それでもさゆみを愛してる
<登場人物プロフィール>
吉岡さゆみ(仮名)
私の社会人2年目に入社してきた1年後輩。同じ職場で隣の席だった。私が海外赴任したため一緒に過ごしたのは2年間あまり。にもかかわらず、夢日記が長く描写が具体的なように夢日記登場回数が131回とダントツに多い。(2位の人物で76回)
<夢日記>
2019年9月12日
仕事終わり屋台の様なところで女子ばかりが横に並んで食事している。その前を通ったら声をかけられ、さゆみが左隣を空けて「ここに来て」と言うのでそこに自分が座る。信じられないくらい話が盛り上がる。右隣からくっつくくらいに寄りかかり酒注いだりしてくれる。さゆみが自分とののろけ話を他メンバーに話したりする。さゆみが「先に帰りたい。自転車置いてあるから送ってって。」自転車置き場から後ろにさゆみが立ち乗りして杉並区から世田谷区方面、井の頭線に沿って途中団地の様なところに入り込む。「こっちでいいんだっけ?」「うん」「ところでさゆみのいちばん上の子、今年いくつになった?」「大学1年。」「ふ〜ん」「中学は桜ヶ丘だったけど、日本語ついていけなくて。」大学の寮の様なところに迷い込み、木内という人の部屋で何故さゆみと一緒なのか、どういう関係か聞かれる。中学の同級生とだけ答える。
2021年9月12日
広くて真っ直ぐな道を大勢で同じ方向に歩いている。僕の少し後ろにさゆみがふたりの男に挟まれ守られながら歩いている。「そう言えば今年になってさゆみと一言も話してないな」と気づく。さゆみの近くに寄ってわかったのがさゆみは誰とも会話しないし仕事を指示すると拒絶するらしい。男たちはそれが知られない様に何者かの指令で隠している。僕がその事実を知ったせいなのか神霊者の指令でさゆみを連れ戻しに来た。意思のないさゆみと数名で群集から抜け出し逃げる。広い道から細い道に入り空き家に逃げ込む。僕も後を追いながら捕まえに来ようとする自転車を止めて壊し逃走を手伝う。僕も空き家で追いつきひと安心するが間に合わなかったらしく、救急車のサイレンや「保険証は持ってる」など聞こえてさゆみは連れて行かれる。さゆみの母親から話しかけられて「あの子は元々魂を奪われていた」と教えられる。僕は「それでも僕はさゆみを愛してる。」と思う。
数年後、新潟へさゆみに会いに行く。面会を申し込んで待っている間、ロビーに分厚い新潟県の名簿集がある。糸魚川高校の卒業アルバムがないか探すがなかなか見つからない。
会社で防災避難訓練があった。
各フロアから駐車場に集合して、近くの指定避難場所まで全社員、歩いて移動している。
僕の後ろにさゆみがいる。見知らぬ人間ふたりに挟まれている。ガードされている様な雰囲気だ。
「そう言えば今年になってさゆみと一言も話してないな」と気づいた。
気になって、歩みを緩めさゆみに近づいた。
突然、電波が混線する様にさゆみをガードしている人物の思考が僕の脳に飛び込んで来た。
「さゆみは誰から話しかけられても受け応えできなくなっている。仕事を与えても処理できない。拒絶してしまう。周囲に気づかれないよう、幻覚を見せてさゆみの存在を消そう。」
ふたりの見知らぬ人物はさゆみを連れて、避難訓練の列から離れ細い道に進んで行った。
僕はさゆみを救いたくて彼らをそっと追いかけた。
古い空き家に逃げ込んだ事を確かめて、訓練から抜け出したことがばれていないか心配になり、少し後戻りして確かめた。
先輩が自転車に乗ってやって来た。
僕は先輩に話しかけ、嘘を言って自転車を借りると、折りたたみ式自転車をたたんでロックし鍵を捨てて乗れなくした。
先程の空き家に忍び込むとさゆみが隠されている様だ。
しかし彼らが先に手を打ったのか救急車のサイレンが聞こえて来た。
救急車に乗せてどこかへ連れ去るつもりらしい。
救急隊員に「保険証あります」などと話している。
いかにも急病の素振りをしている。
あきらめていると別の見知らぬ人物から話しかけられた。
性別・年齢ははっきりしないがさゆみの母親という目線で話している。
「あの子は元々、魂を奪われて、あなたたちはずっと幻覚を見てたのよ。」
連れ去られていくさゆみを見ながら僕はつぶやいた。
「それでもさゆみを愛してる。」
母親らしき人物に雑草が生い茂る空き地に案内された。
「あの子はずっと前に亡くなりました。理由は言えないしその事実を知られたくないので魂のない人格として生き返って、みんなの前にずっと前から居た様に存在させていました。」
僕はにわかには信じられなかった。
ちょうど2年前のあの楽しかった日。あれはやっぱり夢だったのか?それとも言われる様に幻覚だったのか?」
【2年前】
仕事終わり。
屋台の様なところで女子ばかりが横に並んで食事している。
その前を通りかかるとさゆみに声をかけられ、左隣を空け「ここに来て」と言うのでそこに座る。
信じられないくらい話が盛り上がって、右隣からさゆみが寄りかかりお酒を注いでくれた。
さゆみは僕のことを他の子に話し始めるがほとんどのろけ話になってくる。
そのうちさゆみが「先に帰りたい。自転車置いてあるから送ってって。」と言い出した。
駅前の立体駐輪場から僕がさゆみの自転車を降ろして、後ろにさゆみが立ち乗りして杉並区から世田谷区方面、井の頭線に沿って途中団地の様なところに入り込む。
「こっちでいいんだっけ?」
「うん」
坂道を登り団地を抜け通りに出た。
さゆみの家の前で自転車を降りた。
「ありがとう、ここでいいから。」
僕はここまで来たら入れてくれるかもと期待が膨らんだ。
「お茶でも・・」
「えっ!いいの?」
「なーんて訳ないでしょ。兄貴がもう帰ってるし。」
「だよね。じゃ、また明日、会社で。お休み。」
「お休みなさい。ありがとう。」
やはり、あんなさゆみはあの日一日だけでずっと僕を無視していた。
でもあれが夢か幻覚として、今日の避難訓練から非現実的なのはこちらではないか。
そもそも、ここはどこなのか?
