外と身長高いのね」

「まぁね!」

「そのドヤ顔やめてくれるかしら。私とあまり身長変わらないのだからドヤる相手を間違えてるわよ。」

「あの冷静に返すのやめて貰えます?」

優奈は唯一の長所を潰されたような気がした。

一拍置いて、ピンク髪の女の子は改まった表情で話す

「改めて、私を介抱してくれてありがとう。えっと…」

「秋月優奈!17さいです!」

「なにその幼稚園児みたいな自己紹介。流行ってるの?」

「精神年齢はいつまでも子どもでありたいと思ってる。」

「はあ…」

「あんたは?」

「…私は年相応でいたいわ」

「いや名前聞いてんだけど」

「…………如月夏弥(きさらぎなつみ)よ。」

夏弥の頬が少し赤くなった。やっぱり可愛い。優奈は自然と口角が上がる。

「…でも病院に連れていこうとした時はヒヤヒヤしたわね。あんなところ何されるか分かったもんじゃないわ。」

「え?なに?病院怖いの?」

「いやそういう訳ではないけど…とにかく今病院はダメ」

「え~でも一応行った方がいいんじゃない?」

「ダメ!」

「おおぅ…ごめん」

「あ…ごめんない大声だして」

「いえいえ」

(なにかトラウマでもあるのかな…まあ人それぞれだし…これ以上詮索しない方がいいかな…)

などと思いつつ優奈は話題を変える。

「ところで夏弥さんさ、なんで冬服なんて着てたの?」

「う………」

夏弥が口ごもる。

「もしかして北の方から家出してきたとか?」

「え……ええ!そうよ!北海道から家出してきたのよ!北海道寒いの!」

稀代の鈍感女子高生秋月優奈でも流石に嘘であると分かるくらいにはあからさまであった

「ふ~ん。んで?本当のところはどうなのかなー夏弥さん?」

「ふぇ!?」

夏弥がオロオロしている。とっても可愛い。優奈はついつい口角が上がる。正直なところ結構満足してしまった優奈はあまり突き詰めないようにした。

「まあ色々事情があるんだろうし本当のことは言いたくなったらでいいよ。その調子だと多分警察にも行きたくないんでしょ?」

「…ええ」

夏弥は俯いたまま答える。

(ほほー訳ありかー。……殺っちゃってたりしてないよね…)

時刻は既に8時を過ぎており、外はすっかり夜になってしまった。

「んじゃどうする?家泊まってく?どうせ行くあてもないんでしょ?」

「そんなの貴方の両親にどう説明するのよ。」

「私一人暮らしだけど」

「…貴方高校生でしょ…?珍しいわね。」

「私も親が嫌いでさー、さっさと家から出ていきたかったから。これぞ合法家出ってやつよ。」

「なに?私が違法って言いたいわけ?」

「さあ?法律なんてサッパリだから」

「そう…」

「んで、泊まってく?」

「………いいの?…」

「むしろウェルカム。可愛いし」

「…あなた本っ当に中身オジサンみたいね。なにか変なことされないか不安だわ…でも…本当に大丈夫?」

「私も家出したいなーってずっと思ってたから。なんか親近感?みたいなのでほっとけなくてさ。」

「………」

夏弥はまだ踏ん切りがつかないようだ。

「ほら!私も女だし、そんないやらしい展開にはならないと思うよ!私そっちの気は無いから安心して!強引に押し倒したりとかしないからさ!」

「信用する気が1ミリも湧かないわ。」

「ええ~」

「…でも確かに行くあてがないのは事実ね。あなたがいいのならお邪魔させてもらうわ」

優奈は下校時とは真逆のひまわりのような笑顔を浮かべる

「もちろん!これからよろしくね!なつみん!」

「なつみん!?」

「ニックネームだけど、可愛いでしょ?」

「え、ええ、そうね。」

(実質会って数十分の人にこんなに馴れ馴れしくできるものなのかしら。しかも何故か居候させてもらう私よりも喜んでるし…凄い子に拾われたわね。私。)


