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殺し屋とわたし  作者: gottsu
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第一章 ①: 若い男

世界的な犯罪都市となった世界都市東京。

殺しや事件は日常茶飯事で、銃声が鳴り止む事の無い巨大都市。

中でもその諸悪の根源となっているのが、巨大マフィア組織竜神会である。

以前は、警察さえもカリスマと呼んだ会長カンザキの威光によって、堅気からも一目置かれるヤクザ組織であった。

しかし、そんな竜神会は10年ほど前から状況が一変した。

当局からの取り締まりが厳しくなった事に対してマフィア化を果たしたとされ、目的の為なら堅気であろうと警察、司法関係者、政治家をも平然と標的にするようになったのだ。

人々はこの巨大組織の恐怖に長年支配されていた。

 

だがその状況は1年前から変わりつつあった。

マフィア組織に対し、捜査の為なら殺害や全財産の没収も可能となる法律、通称「反マフィア法」が制定され、強い正義感を持った警察等の国家機関、そして人々が全力を上げて大元竜神会の壊滅に躍起になっていた。


そして今日、歴史的な日を迎えようとしていた。

東京中心部、かつては"歌舞伎町"と呼ばれた歓楽街のほど近く、遠くからでも立派な20階建てのビルがある。

その回りを無数のパトカーと警官、特殊部隊員が取り囲んでいた。


そう、この建物こそ竜神会の本部ビルだ。

警察のこの1年の集大成、敵の本丸へと乗り込む時がついにやって来たのだ。


そしてパトランプの海から少し離れた路地裏近く。

2人の男が立っている。

薄い頭髪の初老の男、ベテラン刑事のオオガミだ。

タバコに火をつけるトレンチコート姿の出で立ちは、いかにも刑事という感じだ。

そのすぐ隣に立つ男。

オオガミの部下マツサカだ。

キチっとスーツを着こなした長身でガタイの良い姿は、こちらも刑事ドラマからそのまま飛び出して来た様だ。


「警部!いよいよですね!」

「ん?あぁ、そうだな。」

敵の本陣を前にして、2人には少し温度差が見られる。

「でも警部、我々はどうしてこんな所に?

もうじき突入の時間では?」

「あぁ、だからここで人を待ってんだよ。」

「待ってる?誰をですか?」

「今からの作戦に必要不可欠なヤツだよ。秘密兵器ってヤツだな。」

その言葉に、マツサカは目を見開いた。

「まさか!こういった現場に特化した部隊ですか!?」

「ん~まあそんな所だな。」

そう言ってオオガミはタバコを足で踏み消した。


「さてと・・・・おっ!やっと来たか。遅いぞ。」

路地の奥の気配に気付き、オオガミは吸おうとしていた2本目のタバコを引っ込めた。

「別に時間通りだろ?」

そう言いながら、影になっていた男はこちらに歩み寄る。

「えっ?なっ!?」

それを見てマツサカは驚愕した。

部隊だと勝手に想像こそしていたが、まさか1人で、しかもパーカーにジーンズ、スニーカーというどこにでもいそうな出で立ちの若い男が現れれば尚更だ。


「け・・・・警部!彼は・・・・?」

「これが俺の言った秘密兵器だ。」

「まさか・・・・こんな若者が・・・・」

未だに信じられない感じで、マツサカはその若い男の頭から爪先まで何度も視線を巡らす。

「オッサン、こいつ誰よ?」

「な!・・・・何ぃ!?」

上司であるオオガミをオッサン呼ばわりし、挙げ句自らもこいつ呼ばわりされてマツサカは瞬時に血が昇る。

「貴様こそ何者だ!?」

詰め寄るマツサカと、微動だにしない男。

「おいおい止めろ!落ち着け落ち着け。」

すぐさまオオガミが割って入った。

「こいつはマツサカ、俺の部下だ。でもってこいつはジン。ハッキリ言っちゃあ殺し屋だ。」

「こ・・・・殺し屋!?」

その言葉に、マツサカは怪訝な顔をオオガミに向けた。


「警部!我々警察は、こんな殺し屋などと手を組んでるんですか!?」

「あぁそうだ。お前は納得出来んかもしれんがな。」

「そんな・・・・警部・・・・どうしてですか?」

マツサカはあまりのショックに顔を歪ませる。

そんなマツサカに対し、普段はのらりくらりしているオオガミも少しシリアスに話を続ける。

「良いかマツサカ、正義ってのはお前の考えてる様な甘いもんじゃない。やる時にはどんな手でも使わないといけない時があるんだ。」

「しかし・・・・」

「ましてや相手があんなヤツらだ、正攻法もクソもない連中相手に、俺達だけが正攻法使ったって勝てやしねえんだ。」

「・・・・」

マツサカは言葉が出なかった。


「お前、1年前の"赤坂事件"って知ってるか?」

「・・・・えぇ、赤坂の竜神会傘下組織の事務所が何者かに襲撃され、中にいた組員全員が殺害された事件です・・・・

それが一体・・・・?」

「そうだ。その後どうなった?」

「内部抗争でないとわかると、犯人はヒーローの如く祭り上げられ・・・・はっ!」

何かに気付いたマツサカは、再度視線をジンに向けた。

「あれで一般市民もマフィア相手に立ち上がった。それが今の反マフィア法制定のきっかけになったんだよ。」

「まさか・・・・この男が・・・・?」

「まぁそういう事だ。だけど心配すんな。こいつは誰彼構わず殺したりしない、やるのは社会の敵だけだ。」

「しかし・・・・」

マツサカは再び言葉に詰まった。


「構成員諸君、大人しく投降しなさい!さもなくば突入し、抵抗すれば発砲する!」

「てめえら!一歩でも入ったらぶっ放つからな!!」

そうこうしていると、現場指揮官が拡声器で事務所ビルに投降を呼び掛け始めた。

本部敷地内の組員達も怒号を飛ばす。

「おっ!いよいよおっ始まるな。ジン、頼んだぞ。」

「あぁ。」

マツサカは最初から気にはなっていたが、ジンはリュック型のギターケースを背負っていた。

「なっ!?」

それを降ろすと、何と中から出てきたのは日本刀であった。

ジンはその刀を慣れた感じでジーンズのベルトに鞘を差し込む。

「警部!」

「そう、これがこいつの武器だ。」

「そんな・・・・相手は何十人、しかも重火器を所持してるんですよ!」

「ふっ、まぁ見てろ。」

オオガミはニヤリと笑った。


そしてジンは、足元のマンホールの蓋を開け、その穴に吸い込まれていった。


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