パパのお菓子は、恋の味
「ん~。」
パパが険しい顔をしてる。
「ねぇパパ。無理しなくていいよ。」
今日は私の7歳の誕生日。だからパパがケーキを手作りするんだって。
「だ、大丈夫だよ!心配するな!美味しいの、作るから。」
でもパパはケーキなんて作ったことないの。だから、ほら。
「あ!こぼれた!分量変わるかな?よし!もう一回!」
失敗しながらも、土台のスポンジはなんとか出来上がった。作り初めてから、2時間が過ぎてる。
「よし!今度はクリームだな。」
パパは意気揚々と、クリームの袋を手に取った。
でも…。
「あっ!」
袋を掴む力が強すぎて、スポンジに塗るはずのクリームがキッチンの作業台にジャンプ。それをパパは手で拭って、クリームを口に入れる。
「うん!甘い!」
「パパ、スポンジに塗ってよ。」
「ごめん!ごめん!」
「よし!今度はフルーツをのせよう!」
「私も手伝う!」
パパが作ったスポンジに、不格好に塗られた生クリーム。見た目は…60点かな?でも、色とりどりのフルーツを飾れば…うん。100点!
作り初めてから4時間後、完成したパパ手作りのお誕生日ケーキを、お互いに一口。
「うん!おいしい!」
最初は心配したけど、ちゃんとケーキになってる。何よりも私の好きなフルーツばかりをのせてくれたパパの気持ちが嬉しい。
でも、パパの表情は浮かない。
一口食べただけで、フォークを置いちゃった。
「ごめんな…ママのようには作れなかった…。」
そう呟いたパパは、目元を押さえた。
ママが死んでから半年。
パパはママが居なくなって、私が寂しくないように、いつも明るく元気に振る舞ってた。でもやっぱりパパの中にはママを亡くした悲しみが残ってる。
「ママの作ったケーキは、もっとふわふわで…クリームだって、こんなにべちゃってしてなくて…甘くてうまかった。」パパはママの味をよく覚える。だから私は思うの。
「パパの手作りケーキ、おいしいよ。だって、パパのケーキは甘いもの。」
「え?」
「ママが言ってたよ。ママが作るケーキがおいしいのは、私とパパに恋してるからよって。好きな人を想って作るケーキは、甘くておいしいんだって。パパは私が好きでしょ?」
私がそう言うと、パパはビックリしたような顔をして、でもすぐに涙が溢れて声を出して泣いちゃった。
「そうか…ママが…」
そう言いながらパパは器用に泣きながら笑ったの。
「パパ、食べよう。」
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