「いやーお腹空いたねー。なつみんなにか食べたいものあるー?」

「なんでもいいわよ」

「遠慮しなくてもいいんだよー?」

「逆にこの状況で遠慮しなかったらその人かなり厚かましいわよ」

「………………それなつみんが言う?」

「どういうことか説明してもらえるかしら?」

「いやなんでもないです。」

「そう」

「なら適当に冷蔵庫にあるやつでいい?」

「ええ」

優奈は冷蔵庫を開ける。

「さーてなににしようかヴォェァァ!」

「ええ!?どうしたのそんな凄い声だしt…うぉぐ……なによこれぇ!」

冷蔵庫を開けた途端に冷気ではなくこの世のものとは思えない異臭が炸裂する。

「なつみん閉めてぇ!」

優奈が鼻をつまみながら叫ぶ

夏弥はすぐに冷蔵庫を閉め、優奈の方に向き直る

「貴方なんでこんなの放置してるのよ!て言うかなんで冷蔵庫に入れてるのにこんなになるまで腐るのよ!」

「そういやここ1週間冷蔵庫あけてなかったなぁ」

「貴方どうやって生活してるのよ!」

「いや、帰りにコンビニでいろいろ買って帰るから」

「どおりでプラスチックのゴミが多いわけね!貴方少しは自炊しなさいよ!」

「今しようとしたじゃん」

「2人ともお腹壊して悲惨なことになるわよ!」

「………………」

「なによ」

「いや、冷蔵庫のコンセントって基本天井辺りの壁にあるよね?」

「ええ、そうね」

優奈は恐る恐る天井付近を指さす

「あれ…………刺さってなくね?」

夏弥も指さす方向を見る。そこにはスロットが2発空いたコンセントの差し込み口と、冷蔵庫の天板にだらんと横たわる差し込みプラグがあった。

たとえ断熱性の強い冷蔵庫であっても、冷却機能を失い、加えて1週間も東京の9月の猛暑に晒されれば中の物体が如何様になるかは言うまでもないだろう。それらの水分も相まって、優奈の冷蔵庫の中は高温多湿、それすなわち微生物の大量繁殖プラントと化していた。

「あそこのコンセントが抜けるってどうなってるのよ」

「いやー私に聞かれても思い当たる節が全くございませ……」

優奈は先週に勃発したゴキブリとの格闘を思い出す。

(そういや冷蔵庫辺りに湧きやがったなあのゴキブリ…まさかあの時武器のローファーで……………まさかあの時抜けたのか!)

「………」

「思い当たる節、あったみたいね。」

「よし冷蔵庫は見なかったことにしよう」

「はあ…この惨状を見なかったことにできるのは逆に尊敬するわ。」

「お、私褒められた?」

「蔑んでるのよ」

「さいですか……とかいいつつ心のなかで褒めてたりしない?」

「褒める要素が無いのにどうやって褒めろと言うのよ」

「ほら、顔が可愛いとか」

「それで、冷蔵庫全滅してるけどどうするのよ」

「あのスルーするのやめてくれませんか?……まあ外に食べに行こうよ。」

「まあそうするしかないわね」

「でも、2人分払うとなると………サイゼならなんとか」

「私が奢るわよ」

「え、まじ!?」

「今日のお礼よ」

「わーい!なつみん大好きー!」

「ほんと都合のいい性格してるわね…」

優奈は制服のまま、夏弥は優奈のジャージを来てサイゼに直行。

優奈はドリアを、夏弥はイカスミパスタを注文した。

優奈はテーブルに運ばれてきた黒いパスタを見て怪訝そうな表情を浮かべる

「それ美味いの?」

「私は好きよ。」

「食欲湧かなくない?こんな黒いの。ゲテモノじゃん」

「ならタコとか蟹とかその辺もゲテモノじゃないかしら。単なる偏見よ。」

「でも墨だよ」

「墨汁って飲めるのよ。」

「まじで!?」

などと他愛も無い会話をしながら2人は料理を口に入れる。

「なつみんもしかしてめっちゃお腹空いてた?」

「なぜそう思ったのかしら?」

「いや食べるの早いなーと思って。」

「そうかしら?あまり自覚は無いのだけれど」

「んじゃいつもそんな感じなの?」

「……………………」

夏弥は凄く考えこんだ様な顔をしている。

「ん?どしたのなつみん?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないわ。いつもこんな感じよ」

「大丈夫?まだ調子悪かったりしない?」

「ええ、大丈夫」

「ふーん。ならいいんだけど」


「いやー奢ってもらって悪いね」

「このくらいなんてことないわよ。結局2人で1000円超えなかったじゃない。」

「またなんかお返しするよ。」

「そうなるとまた私が返さないといけないわね。」

2人はサイゼを後にし、帰路につく。

「東京って夜でもこんなに明るいのね。」

「あーそれわかるわ。私も初めて東京に来た時はビビったよ。私結構な田舎出身だからさ。あとその反応を見るになつみんもド田舎出身と見たね。」

「…さあ…どうかしらね」

夏弥の声のトーンが目に見えて下がった。

(おっと。地雷踏んじゃったかな…)