墓地か古いお寺の様で塔婆はあるが墓石はないし母親は手を合わせない。
避難訓練で居た人物も母親らしき人物も姿形がはっきりしない。
会話はしていなくて情報だけが電波の様に僕の脳に飛び込んで来る。
その後のことは何もおぼえていない。
避難訓練そのものが嘘だったかの様に何もない普通の日常が続いていた。
そして、僕の記憶の中からさゆみが消えてしまっていた。
【数年後】
僕は引越しの準備をしていて、古い年賀状の中から「吉岡さゆみ」と言う名前を見つけた。
記憶から強制的に消去されていたさゆみは実在したのでは?
同じ段ボールから当時の職場の住所録が出てきた。
さゆみの名前も杉並のアパートの住所もあった。
更に当時は年末年始の緊急連絡先も登録する仕組みで新潟の実家の住所もわかった。
さゆみに会えなくてもいいから、行ったことの無い新潟県に急に行ってみたくなった。
有休を取って、新潟へ自分の車を運転してひとり旅に出かけた。
小さい町なので住所だけでさゆみの実家の時計店はすぐ見つけられた。
いきなり訪ねていく訳にもいかず外から今は使われている気配のない窓を見上げていた。
「高校時代までたぶん、あの二階にさゆみが住んでいたんだな。」
ところが家の前に車がつけられたと思うとさゆみ本人が家の中から現れ車に乗りこんだ。僕は後を追いかけた。
日本海を望む高台の大きな病院にたどり着いた。
しばらくして、さゆみを乗せて来た両親らしきふたりだけ戻って帰って行った。
おそらくさゆみがここに入院していて、週末に外泊許可をもらい実家で過ごしたのだろう。
なんとか理由をつけて面会できないか考え、年恰好からさゆみの兄と偽って面会票を書いた。
病棟のラウンジで面会できるらしく、そこで待っていた。
ラウンジは図書室も兼ねていて、その週の地元の新聞だけでなく本棚には縮刷版があり、更に地元の学校や企業の名簿や卒業アルバムも何故か並んでいた。
さゆみに会えなかった場合、せめて高校の卒業アルバムだけでも見てみたいと「糸魚川高校」の卒業アルバムを探したが見つけられなかった。
そのうち、看護師が来て「お兄様なら病室にいらして結構ですよ」と言われた。
病室を案内される途中、
「妹さん、部屋から出たくないらしくて」と言われた。
僕は新潟を訪れて以来、あまりにも物事がうまく進むので、奇妙な感覚を覚えた。
さゆみが僕のことをおぼえているのか。兄と偽ったことに不信感や恐怖心を感じないか。
病室に入り、さゆみはカーテンを開けていたので病室の入り口ですぐ目と目があった。
どう声をかけていいかわからなかったがさゆみは驚いた様子ではなかった。
これといった挨拶も会話もなく、あたかもよく見舞いに来る兄と会っているかの様な雰囲気であまり近づかないで病室にたたずんでいた。
外泊直後でリネンの交換もしてるのにさゆみの体臭らしきほんのり甘酸っぱい空気を微かに感じた。
好きな女の子の匂いに性的刺激をおぼえるのではなくむしろ、妹の様なずっと幼い頃から感じている空気に包まれていた。
ほんとはさゆみは僕の妹だったのか?
だから、色々な偶然が重なり、病室で面会できているのか。
そんなことを考えながら窓の外の日本海を眺めていた。
さゆみはほとんど口を開かない。
僕も何を話していいのかわからない。
たまに他愛もないことを言うと目を合わせずにタメ口でつぶやいている。
いったい、僕は誰なのか?
ここにいるこの子は何者なのか?
僕のことをおぼえているのか?
そもそも知っているのか?
さゆみという女性と職場で一緒だったこと。
慰安旅行の遊園地でアトラクションに誘い隣りに乗せたこと。
屋台で飲んで自転車で送っていったこと。
そしてホラーの様な避難訓練。
どれが現実でどれが幻覚なのか?
全部、夢だったのか?
今、ここでふたりきりでいる空間。
これも現実なのか幻覚なのか?
そんな謎だらけの中、ただひとつ僕の心に確実に存在しているものがある。
「それでもさゆみを愛している。」