城跡の秘密体験
<ときめきプロファイル>
池田じゅん子(仮名)
高校2年の時、「テントを張る」の隠語を同級生の男子が彼女に話していた。「てしまも山岳部だからテントを張るのは得意だよな」と話に巻き込まれた。その辺で彼女が意味を理解したらしく「てしま君、テント張るところ見せてよ」と言われた。
高校2年の時、池田じゅん子と同じクラスだった。
ある日、教室で友人が「テントを張る」と言う隠語を彼女に話していた。
一緒に会話に参加していた僕に友人が「てしまは山岳部だからテントを張るのは得意だよな。」と巻き込まれた。
下ネタに食いついて来た彼女から「てしまくんがテント張るとこ見せてよ」とからかわれた。
サバサバした彼女はこんな下ネタを言えるが、もうひとり女子も居て、僕は恥ずかしくて何も言えなかった。
日曜日、下通りのアーケードで彼女と偶然出会った。
高校時代の僕は女の子と話しをするのが苦手で恥ずかしがり屋だった。
彼女はルックスは地味だがサバサバして、気を使わないで済むタイプだった。
自転車を降りて「何してるの?」「本屋。」程度の会話をした。
マクドナルドに行くつもりでそこを歩いていた。
僕がマクドナルドに入ると遅れて彼女も入って来た。
「何だ、やっぱりマックか。」
店内が比較的に混んでいたので相席みたいな感じで向かい合わせで座った。
クラスの中で男子人気がある方とはいえない子とはいえ女子とふたりでマックにいる。
青春が舞い降りて来た感じでうれしかった。
私服の彼女も学校で見るより割と可愛いなと思った。
その一方で先日の下ネタでからかわれたことを思い出した。
あの時は恥ずかしくて彼女に何も言えなかったが、家ではどこか人のいないところで触らせて「テント張る」のを見せたいと妄想していた。
「もうこれから帰るの?」と彼女が聞いた。
女子をどこかへ誘ったりする自信がなかったので「ちょっと自転車でブラブラ」と言えば逃げられると思った。
「ついてっていい?」
意外な返事が返って来た。
店を出て行き先も決めずに自転車を漕いでいると本当に後ろをついて来ている。
彼女がどこまでついて来るか、デートコースの様な所に行けば確かめられると思いお城の中の芝生やベンチのあるところに行ってみようとお堀を渡った。
駐輪場に自転車を置いてチケットを買おうとしたら彼女が横にいたので二枚買った。
「ありがとう。ここ滅多に来ないの。」
芝生の広場は天気も良く、ベンチはカップルでいっぱいだった。
気まずくて僕の方が恥ずかしくなった。
彼女は警戒するどころかなんとなく寄り添ってくる気配がした
「みんなラブラブだね。興奮する」と彼女が思わぬ言葉を口にした。
周りの雰囲気と彼女の言葉に僕も気持ちが大きくなった。
「座るとこないなぁ。上に行ってみよう。」
中学の頃からひとりでお城の中をあちこち探検していたので石段を上がると昔の櫓の跡が石垣に囲まれている穴場があるのを知っていた。
「やっと、ベンチがあった。」
石垣で囲まれた死角のような小さな広場の片隅に座った。
「てしまくん、山岳部だよね。」
僕も意識していた先日の下ネタワードにいきなり近づいて来た。
誰にも見られていないし、そんな所で言い出すなんて冗談でなく、少し願望もあったのかと勇気が湧いて来た。
「テント張るんでしょう?」
「うん...。」
それでも恥ずかしくて言い出せなかった。
「ふーん。」
しばらく沈黙が続いた。
「テント、テント。」
小声で彼女が呟く。
「池田さん。」
「ん?」
「もう、張ってる。」
怒り出すのではと不安になったが、
「触っていい?私も触っていいから。」
彼女が僕の腕を取り左胸に当てた。
生まれて初めての柔らかい感触に感激した。