優奈はこれ以上詮索するのをやめた。


無言で2人は夜道を歩く。自称スーパーコミュ強女子高生秋月優奈はなかなか話を切り出せずにいた。

(また地雷踏んだらどうしよう!?あれ?てか今日もう既に3回くらい地雷ふんでない!?もしかして私空気読むの下手なの?KYなの!?てかKYとか懐かしいな!)

優奈が葛藤している内に夏弥が先に口を開いた。

「そういえば、あの冷蔵庫どうするのよ。」

「え?あぁ…どうしよっか。あれ。まあ…いつか掃除しないとね。」

「あなた掃除する気ないでしょ」

「いや掃除しなきゃいけないことは分かってるよ。でもあれはやばい。私の手に負える代物じゃない気がする。もはやあれモンスターだよ。なんか毒属性の攻撃使ってきそう。」

「そのモンスターを1週間育てたのはあなたじゃない。私はモンスターをペットにする趣味はないのだけれど」

「なんすか皮肉ですか」

「ええ皮肉よ。私も手伝って()()()からとにかくなんとかしないさいよ」

「分かってるよー」

そうこうしている内に優奈の住んでいるアパートが見えてきた。優奈と夏弥はこの中に鎮座するモンスターに備え気を張っていた。

「…掃除するってことは、あれをまた開けるってことだよね…」

「………ええ…そうね……」

「「…………………」」

「やっぱ今度にしない?別に今日無くても困らな…どしたのなつみん?」

夏弥は優奈のアパートではなく夜空を見上げていた。何かが光っている。

「ん?なにあれ?」

光が戦闘機が発生させるソニックブームのような轟音と共にこちらに近づいてくる

「…冷蔵庫は今度にしましょう。今はそれどころではないわね……優奈!伏せて!」

直後、竜巻のような光線が2人に向かって直撃した。周囲にあった自販機や街灯はたちまち吹き飛ばされ、窓ガラスの破片が道路一面に散らばった。クレーターが出来そうな程の威力の光線。そんなものを生身の人間が食らったらもはや原型を留めていないだろう。


