卒業式まで待てない
最後のエピソードは全く異なるモチーフで書きました。
昨年末で10年間勤めた職場を退職した私の体験と退職前3週間くらいの悩みと不安を卒業式直前の女子高生を主人公と大胆に設定を置き換えました。
これはある女子高生のお話です。
高校2年の1学期の期末試験が終わり早帰り。
駅前のマックに行ったら隣の列にその頃、気になり始めていたえびな君がいた。
ほぼ同時に精算が済んだ。
空いているふたりがけのテーブルを見つけた。
またとないチャンスだと思い切って誘ってみた。
「ちょうどあそこ空いてるよ。」
「俺、ひとりがいい。」
彼はカウンター席に行ってしまった。
家に帰ってベッドに倒れこんだら急に涙が出て来た。
リサにLINEした
「駅前のマックでえびなくんに一緒に座ろうって言ったらm(._.)mされた(><)」
ちょっと気になるくらいでそれほど意識していない相手だったのに冷たくされて、何故か感情が爆発した。
恋に落ちるってこういうのだと思った。
数日後、私を元気づけようとリサがカラオケに誘ってくれた。
2時間カラオケしたあとお腹が空いていたのでミスドで恋バナを1時間した。
私はリトグリのC Dについていた缶バッジを通学カバンにつけていた。
「それ、リトグリだよね?あおいってリトグリ好きなんだ。」
彼に話しかけられた。
「うん。えびな君もガオラー?」
「そこまでじゃないけど、歌番組とか見ていいなって思った。」
「歌番組、見るんだ。どんな音楽聞いてるの?」
「ガッツリじゃないし、誰推しとかないけど乃木坂あたり。」
こうやって、彼と共通の話題が見つかり学校でたまにおしゃべりする様になった。
一方、リサとは放課後、よく教室で二人きりでおしゃべりしていた。
3年の2学期頃から、リサが帰り支度が済んでいるのに話しをやめて、先に帰っていいよオーラを出している日が時たまあった。
一方、そんな日はえびな君が学校から少し離れたところで自転車を停めてスマホを見ていた。
誰かを待っている様に見えたけれどあまり気にかけていなかった。
卒業式のひと月前。
放課後、通学の近道にしている神社の境内をえびな君とリサが並んで歩いていた。
ショックだった。
ずっと片想いだった。
最初、その話しを聞いてくれたリサ。
そのリサに裏切られた。
でも楽しい思い出もいっぱいある。
卒業したら新しい出会いがきっとある。
新しい恋を見つけよう。
今度は泣かなかった。
卒業式まであと3週間。
卒業式には彼に話しかけたい。
最初はそれだけだった。
「一緒に写真撮って」って言ったら撮ってくれるかな?
「ずっと好きでした」って告白しよう。
そんないろんな妄想が浮かんでは消える。
卒業式当日、彼に話しかけるシチュエーション作れる?
他の人に囲まれて近づけなかったらどうしよう。
いろんな悩みや不安が頭をかすめ夜、眠れない。
目が醒めると、胸が痛いくらいにドキドキしている。
「卒業式まで待てない!」
そうだ、卒業式に出なければいいんだ。
進学してひとり暮らしするのに引越業者が卒業式の日しか空いてなくてキャンセル待ちだった。
自分から電話して空いている日に変えよう。
写真なんていらない。
告白もしない。
卒業式の日みたいにみんながいる所でなくて、ふたりきりでさよならが言いたい。
そう思いついたら気持ちが楽になって、そのままぐっすり眠れた。
以外に早くそのチャンスが来た。
進学の準備で欠席が多く、お昼で帰れることになった。
みんな、はしゃいで大急ぎで学校を飛び出して行った。
彼はいつも通りゆっくり後から教室を出て行った。
下駄箱で彼の横になった。
「ちょっと話したいことあるんだけど。」
「おお、いいよ。校門で待ってよか?」
嘘⁈ 待っていてくれるんだ。
急いで追いかけた。
逃げているかもと焦ったけど校門の外に立って待っていてくれた。
「ごめんね。」
「うん。話って何?」
「私、大学まで遠いんでひとり暮らしするんだけど、3月は引越しの予約取りづらいし高いんで早く引越しするんだ。」
「そうなんだ。」
「卒業式と引越しが被っちゃって卒業式に出れなくなっちゃった。」
「それで?」
「卒業式出ないって、親にも言ってないしクラスのみんなにも秘密にしてる。」
「なんで僕だけ?」
「えびな君とはちゃんとさよならが言いたくて。」
「ありがとう。みんなには内緒にしとく。」
「3年間、ありがとう。楽しかった。」
「僕もあおいみたいにおもしろい奴と話しできて楽しかった。」
「さよなら。」
「うん、元気でな。」
ほんとはリサみたいに並んで駅まで歩きたかったけど、走り出す様に私が先に駅まで歩き出した。
乃木坂の「サヨナラの意味」みたいに後ろ手でピースしながら彼の先を歩いていこうと考えていたけど、彼とふたりきりで話せたのがうれしくて、すっかり忘れていた。