この感触をもっと味わっていたかったが僕はその手で彼女の腕を取ると僕のズボンの上に乗せた。
翌日以降、学校で彼女と直接話しはしないが目を合わせることがたびたび有った。
お城での感触と快感が忘れられず、彼女の僕を見る目も何かを求めている様に思えた。
「飯田丸の続きしない?」
メモを彼女のカバンに入れた。
しばらく何の反応もなかったのでメモは無視されたと思っていた。
期末試験の期間中、廊下で彼女とすれ違ったら物陰に呼ばれた。
「試験が終わったら、家に遊びに来ない?」
「でも家族もいるんでしょ?」
「てしまくんたち、試験終わりに打ち上げって誰かん家に泊ってトランプとかしてるんでしょ?そっちに行かなきゃ駄目かな?」
「いや、打ち上げって口実で夜中に家を抜け出しても僕は親に怪しまれないけど、夜中に池田さんち、行っていい?」
「来れる?大丈夫だよ。夜中なら誰にも気付かれないから。」
こうして、16歳で僕は彼女と結ばれた。
交際から発展しそのゴールとして関係を持つと言う流れではなかった。
ちょっとした冗談と偶然から「若気の至り」で深い関係になった。
それでも「初めての人」というかけがえのない相手に対する気持ちが恋愛感情に変化していった。
何度か肌を重ねていく中で僕は初めて手に入れた宝物を心の底から愛しんだ。
未熟だっただけに情熱はより強く、それを彼女は心と身体で受け入れた。
彼女もいろんな意味で尽くしてくれた。
おとなになる中間で身体だけでなく心と心が結ばれた。
割と早い段階で互いの家族とも会うようになり、自然で飾らない関係を続けることができた。
彼女は薬学部を出て薬剤師になっていたので経済的に自立していた。
互いにこのまま10年経つと飽きるか目移りするかもと思うようになった。
それで早くも社会人2年目で結婚することにした。
結婚式の二次会で彼女の友人が酔って話し出した。
「高2の頃は、私たち卒業して大学、社会人になったらもう男に相手にされないから、競争率の高い今のウチに将来の相手見つけとかなきゃって、言ってたけど池田はしっかり捕まえたよね。」
部屋に戻り彼女が話し出した。
「てしまくん。さっきの嘘だからね」
「それより、結婚したから呼び方変えよう。」
「なんてよばれたい。ひろしさんでいい?」
「なんか照れるな。ひろしくんって呼ばれるとちょっと興奮するんだ。」
「変態か。まあ名字はおかしいけど昔から友達感覚だからくんづけでいいか。私は?」「じゅん子って呼び捨てしっくりこない。じゅん子先生は?」
「何それ?先生にひろしくんで幼稚園ごっこ?やっぱ変態?」
「ひろしもじゅん子もいっぱいいる名前で平凡でつまらないし、一応、薬剤師じゃん、先生でいいよ。」
「家庭に仕事持ち込みたくないけど。」
「それより、最初の嘘って?」
「桜木たちの話し。高二のうちに男捕まえとかなきゃって。」
「うん、そうなんでしょ。」
「確かにそういう話はしてたけど、はっきり言って、あなたに興味はなかったし、わたしも誰かと付き合えるなんて考えてなかった。」
「なんで僕たち付き合うようになったっのかなぁ?」
「マックで一緒になった時、目を見て話を聞いてくれて、ちょっとときめいた。」
「そこまで、詳しく覚えてないけど。多分、あの頃クラスの女子とほとんど話をしたことがなくて、全員の名前と顔が一致しなくて。しかも制服でなくて私服だったから、呼び方間違えないように名札代わりになるもの探していたかも。」
「だよね。ふたりとも割とそういう薄~い存在から、その後、一気に行くとこまでいっちゃって。」
「青春のエネルギー。」
「かっけぇ。」
「青春のエネルギー。もう一回、爆発させよか?じゅん子・・」
「先生」は唇を塞がれ、そのまま部屋の明かりを消した。