土煙から2人の影が顔を出す。

「ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...いっっっったぁ………私…生きてる…?」

「ええ、生きてるわよ。ごめんない、少し反応が遅れたわ。」

優奈はガラス片が数箇所刺さっただけの軽傷で済み、夏弥に関しては全くの無傷だった。

優奈は辺りを見回す。が、灯りが街灯ごと吹き飛ばされ、暗くてよく見えない。ただし、周りの地面が軽く抉れていることだけは分かった。

「……なん…で…私達……生きてるの…?」

「話は後。今はアレをどうにかするのが先よ」

夏弥が夜空へ指を指す。

優奈は、妙に冷静な夏弥を尻目に夜空見上げる。


そこには()()()()()()()()を携えた人間のようなものが宙に浮いていた。


優奈は突然飛び込んできた圧倒的なまでの情報量に気圧され声が出ない。

そんな中でも夏弥は冷静だった。

「まったく…ほんっっっとにしつこいわね。この前半殺しにしたばっかりだって言うのに。……何人いるのよアレ」

優奈はやっとの思いで自分の感情を声に出す。

「なに…アレ…」

「知らないわよ。私はそれっぽいから『天使』って呼んでるけど」

「天……使……?」

「今はとりあえず逃げましょう。ほら、あなたその足じゃまともに歩けないでしょ」

夏弥は足にガラス片の刺さった優奈をいとも簡単に抱き抱える。

「貴方、スカイダイビングは得意?」

「いややったことないっす」

「ならジェットコースターは?」

「普通に好きだよ」

「そう、ならいいわ。少しフワッとするかもしれないけど我慢して。」

そう言うと、夏弥は目を閉じる。


直後夏弥の背中から光の渦が溢れ出た。衝撃波が辺り一面に広がり、抉れたアスファルトや、建物の外壁にヒビが入る。

光の渦はやがで夏弥の背中へと収束し、6柱の大きな光の束となり、それを形作った。



夏弥の背中に6枚の翼が生成された。夜空に佇むあの『天使』と同じような。

「なつみん……それ……」

「…これは後で話すわ。今は歯を食いしばってて。舌噛むわよ」

直後、優奈の視界が一瞬にして飛んだかと思うと、ビル群の夜景を見下ろしていた。

「おおーすげぇー」

優奈は思わず声を漏らす。

「だから舌噛むわよ。……来る!」

『天使』から先程の光線が再び2人にめがけて放たれる

夏弥が寸前で避けると、轟!という爆音と共に『天使』が猛スピードでこちらに向かってくる。

『天使』の翼が夏弥に振り下ろされる。

すかさず夏弥も自身の翼で振り下ろされた翼を殴打する。

両者の翼は光の渦となって霧散、辺りに衝撃波を撒き散らし、信号や歩道橋を容赦なく引き裂く。

今度は夏弥が『天使』に向かって、まるで槍のような翼を彼女の腹をめがけて穿つ。

『天使』は直ぐに片翼を再生させ、夏弥の翼を、拳と拳が真正面でぶつかる様に真正面から叩き潰す。

人間の目では捉えきれない程のスピードでの翼と翼との殴り合い。

両者は恐ろしい速度で東京のビル群を駆けてゆく。

『天使』が着地した地面は一瞬にしてクレーターと化し、夏弥が避けた翼は幹線道路を寸断した。霧散した翼の残骸はビルを爪で切り裂いたような跡を残す。

それを間近で見ていた優奈は唖然としていた。目まぐるしく変わる光景に思考が追いつかない。ただ死という漠然としたものを生まれて来て1番近くに感じた。

直後、『天使』は自分の2枚の翼を背中で爆発させ、その衝撃で先程とは比べ物にならない速さで移動し、一瞬で夏弥をその拳の射程圏内に捉えた。

夏弥もすかさず防御の姿勢を取ろうとするが、優奈を抱きかかえているせいでどうすることも出来ない。

夏弥は『天使』の渾身のストレートをそのまま顔面に受けた。

ゴシャア!!という凄まじい音と共に、優奈と、優奈を抱きかかえていた夏弥は1km程吹っ飛び、一直線に廃ビルに突っ込んだ。


優奈は意識を取り戻した。

恐らくほぼ時間は経っていないだろう。まだ砂塵が舞っている。

かなり上層階にいるようで、強風が優奈の肩にかかる程度の金髪をなびかせている。

優奈がこれだけ吹っ飛ばされても、多少の打撲程度で五体満足で居られているのは間違いなく夏弥が最大限攻撃が優奈の方に届かないように戦っていたからだろう。

「なつみん…大丈夫?……!!」

優奈は絶句した。

夏弥の顔から大量の血が吹き出している。顎から鼻の辺りをやられたのだろう。下顎が砕け、ありえない方向にずれている。前歯も粉々に砕け、大量の鼻血が口の中へと流れ込んでいた。虚ろな目で焦点もハッキリしていない

顔以外にも、至る所にガラス片が突き刺さっている。

「夏弥!」

優奈はようやく事の重大さを理解した。

直ぐに夏弥駆け寄るが、このレベルの傷となるとどうやって対処すればいいか分からない。

どうしようもない。

あまりの惨たらしさと無力感が重なり、優奈は胃の中のものを全て出しそうになる。

直後、聞き覚えのある戦闘機のような爆音が響いてきた。

「まずい!アレが来る!」

優奈は強烈な吐き気とどうしようもない怒りを必死に抑え、意識の無い夏弥を物陰に隠す。

(クソ!どうしたらいいんだよ!私じゃなんにもできないよ!)

優奈は近くにあった鉄パイプを手に取り、息を潜める。ガラス片が突き刺さっていた足が痛むが、そんなことで弱音を吐いていられるほど優奈も状況判断力が乏しいわけではない。

爆音が近づいてくる。

(……アレが来たらこれで…いや、無理でしょ!こんなんでどうしろってんだよ!畜生!)

しかしその時は刻刻と迫ってくる。何が目的かも分からない謎の天使に殺される、その時が。

ゴブァ!という音と強い風圧と共に『天使』は舞い降りた。

それは、色白な肌と端麗な白髪のショートボブを携え、冬用の学生服を来た少女。まるで本当の天使のような風貌だった。

(女の子!?翼の後光でよく見えなかったからもっと怪物じみた感じだと思ってたけど…)

『天使』が声を発する

「…少々やりすぎました。生きたまま保護しろと言われてるのですが…まあ…能力の情報が真実であれば問題ないと思いますが…やはり6枚刃は曲者ですね。危うくこちらが死ぬところでした。やっぱりこの案件は最後に回すべきだったと思います。」

『天使』は翼を消滅させ、辺りを見回している。どうやらまだ見つけられていないようだ。

優奈は夏弥を担いで逃げようとも考えたが、この至近距離。音を出せばすぐ見つかるだろう。逃げるためにはあの『天使』を無力化するしか方法はない。

優奈は絶好のチャンスを逃さないために1歩を踏み出そうとするが足が氷のように固まって動けない。

(クソ!足!動け!私なら出来る!)

必死に自分を鼓舞するが、先程の戦闘で潜在意識に刻まれた恐怖心に抗えない。

夏弥の無惨な姿が脳裏に浮かぶ。

正直このまま逃げてしまいたい。全て忘れてしまいたい。自分もああなりたくない。

負の感情が優奈の心臓に突き刺さる。

でも

(逃げちゃダメだ)

片足が前へと浮く

(アイツをぶっ潰す!)

前へ出た足が地に着く。

優奈はそのまま全速力で走った。

「うおあああああああああああああああああああああああああ」

優奈の持った鉄パイプが『天使』の後頭部へ容赦なく振り下ろされる。

ガギィィィィィィン

強烈な音が炸裂する。

間違いなく芯に入った音だった。

優奈も渾身の力を込めて振り下ろした。

はずだった。

『天使』の白髪からは一滴の血も見えない。それどころか、優奈の振り下ろした鉄パイプがひしゃげている。

数秒間の沈黙が流れる。

『天使』が首をゆっくりとこちらに向けた。優奈の呆然とした目と、『天使』の絶対零度のように冷たい瞳が対峙する。

「その程度で殺せるとでも思ったのですか?」

優奈は全身が凍りつく

「あなたに用はありません。が、あれを見られてはみすみす逃がす訳にもいきませんね。残念ですが。」

『天使』は何処かに電話をかける

「6枚刃を無力化しました。あと一般人が1人……はい……はい…了解しました。では後ほど」

(まずい…………)

「あなたへの殺害許可が降りました。外傷はできる限り付けないように善処しますのでご安心を。」

(殺られる!………)

『天使』は優奈の首をつかみ、喉元を圧迫し始めた。

「あ……がはぁ……は………あ………」

まるで絞首刑の様に優奈の足が宙に浮く。

優奈は必死に『天使』の白い腕を振りほどこうとするが、冷酷な白い腕はそれを許さない。

「本当に残念です。同情しますよ」

その声はもはや優奈には届いていない。

視界が徐々に狭まっていく

「ごめんなさい」

『天使』がとどめを刺しにいく

直後

「…!」

『天使』にとてつもない悪寒がはしる。

彼女は慌てて優奈を投げ飛ばす。

工具や建材に巻き込まれ、ズガッシャァァァンという音ともに優奈は廃ビルのフロアを転がる。

「これは……!」

天使が初めて表情を変えた

優奈から黒い靄のような、塵のような、形容し難い何かが溢れ出ている。

「…………………………………」

優奈が立ち上がる様子はない。既に瀕死状態だ。しかし『天使』はとどめを刺すための1歩を踏み出すことが出来ない。あと数秒間締め上げたら完全に息の根は止まるのに、それが出来ない

「まさか、私達の他に…別の…」

直後

「スドガギィィィィィィィン」

『天使』のみぞおちに強烈な蹴りが入る。

「がはぁ!」

『天使』は声にならない断末魔と共に勢いよく吹っ飛ばされ、廃ビルの壁を突き抜けて宙に放り出される。

「一体…何が…」

『天使』は急いで翼を展開し、突き破った壁方を確認する。


そこには禍々しく光る6枚の翼


「さっきはよくもやってくれたね。クソッタレが」

6枚のの翼が一斉に振り下ろされる。

『天使』もすぐさま翼を使って防御する

ギャィィィィィィン

恐ろしい程の衝撃波が撒き散らされ、周囲一帯の建物に大きな亀裂が入る

その直後に無数の光が弾け飛ぶ。翼を破壊された時の光だ。これもまるでレーザービームのように建物を焼き切ってゆく

『天使』を守っていたの翼が2枚とも破壊される。

「2枚ごときでこの私に勝てると思わないこよ。さっさと堕ちろやクソが!!!」

6枚の翼が容赦なく『天使』を叩き落とす。

白髪の少女はオフィスビルの屋上から1階のロビーまで天井を突き破って一直線に落ちていった。


「うぐ……げぼぁ…!」

白髪の少女はオフィスビルのロビーに仰向けに倒れていた。ビルの警報がけたたましく鳴り響く。

口から血が止まらない。幸い肺は生きているようで、呼吸することは出来たが、さっきの衝撃と口に溜まる血で上手く息が吸えない。

(ん……!身体中が……痛い……!)

全身を強打した少女の身体はまともに動かず、体制を立て直すことが出来ない。翼を再び展開する体力ももうない

(顔面の回復が早すぎる…やはり……あの6枚刃の能力は……)

そこに迫るは6枚の翼を携えたピンク髪の女の子

「集中…………私は絶対に……負けない!!」

白髪の少女が掌を掲げると、そこに何かが引き寄せられていく

掌が熱を帯びる。

「…………………………………………………解放!!」

白髪の少女がそう叫ぶと、掌に引き寄せらていた何かが一気に夏弥めがけて放出された。

「!!、クソ!」

夏弥はそれを翼で防御する

「はあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

翼が1枚、また1枚と霧散してゆく。その度に光の剣が無差別にビルの内壁やデスクを破壊する

(後1枚しかない!…でも…私だって負けらんないのよ!)

夏弥は最後の翼を思い切り振りかぶり、放出された何かの方向を僅かにずらし回避する。同時に最後の1枚も消滅してしまった。

そのあとは自由落下。

2人の少女が再び対峙する

白髪の少女は素手で対抗しようとするが、

「遅い!」

夏弥の拳が少女の顔面に直撃した。

「あ……………あう……………」

白髪の少女は完全に気絶した。


「はああああああぁぁぁぁぁ疲れた。」

夏弥も気絶した少女の横に座り込む。

「本当になんなのよこの子、速いし力強いし。あー喉乾いた。近くに自販機とかないかし…ら」

切り刻まれている自販機を見て夏弥はちょっと絶望した

強引にてを入れれば中の飲み物を取れそうな気はするが、今の夏弥そんなやる気も体力もない。

仕方なく仰向けに寝転んで、夏弥は綺麗に再生した自分の顎をさわる

「天使ってみんなこんなに早く治るのかしら。それも含めて色々この子に聞かないといけないわね。」

(それじゃあ一旦この子を優奈の家に…)

…………………………………………………

「あ!優奈!忘れてた!」







あとがき

初めまして。ここまで読んでくれた貴方は勇者か聖人です。なにせ絶望的に読みにくいですから。でも本当にありがとうございます。

今まで小説なんて書いた経験もなかったので勝手が全く分かりませんでした。次からはちょっと勉強しときます。

基本のノリと勢いで書いてるので設定とかも右往左往したり、他作品でこれ面白いな、ていう要素を取り入れまくった結果、前半と後半の雰囲気が180°違うとかいう意味のわからんことになってますが生暖かい目でみてください。

次回は元気があれば早めに投稿できるかなと思います。まあ次回を期待する人がどれだけいるかは謎ですがね。

最後に再びお礼を、こんな拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございます。

では。



































































































ここにあとがき書けるんだ、へぇ~

そのデジャヴ感は最後まで読んでくださったあなたの特権ですよ。えへへ

本文に書いちゃったから特に書くことないけども。気に入って頂けましたら今後ともよろしくお願いします。

ではでは~

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